SPnet 選任業務編



10-2-4-2 .読者からの指摘 「二級検定テキストの記載誤り」について

1.読者からの指摘


北海道で警備員をされている方よりメールをいただきました。
昨年秋に交通誘導検定二級に合格されたそうです。

勉強中に道交法36条に関する検定テキストの記載に疑問をもち、
テキストの編集者である全国警備業協会に質問しているのですが、納得できる答えをもらえないそうです。


36条は条文の記述が込み入っています。
さらに、テキストの説明も簡単明瞭でないので余計分からなくなります。
検定二級講習を受けている方も困っていると思います。

ここでは、読者からの指摘を考えてみようと思います。
以下では便宜上この読者をAさんと記述します。


まず、36条についての説明を読んでください。→→→こちら


2.検定テキストの記載間違い指摘 @


Aさんの指摘その@は、
交通誘導警備業務の教本(2級)・72頁20行目
※平成23年1月27日発行・11版
※私のテキストは平成22年7月14日・10版ですが同じです。


a.道交法36条.(交差点における他の車両等との関係等)

車両等は、
  交通整理の行なわれていない交差点においては、
  次項の規定が適用される場合を除き、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に掲げる車両等の進行妨害をしてはならない。

  一.車両である場合 その通行している道路と交差する道路(以下「交差道路」という。)を左方から進行してくる車両及び交差道路を通行する路面電車
  二.路面電車である場合 交差道路を左方から進行してくる路面電車

  2.車両等は、
     交通整理の行なわれていない交差点においては、
     その通行している道路が優先道路( 略 ) である場合を除き、
     交差道路が優先道路であるとき、又はその通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるときは、
    当該交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。

  3.車両等(優先道路を通行している車両等を除く。)は、
     交通整理の行なわれていない交差点に入ろうとする場合において、
     交差道路が優先道路であるとき、又はその通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるときは、徐行しなければならない。

  4.車両等は、
     交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、
     当該交差点の状況に応じ、
     交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、
      かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。」



b. テキストの記述


テキストは上の条文をあげたあと、次のように説明しています。

『 本条は‥規定したものである。
 「交通整理の行われていない交差点」とは、
 信号機の表示する信号による交通整理も警察官等の手信号による交通整理も行われていない交差点のことであり、
 
「交差点内において」とは、交差点の中はもちろん、交差点に入ろうとするときも含む

 このような交差点において異なった方向の道路から同時に又はそれに近い状態で車両等が通行した場合、
 交差点内で危険が生じたり、交通の円滑が阻害されたりするおそれがあるので、この規定が設けられている。

 第1項は‥。』


c. Aさんの指摘


@テキストの「交差点内において」とは36条のどの文言か?

「交差点内において」とは「交差点において」( 36条1項・2項)の間違いではではないのか?

Aテキストの「交差点内において」を36条1項・2項の「交差点において」だとすると、
36条1項・2項は「交差点に入ろうとするとき」にも適用されることになる。

36条1項・2項は交差点内での優先順位を定めたもので、交差点に入ろうとする場合には適用されない。
36条は「交差点において」( 1項・2項)、「交差点にはいろうとする場合において」(3項)、「交差点に入ろうとし」・「交差点内を通行するときは」(4項)と区別している。

36条1項・2項の「交差点において」とは「交差点内」のことで「交差点に入ろうとするとき」は含まれない。

テキストの記述は『「交差点において」とは「交差点の中」の意味である。』と変更されなければならない。


d. 考察


Aさんの言う通りです。
全警協は分が悪いですね。

しかし、どこかで議論がすり変わっている気がしませんか?


果たして、テキストの「交差点内において」とは36条1項・2項の「交差点において」なのでしょうか?


テキストは「本条は‥、」と説明を始めています。
「交差点内において とは‥」の説明はこの中にあります。

このあと、「第1項は‥」と各項の説明をしています。

つまり、「交差点内において とは‥」の説明は36条1項・2項の説明ではなく、36条全体の説明で使われているのです。


テキストが言いたいことは次のようなことなのです。

『交通整理が行われていない交差点では、
どちらが優先するか・劣後する方は何をしなければならないかを決めておかないと交通が渋滞したり事故が起こったりする。

そこで、36条は交差点での優劣とその内容を定めた。

ここで「交差点での」とは「交差点の中」だけでなく「交差点に入る場合」も含んでいる。

36条は、
1項・2項で「交差点の中での優劣とその内容」を、
3項で「交差点に入ろうとする場合の優劣とその内容」を、
4項で「優劣に関係なく、交差点に入ろうとするとき・交差点を通行するときの義務」を定めている。


それでは、各項の説明に移ろう。

まず第1項は‥。』



このように書けば問題はなかったのです。

要するに説明が下手なだけなのです。
教えかたが下手なだけなのです。


この議論はテキストの「 交差点内において 」 を 36条1項・2項の 「 交差点において 」 と読み替えたことで、すり変わってしまったのです。

全警協テキストは36条1項・2項の「交差点において」に「交差点に入ろうとする場合」を含めるとは言っていません。
また、「交差点に入ろうとする場合」と「交差点の中」ははっきりと区別しています。
テキスト74頁の36条3項の説明ではこの二つを区別していますからね。


