RMX250-SJ13 整備資料
2015.06.14 RMX④-その⑤/ラジェター詰まり点検,メカニカルシールの点検
エンジン④の冷却水漏れでラジェターをチェック。ラジェターの詰まりなし。
サーモスタットも問題なし。
もう一度メカニカルシールをチェック。
メカニカルシールの点検は「シール部分先端面とインペラ樹脂リング面の密着」だけでは不足。
メカニカルシールのシール部分の磨耗、インペラ樹脂リング周りのゴム部分の磨耗、インペラ取り付けボルトガスケットの磨耗の点検が必要。
取り敢えず、樹脂リングとボルトガスケットを新しくして冷却水漏れは止まる。
・冷却水の流れとラジェター詰まりのチェック方法→「外して水を流す」のが一番簡単
(サーモスタットの点検)
★サーモスタットの構造
★サーモスタットの点検
(メカニカルシールの点検)
★メカニカルシールのはたらきと冷却水漏れを防ぐ四つの方策
★①メカニカルシールのシール部分先端面とインペラ樹脂リング面を密着させる
★②メカニカルシールのシール部分側面とメカニカルシールのケース内面を密着させる
★③インペラ樹脂リング・インペラ取り付けボルトの防水
★④冷却水排出孔
1.冷却系統の詰まり点検
a.疑った理由
RMX④/エンジン④のラジエター詰まりを疑った理由は、
a.エンジン停止中は冷却水ドレン孔から冷却水が漏れないが、エンジンを動かすと冷却水が「ポタリ、ポタリ」と漏れる。
b.メカニカルシールとインペラ樹脂リングに損傷はない。
c.15分程度のアイドリングで冷却水高温異状のランプがついた。
・bから冷却水の漏れはメカニカルシール不良が原因ではない。
・aでエンジンを動かすときにだけ冷却水が漏れるのは、冷却系統がスムーズに循環しておらずメカニカルシールに基準値より大きな圧力がかかるから。
・cで高温異状ランプがついたのは、冷却系統がスムーズに循環していないから。
b.冷却水の流れと詰まりのチェック方法
今までオーバーヒートを起こしたことはなく、ラジェターなど気にしたことはありません。
「冷却水がどのように流れているのか、サーモスタットがどこにあるの」など考えたことはありません。
まずは、マニュアルで冷却水の流れを確認。
(冷却水の流れ)
・シリンダーを冷却して熱くなった冷却水がシリンダーヘッドからラジェターに送られる。
↓
・ラジェターに送られた熱い冷却水はパイプ上部で左右に分かれる。
↓
・熱い冷却水は左右のラジェターの上部から下部へ流れ、フィンから放熱してさまされる。
↓
・左ラジエターの下部に来た さめた冷却水 は右ラジエターの下部に送られ、
右ラジエターの下部に来た さめた冷却水 と合流する。
↓
・さめた冷却水 はウォーターポンプに入りシリンダーヘッドに送られる。
SJ13のことはよく知っているつもりでしたが、こんな基本的なことも知りませんでした。
(詰まりのチェック)
では、この冷却経路の詰まりをどのようにチェックしたらいいのでしょうか?
ラジェターを外せば簡単ですが、外さないでチェックする方法です。
また、ウォーターポンプ入口のパイプは外すと、はめるときにチャンバーがじゃまになって苦労します。
ウォーターポンプ入口パイプごと外してしまえば、はめるときにチャンバーがじゃまになりませんが、このパイプの取り外し・取付を繰り返すとそれだけOリングが損傷してしまいます。
だから、ここではウォーターポンプへのパイプを外さないでチェックする方法を考えます。
もっとも、タンクは外さなければなりませんが…。
①と②の詰まり
・b と d を外す。
↓
・差込口 bを指で押さえて、a から水を入れる。
↓
・b と d から水が出ればラジェター各部に詰まりはない。
※a→①→c→②→d と流れる。
・bとd から水が出なければ、①,②,各パイプのどこかに詰まりがある。
①の詰まり
・bとd を外したまま、cを外す。
↓
・ 差込口bを指で押さえて、aから水を入れる。
↓
・cから水が出れば①に詰まりなし、出なければ詰まりあり。
②の詰まり
・bとdとc を外したまま、c から水を入れる。
↓
・b と d から水が出れば②に詰まりなし、出なければ詰まりあり。
シリンダー冷却経路の詰まり
・d を外したまま、b と c をつなぐ。
↓
・ a から水を入れて d を手のひらで押さえる。
※必ずしも d を塞ぐ必要はない。
↓
・シリンダーヘッドから水が出れば詰まりはない。出なければ詰まりあり。
