RMX-SJ13整備資料
2012.03.08.RMX エンジントラブル検証
「混合仕様+IRC-GP210」でのデビュー初日、走行不能となったエンジントラブルの検証です。
・ピストンとシリンダーに大きな損傷なし。
・ピストン、シリンダー、ピストンピン、ピストンリングの測定値と標準値
1.明日のために その①
少し時間ができたのでエンジンを降ろしてみました。
失敗は避けては通れません。
しかし、失敗からは教訓が得られます。
失敗は無意味ではありません。
その原因を考え、同じような失敗をしないことが必要なのです。
『 そんな堅苦しいことを言わないでも‥。エンジンの中がどうなっているのか見たかっただけでしょう? 』
まぁ、そうですけどね。
どうも、歳をとると肩に力が入ってしまいます。
「明日のために その①」 は ジャブの習得から。
これが分かる方は同年代。
2.シリンダーとピストンの状態
まずはシリンダーの状態から。
下の方から見たシリンダー内部です。
シリンダー下部に爪で引っかかるような傷はありません。
写真では縦傷があるように見えますが、これは許容範囲内のものでしょう。
次は上の方から見たシリンダー内部です。
排気バルブポート上部やポート部上部に指の腹で感じる縦傷があります。
特に、排気バルブポート上部には爪で引っかかるような縦傷が二本あります。
今度はピストンの状態です。
ピストンリング上部と下部に深い縦傷。
ピストン側面には無数の擦り傷。
ピストンやシリンダーについた擦り傷は、両者が擦れ合ってできたのでしょう。
しかし、深い縦傷はなぜできたのでしょう。
シリンダーの深い縦傷はピストンリングがつけたとも考えられますが、ピストンの縦傷は何がつけたのでしょう。
排気バルブでしょうか? 排気バルブポートの縁でしょうか?
原因が分かりません。
シリンダーやピストンについてもっと悲惨な状態を想像していましたが、損傷が少なくて驚きました。
「細かいサンドペーパーで磨けば何とかなる」ような気になります。
しかし、ダメなのでしょうね。
これら縦傷から圧縮が漏れるだけでなく、潤滑不足や熱膨張の不均一によりピストンやシリンダーの破壊につながるのでしょう。
シリンダーとピストン等を新品部品にすると、このRMX購入価格の二倍を軽く超えてしまいます。
ゆっくりと中古エンジンを捜すことにしました。
ピストンとシリンダーは置物にしておきましょう。
●●
※a 1( ピストン外径 ):ピストン下端から24㎜上がったところで、
ピストンピンと直角方向を測定。
※シリンダー内径 ( 下表の a 2 ) :シリンダー上端から20㎜下がったところで、
クランク軸と直角方向を測定。
※ピストンピン穴:垂直方向 ( b 1 ) と 水平方向 ( b2 ) を測定。
※ピストンピン ( 下表の b 3 ) :ピストンピンの両端と中央部の三カ所を、
それぞれ十字方向に計六ヶ所測定。
※d 3 :ピストンリングとリング溝の隙間を測定。
ピストンリングを押し込んだ状態で、
シックネスゲージをリングの下に差し込んで測定。
1st は上のリング、2nd は下のリング。
2nd リングはリング下にあるエキスパンダを外して測定。
※d 1 :ピストンリング “ 自由合い口 ” の隙間。
※d 2 :ピストンリングをシリンダーにはめた時の “ 組み立て合い口 ” の隙間。
番号 | 測定部位 | 測定値 | 使用限度 | 標準値 |
a 1 | ピストン外径/下端より24㎜上 | ※67.0㎜-α | 66.88㎜以下 | 66.95~66.965㎜ |
a 2 | シリンダー内径/上面より20㎜下 | ※67.05㎜未満 | 67.05㎜以上 | 67.00~67.015㎜ |
b 1 | ピストンピン穴/垂直方向 | 18.0㎜ | 18.03㎜以上 | 18.00~18.008㎜ |
b 2 | ピストンピン穴/水平方向 | 18.0㎜ | ||
b 3 | ピストンピン外径 | 18.0㎜/六ヶ所とも | 17.98㎜以下 | 17.995~18.00㎜ |
d 1 | ピストンリング自由合い口隙間/1st | 6.2㎜ | 5.1㎜以下 | 6.4㎜ |
ピストンリング自由合い口隙間/2nd | 6.2㎜ | 5.9㎜ | ||