3.検定テキストの記載間違い指摘 A


Aさんの指摘そのAは、
交通誘導警備業務の教本(2級)・73頁22行目

36条1項・2項についての説明部分です。


a. 条文

カーソルを上に移動するのはめんどうでしょうから36条1項・2項の条文をもう一度上げます。

36条1項・2項

「車両等は、
  交通整理の行なわれていない交差点においては、
  次項の規定が適用される場合を除き、
   次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に掲げる車両等の進行妨害をしてはならない。

  一.車両である場合 その通行している道路と交差する道路(以下「交差道路」という。)を左方から進行してくる車両 、及び‥略‥。
  二.略

  2.車両等は、
     交通整理の行なわれていない交差点においては、
     その通行している道路が優先道路( 略 ) である場合を除き、
     交差道路が優先道路であるとき、又はその通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるときは、
    当該交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。



b. テキストの記述


Aさんの問題とする部分は36条2項についての説明です。
テキストでは次のように説明しています。


『なお、「その通行している道路が優先道路である場合を除き」とは、
  優先道路と優先道路が交差する場合 及び 明らかに広い道路と交わる狭い道路が「優先道路」となっている場合のことであり、
  その優先道路を通行している車両等にはこの項の規定を適用しないという趣旨である。

  このような場合、第1項の規定にいう「次項の規定が適用される場合」には当たらないので、
  同項の「左方車両等への進行妨害の禁止」義務が適用されることになる。』


もっと分かりやすく説明しろぉ〜ッ!
こんな説明で金を取るなぁ〜ッ!

これはAさんが言っているのでも私が言っているのでもありません。
このテキストを読んだ受講生が心の中で叫んでいることです。


要するに、テキストが言いたいのは、

・「その通行している道路が優先道路である場合を除き」→イ.自分が非優先道路
・「その通行している道路が優先道路である場合」→ニ..自分が優先道路
・「交差道路が優先道路であるとき」→ロ.相手が優先道路
・「その通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるとき」→ハ.相手が明らかに広い非優先道路

@イ VS ロ→非優先道路 VS 優先道路 →優先道路が優先 ( 36条2項の適用 )
Aイ VS ハ→非優先道路  VS 非優先道路・明らかに広い→広い方が優先( 36条2項の適用 )
Bニ VS ロ→ 優先道路 VS 優先道路 →左方優先 ( 36条2項で除かれるから原則に戻り36条1項の適用 )
Cニ VS ハ→優先道路 VS 非優先道路・明らかに広い→左方優先 ( 36条2項で除かれるから原則に戻り36条1項の適用 )


そうですよねぇ?全警協さん‥。


c. Aさんの指摘


優先とは「他に勝ること」であり、「優先道路VS優先道路」というのはおかしい。

優先道路と優先道路では、お互いの優劣がなくなる。
つまり、テキストの言うB「優先道路VS優先道路」とは「非優先道路VS非優先道路」のことである。


36条2項は「非優先道路  VS 非優先道路・明らかに広い」については定めているが、
「非優先道路VS非優先道路」については定めていない。

「非優先道路VS非優先道路」については36条2項の「除き」によって36条1項が適用されるのではなく、36条2項を経由しないで36条1項が適用される。

つまり、テキストBの「優先道路VS優先道路」を36条2項の適用から除外するべきだ。


そうですよねぇ? Aさん‥。


d. 考察


Aさんにこう指摘された全警協はどうするでしょうか?

『そういう解釈も成り立つね‥。』 で終わりです。

もちろん、テキストの記述を変更することはありません。

テキストの記述誤りや説明不足ならテキストの記述を変更・改訂する必要はあるでしょう。
しかし、解釈に優劣はあっても正誤はありません。

Aさんの突きつけたのは解釈論争なのです。


法解釈は法律の条文の文言を解釈する作業です。

法律制定時より社会が変化して条文が社会に合わないものになったとき。
条文の意味がはっきりしないとき、条文同士に矛盾があるとき。条文が欠落しているとき。

そのようなときに:条文の文言を拡張したり類推したり、他の条文との関係を持ち出したりして、法律を変えていくのです。

しかし、条文の文言解釈である以上限界があります。


たとえば、優先道路について36条2項は “ かっこ書き ” で次のように定義しています。

‥優先道路 (道路標識等により優先道路として指定されているもの
   及び当該交差点において、当該道路における車両の通行を規制する道路標識等による中央線又は車両通行帯が設けられている道路
   をいう。以下同じ。)‥。」

道交法上、優先道路は
@道路標識等で優先道路と指定されているもの
A車両の通行を規制する道路標識等によって中央線やを車両通行帯が設けられているもの。

いかに実際の必要性があっても、解釈論では優先道路をこの二つ以外に認めることはできないのです。
実際の必要性は解釈論ではなく、立法論として論じられるものなのです。


法解釈によって実際の必要性を手当することができなくなれば、法律を改正して法律を変えることになります。


また、法解釈は文言解釈なので、「説得力のない解釈」はありますが「間違っている解釈」はありません。
逆に言えば「説得力のある解釈」はありますが「正しい解釈」はありません。