『そんなこと、いろいろ考えていないで、ラジェターを外して水を入れたらいいじゃない!』
ごもっともです。
上の方法は後から考えたものです。
実際には パイプの土汚れを取るついでがあったので、ラジェターを外してパイプから水を入れました。
写真左では左ラジエターの シリンダー側 d より水を入れています。
写真右では右ラジエターの 。ウォーターポンプ側 f より水を入れています。
各パイプや各差込口から勢いよく水が出ました。
ラジェターの詰まりはまったくありません。
考えてみれば、「何十年も雨ざらしで放置してあったもの」でない限り「ラジェターが詰まっている」ことはないでしょうネ。
2.サーモスタットの点検
●●
a.サーモスタットの構造と働き/60℃で開くが、逃がし穴がある
サーモスタットがどこにあるか分からずにサービスマニュアルを見ました。
こんなところにあったのですね。
シリンダーヘッドのこの出っ張り、今までは単なる冷却水の入口(本当は出口)だと思っていました。
サーモスタットを取り外すと奥に冷却水の通路が見えます。
サーモスタットは開閉弁。その役割は「シリンダー内冷却水の温度が高くなったら、弁を開いて熱くなった冷却水がラジエターに流れるようにする」こと。
マニュアルによると、「サーモスタットは 60℃で開き始め、75℃で全開」。
シリンダーが温まらないうちに冷却水を循環させて温度を下げると冷えすぎになりますからネ。
『質問です!』
どうぞ。
『シリンダー冷却水の温度が60℃になるまではサーモスタットが開かずに冷却水はラジエターの方に流れないのですよネェ…。』
シリンダーを冷やしすぎてもエンジンがスムーズに動きませんからね。
『でも、エンジンが動いていればウォーターポンプは動いていますよ。
ウォーターポンプは冷却水をシリンダーに送っているのに、サーモスタットが冷却水の流れを止めている。
水は空気と違って圧縮されないからウォーターポンプ内の圧力が高くなって問題が起こるのではないのですか?』
それが、今回の冷却水漏れの原因だとか?
『そんな気がしますけれど…。』
もし、それが今回の冷却水漏れの原因なら、新車のSJ13 でも冷却水漏れがしますよ。
だから、それは原因ではありません。
しかし、「サーモスタットが開くまではウォーターポンプの圧力が高くなって弊害が生じるのではないのか」という疑問はもっともです。
それにはちゃっんと対策がしてあります。
・サーモスタットには逃がし穴が開けてあるのです。
・サーモスタットはシリンダーの冷却水温度が60℃になるまで弁を開きません。
・冷却水が60℃になるまではこの穴から冷却水を逃がして、
ウォーターポンプ内の圧力が上がらないようにしているのです。
・また、ウォーターポンプの(冷却水の流れの)背部にはラジェターがあります。
・そして、ラジエターには上部に空間があるし、ブリーザータンクにもつながっています。
だから、ウォーターポンプの圧力が高くなりすぎても、
ウォーターポンプにかかる余分な圧力をラジエター部分でで吸収することもできます。
b.サーモスタットの点検
・マニュアルには
「サーモスタットを水中に入れ、徐々に水温を上げながら温度計を用いて開弁温度を確かめる」
「60℃で開き始め、75℃で全開になる」
「サーモスタットは水中に浮かせてください」
・しかし、100℃まで計れる温度計が一般家庭にない。
室内温度計は50℃まで。※百均の料理用温度計は200℃までOK
だから、60℃は“おおよそ”でやるしかない。
「気泡がプツ・プツ出てくる程度」と勝手に解釈しました。
・また、「水中に浮かせる」とは
「容器の底や縁に触れさせない」ということで「水没させること」ではありません。
要はサーモスタット底部の温度感知部分を温水に漬ければよいのです。
サービスマニュアルのイラスト通りにするのは大変ですよ。
・画像ではサーモスタットがすでに全開状態になっています。
だから、「気泡がプツ・プツ出てくる程度」は 75℃以上なのかも知れません。
「サーモスタットの全開リフト量は5.5㎜以上」。
・「弁自体の下がり量」や「弁上部の下がり量」を計測するのはなかなか厄介です。
モタモタしていると弁が閉じ始めてしまいます。
・写真のように下部の温度感知部分の下がり量(出っ張り量)を計測しましょう。
・左がRMX④/エンジン④のサーモスタット、右がエンジン③のサーモスタット。
どちらも基準値以上でOK。
測定値は「7㎜くらい」。
・なぜ、細かい測定値ではなくて“くらい”なの?