d 2 | ピストンリング組み立て合い口隙間/1st | ※0.55㎜+α | 0.85㎜以上 | 0.20~0.40㎜ |
ピストンリング組み立て合い口隙間/2nd | ※0.41㎜+α | 0.20~0.35㎜ | ||
d 3 | ピストンリングとリング溝の隙間/1st | ※0.07㎜-α | 0.07㎜以上 | 0.02~0.06㎜ |
ピストンリングとリング溝の隙間/2nd | ※0.04㎜-α |
※a 1 ( ピストン外径 ) については測定値が 67.0㎜でしたが、標準値より大きいので 「 67.0㎜-α 」 としました。ノギス測定の限界です。
※a 2 ( シリンダ内径 ) については、直径の設定が難しいため、ノギスを 67.05㎜巾にして挿入。これが入らないから 「 67.05㎜未満 」 としました。
※d 2 ( ピストンリング組み立て合い口隙間 ) はシックネスゲージ差し込みによる測定。実際はそれ以上になるので 「 +α 」 としました。
※d 3 ( ピストンリングとリング溝の隙間 ) はシックネスゲージを挟んで抜けないかどうかで測定。実際はそれ以下になるので 「 -α 」 としました。
各部品はすべて使用限度内に収まっています。
今回のエンジントラブルの原因は各部品の不具合ではありません。
それにしても、エンジンは精密な機械なのですね。
シリンダー内径の標準値は 67.00~67.015㎜、ピストン外径の標準値は 66.95~66.965㎜。
シリンダー内径標準値の最大値-ピストン外径標準値の最小値 = 0.065㎜。
これがシリンダーとピストンの標準隙間。
この隙間をピストンの横方向に二分すると 0.0325㎜。
シリンダー使用限度内径は 67.05㎜、ピストン使用限度外径は 66.88㎜。
シリンダーとピストンの使用限度隙間は 0.17㎜。
この隙間をピストンの横方向に二分すると 0.085㎜。
髪の毛の一般的太さは 0.08㎜とか。
ピストンはシリンダーから髪の毛の 「 半分~一本分 」 しか離れていないことになります。
ここを一分間に8000~10000往復するのですから、各部品の僅かな磨耗や潤滑の不具合がエンジントラブルを引き起こしてしまうのですね。
「細かいサンドペーパーで磨けば何とかなるのでは?」という気持ちはなくなりました。
3.原因と教訓
混合油仕様だから、オイルポンプ系統のトラブルではありません。
今までオーバーヒートしたことがないから、冷却系統のトラブルとも考えられません。
今回もオーバーヒートの兆候はまったくありませんでした。
測定値から判断する限り構成部品に不具合はありません。
今回のエンジントラブルは 「 今までと違うところ 」 から発生したと考えられます。
では、「 今までと違うところ 」 は何だったのか?
それは、高回転で連続走行をしたこと。
4時間ほとんど休みなしで峠道を走らせたこと。
スピードメーターをつけていないので、おおよその回転数も分かりません。
『楽しい、楽しい』と調子に乗ってエンジンに無理をさせたのがエンジントラブルの原因だったのでしょう。
そもそもRMXはオフロードバイクです。
オフロードバイクのエンジンは瞬発力が身上。
バンクやジャンプで瞬発力が必要だからです。
しかし、高回転で連続走行できるようには造られていません。
オフロードでは 「 アスファルトの上を長時間連続走行する 」ような状況がないからです。
このエンジン特性を考えずに、 「 RMXにオンロードタイヤをつけたらオンロードバイクになった 」 と勘違いしたのが災いしたのでしょう。
RMXはNSRにはなりません。
柔道選手はボクサーではないのです。
今回得た教訓は、バイクの特性を考えること。
バイクをその得意分野以外に持ち込むと予期せぬトラブルが起こること。派ぴぶぺぽ
しかし、その「予期せぬトラブル」とは何だったのでしょう?
当初は「焼き付き」と予想していたけれど、ピストンやシリンダーにその痕跡はない。
今回の検証ではそれが分かりませんでした。.
※2019.09.追記
・原因は左クランクシャフトのベアリング損傷。
これが分かったのが、二年後の2014.07.→→→こちら
それまで無駄な回り道をしました。
つづく
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