「その解釈が正しいかどうか」を判定するのは個別事件で判断を下す裁判官であり、最終的には国民の意思を代表する立法府なのです。

このように書くと、法解釈論は無力なように感じられます。

しかし、異なった解釈が成り立つからこそ「裁判を起こそう」とするのであり、
「無理な法解釈をしなければ、現行の法律が社会の実情に合わない」と判断されるからこそ法改正が論議されるのです。

法解釈は法律の適用と改正の原動力なのです。


話を「法解釈に優劣はあるが正誤はない」に戻します。

36条2項の「その通行している道路が優先道路 である場合を除き」の解釈として、

全警協のように「@非優先道路 VS 優先道路、 A非優先道路  VS 非優先道路・明らかに広い  B優先道路 VS 優先道路   C優先道路VS 非優先道路・明らかに広い」
の4パターンが出てくると解釈するのも一つの解釈。


Aさんのように、
「優先道路VS優先道路」というのはおかしい。
「優先道路VS優先道路」というのは「非優先道路VS非優先道路」のことで、これは36条2項の適用から外れていると解釈するのも一つの解釈。

また、これらの中間にあって、
「優先道路VS優先道路」は36条2項の適用を受けるが、
「優先道路と優先道路に優劣関係は存在しない」から、36条1項の適用を受けるのは当たり前である。
36条2項の「優先道路VS優先道路」は当たり前のことを規定しているだけだと解釈するのも一つの解釈。

どの解釈も「誤り」ではありません。


なお、どの解釈でも結果も同じです。
36条1項により左方優先となります。

違うのは「36条2項の適用により36条1項が適用されるのか」・「36条2項の適用を受けずに36条1項が適用されるのか」です。


『そんなものどちらでもいいでしょッ!』

いやいや法律は理詰めでなければなりません。



解釈論争は自分の著書の中で行います。
ホームページでも行えます。

たとえば、
『全警協編集の2級検定教本〇〇頁にはこう書いてある。
  しかし、これは△△と□□の理由により解釈として妥当ではない。
  私は××と解釈するべきだと思う』と発表する。

これに対して全警協が反論します。

この論争を読んだ者がまた反論します。
新しい解釈を主張する者も現れます。

このようにして解釈論争が高まっていくのです。


Aさんが全警協に自分の解釈を突きつけてテキストの記述を変更するように要求しても、全警協がそう簡単にテキストの記述を変更することはないでしょう。


4.全警協のテキストは根拠を示さない


全警協の警備員向けテキストの記述は、すべて「〇〇である」・「〇〇しなければならない」と断定的に書いてあります。
その根拠が示されていません。

それが条文に定められているものなのか、条文解釈の通説なのか、最高裁の解釈(判例)なのか、下級審の解釈(裁判例)なのか、警察庁の解釈なのか。
それを示さず、すべて「〇〇である」・「〇〇しなければならない」と書いています。


法律書なら、次のように表現を異にしてその根拠を示しています。
「〇〇である」(〇条〇項)、「〇〇と解するのが通説である」、「最高裁は〇〇としている」(最高裁〇年〇月〇日)、
「〇〇とする裁判例がある」(〇〇高裁〇年〇月〇日)、「警察庁の解釈運用基準では〇〇とされている」、「〇〇と解すべきだが△△と解する者もいる」

「〇〇である」ことの根拠を示さなければ、それ以上の論争ができないからです。


全警協のテキストが「根拠を示さず断定的に書いてある」のには理由があります。

それは、全警協のテキストは法律書ではなく、警備員の手引き書・現場マニュアルだからです。
現場の警備員が知りたいのは一つ、「〇〇である」・「〇〇しなければならない」こと。

解釈論争や別の解釈を持ち出すとややこしくなります。

全警協のテキストは現場の警備員のためのものなのです。


このような編集意図を理解してテキストと接しなければなりません。


私は指導教育責任者資格や検定資格講習を受ける者に注意します。

『講習やテストではテキストに書いてあることが正解。
  それが通説でなくても、最高裁の判断と異なっていてもテキストに書いてあることが正解。
  万が一、条文と異なっていてもテキストに書いてあることが正解。

  テキストに間違いを見つけても気にしてはいけない。
  自分の法律知識をすべて捨て、テキストに書いてあることを覚え、テストではテキストに書いてあった通りのものを選ばなければならない。』


全警協のテキストを法律書だと思ってはならないのです。


なお、私の交通誘導検定二級教本の72頁・20行目を見ると、
「交差点内において」と「交差点の中」と「交差点にはいろうとするとき」にしっかりと○印がしてありました。

なんの疑問も持たずに丸暗記だったのですね。


あっ、そうだ!

明日4月27日は 2号の選任現任講習だった。
我々選任を教えるのは県警の警備業担当。

5000円の講習料を徴収されるから、Aさんの質問をぶつけてみようかな?

いやいややめておきましょう。
他の警備会社の連中に 『 また、SPnetのパフォーマンスかよ‥。』 と嫌がられますからね。 



2012.04.26


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