・「全開リフト量は温度感知部の下がり量を計ればよい」と分かったのは
測定後のことなのです。
実際には弁上部の下がり量をノギスで計っていたので正確な測定ができなかったのです。
以上で、「冷却水ポタリ、ポタリ」の原因は~冷却系統の詰まりではない」ことが分かりました。
そして、「冷却系統に問題がない」から、オーバーヒート(水温異状ランプの点灯) の原因は 「単にアイドリングが長すぎた」ことだったのでしょう。
では、「冷却水ポタリ、ポタリ」の原因はやはりメカニカルシール部分?
3.メカニカルシールの点検
●●
a.メカニカルシールの働き
メカニカルシールの働きと交換については こちら を参照してください。
ここではメカニカルシールの点検を説明します。
点検だけならウォーターポンプのカバーを外すだけです。
インペラをウォータープライヤーで挟んで取付ボルトを外しインペラを外します。
インペラシャフトの周りにあるのがメカニカルシールです。
冷却水はウォーターポンプカバー内/ウォーターポンプ室にあり、
インペラによってシリンダーに送られ循環させられます。
インペラを動かすのはエンジンです。
インペラシャフトはクランクケース内にあるギヤにつながっています。
インペラシャフトはシャフト孔に納まっています。
つまり、ウォーターポンプ室とクランクケースはインペラシャフト孔によってつながっています。
ウォーターポンプ室にある冷却水が、
このシャフト孔を通ってクランクケース内に侵入しようとします。
これを防ぐために四つの対策が取られています。
b.対策① : クランクケース側のシールとインペラ側の樹脂リングを密着させて回転させる。/メカニカルシールの先端面
これが第一番目の対策です。
メカニカルシール(写真左)の a 部分とインペラ(写真右)の e 部分を密着させて、
シャフト孔に青矢印のように水が入るのを防いでいます。
a を e に押しつけるのはメカニカルシール内にあるバネです。
ここで点検しなければならないのは「a と e が密着するかどうか」。
具体的には
・① a 部分が平坦であるか? e 部分が平坦であるか?
・② バネの力は充分か?
・③ インペラ取り付けが甘くないか?
・① a と e は常に擦れ合っていますから片減り,変形,損傷,劣化 が起こります。
a と e が両方とも平坦でなければ、両者は密着せず冷却水の侵入を防ぐことはできません。
・② a を e に押しつけるバネの力が弱くなれば密着力がガ弱くなります。
密着力が弱ければ、a と e が平坦でも冷却水が侵入します。
・③インペラの取付が甘いと a を e に押しつけるバネの力が正常でも、
インペラがシャフト方向に逃げて a と e の密着が弱くなり冷却水が侵入します。
実際のメカニカルシールの状態です。
・RMX①/エンジン① のメカニカルシール。
部分はもう限界です。
これ以上磨耗が進むと、インペラの樹脂リングと密着することはできません。
冷却水漏れの一歩手前の状態です。
このような状態なら即交換です。
・RMX③/エンジン③ と RMX④/エンジン④ のメカニカルシールはOKです。
c.対策② : メカニカルシールのバネ部から冷却水が侵入するのを防ぐ/メカニカルシールの側面
これが二番目の対策です。
メカニカルシールには
シール先端面/aとインペラ樹脂リング面を密着させるためにバネが内蔵されています。
メカニカルシールのシール部分/a・bと
メカニカルシールのケース部分/c・dはこのバネでつながれています。
メカニカルシール先端面/aがインペラ樹脂リング面に押しつけられると、
バネが縮みシール部分/a・bはケース部分/c・dに納まります。
このときに、シールの側面部/b と ケースの内面/cが密着しないと、
ここから冷却水がシャフト孔に侵入します。
ここでの点検は
・シール側面/bと ケース内面/cがピッタリと密着するかどうか?
・具体的には「シール側面/b部分の変形,磨耗があるかどうか」です。。
メカニカルシールのシール側面/bは
シール先端面/aのように常に擦られているわけではありません。
だから、a部分ほど磨耗や損傷は大きくないはずです。
しかし、ここからも冷却水は侵入できます。
なお、メカニカルシールケースの d 部分はシール剤を塗ってクランクケースに取り付けます。
だから、この部分(メカニカルシールのツバより下)から冷却水が侵入することはないでしょう
以上のように、メカニカルシールの点検は 先端面 a だけでは不十分です。
側面部 b も点検しなければなりません。
写真は RMX④/エンジン④のメカニカルシールです。
先端面/aは問題ありませんが、側面部/b が少々痛んでいます。
RMX④/エンジン④ の冷却水「ポタリ、ポタリ」はこれが原因なのかもしれません。
d.対策③ : インペラ取り付け部分から冷却水が侵入するのを防ぐ
これが三番目の対策です。
メカニカルシールの先端面 と インペラ樹脂リング面/eが密着していれば、
インペラシャフト孔に冷却水が侵入することはありません。
しかし、インペラ樹脂リングの取り付け部分のシールが不完全だと、
そこから冷却水が侵入し、シャフト孔に漏れ出してしまいます。
これを防ぐために、樹脂リングにはゴムシールがかぶせてあります。
ここで点検しなければならないのは、このゴムシール部分の磨耗や劣化。
樹脂リングは メカニカルシールと擦れ合って回転していますから、
ゴムシール部分は絶えず力を受けています。
だから、磨耗や劣化の可能性は大きいといえます。
また、インペラをシャフトに取り付けるボルト部分からも冷却水が侵入する可能性があります。
写真の h の部分です。
これを防ぐために、ボルトの下にゴムコーティングされたガスケットを挟みます。
しかし、このガスケットとインペラが接する部分/gからも冷却水が侵入する可能性があります。
ここで点検しなければならないのは、
・ガスケットのボルト取り付け部分/h の損傷・劣化。
・ガスケットのインペラ接触部/g の損傷・劣化。
特に、ボルトを差し込む h 部分は ボルトの取り付け取り外しで損傷し、
防水力が落ちてしまいます。
だから、「インペラを外したときは必ず交換」でしょう。
写真はRMX④/エンジン④ のボルトガスケットです。
そうとう痛んでいます。
RMX④/エンジン④については、取り敢えず樹脂リングと 取り付けボルトガスケットを新しいものにしました。
左側が取り付けた新品、右側が取り外したものです。
表を見ている限りではそれほど違いがありませんが、裏返して見ればその違いがはっきりします。
樹脂リングのゴムシールは痩せて弾力を失っているし、ボルトガスケットは変形して完全にシール力を失っています。
なお、応急処置なら「樹脂リングのゴムシール部分やボルトガスケットにシール剤を塗る」ことが有効です。
インペラのシールとガスケットはウォーターポンプカバーを外すだけで簡単に点検や交換ができます。
冷却水漏れがあった場合は、まず樹脂リングとボルトガスケットを交換して様子を見ましょう。
冷却水漏れが止まればラッキー、止まらなければ覚悟してメカニカルシールを交換しましょう。
樹脂リングとボルトガスケットを新しくしたRMX④/エンジン④の「冷却水ポタリ、ポタリ」は、
交換直後は「10秒に一滴」が「1分に一滴」に、
そして30㎞くらい走ったあとには「アイドリング5分で漏れなし」になりました。
交換直後の「ポタリ」は
「シャフト孔やドレン溝に溜まっていた冷却水」が出たものだったのでしょう。
取り敢えず、このままで様子をみることにしました。
しかし、メカニカルシールの側面部/bが少し磨耗していたので、
この部分から冷却水が侵入し「ボタリ」が再発するかもしれません。
今度、「ポタリ」があれば、迷わずメカニカルシールの交換です。
マニュアル指定のスリーボンドボンド 1215も準備しました。
e.対策④とは…
『あのう…、質問があるのですが…。』
なんですか?
『冷却水がクランクケースに侵入するのを防ぐ対策は四つあると言いましたよねぇ?』
四つありますよ。
『まだ、三つしか出ていないのですが、四番目の対策は何ですか?』
それを言うのを忘れていましたね。
四番目の対策は冷却水が漏れ出す穴です。
「メカニカルシールと樹脂リングの密着不良」や「インペラ側シールの不良」で冷却水がシャフト孔に侵入したときに、
この穴から冷却水を排出してクランクケースに侵入しないようにしているのです。
※この穴はギヤオイルがクランクケースから漏出した場合に、漏出したギヤオイルをここらか排出して冷却系統に入らないようにもしている。
問題が起こらないように対策を立てることはもちろん必要だけど、問題が起こったときの回避対策を立てておくことも必要です。
四つの対策のうち1番目・2番目・3番目が前者、4番目が後者です。
これは原子力発電所の建設でも同じです。
『これだけ予防策が立ててあるのだから、絶対に事故は起こらない。』、んなことはなかったでしょう?
つづく。
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