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・警察庁通達「プール監視は警備業務」-40年放置しておいて今になってなぜ?(2012.07.21)





警察庁は40年間黙認していた「警備業者でない者の行うプール監視業務」を突然「警備業者でなければダメ」としました。
一件の「市立小学校でのプール死亡事故」で突き上げられたのでしょう。
通常のプール営業開始は7月1日。その5日前に突然の方向転換。
現場は大変なことになっていたと思われます。
なお,学校のプール監視をその学校の先生がする場合やPTA・地域ボランティアが行う場合は警備業法の規制は受けません。
この点についても説明します。


平成24年6月25日の警察庁通達
現場の混乱は必至
ボランティアのプール監視、学校プールで教師が行うプール監視はどうなるのか

     
1.警察庁・平成24年6月25日 通達


警察庁が6月25日に通達を出しました。→警察庁通達
内容は「プール監視は警備業務に該り、有償で業務を受任する者は警備業者でなければならない」というもの。

警察庁の通達とは「単なる警察庁の警備業法解釈」です。
警察庁が全国の警察署に「こういう解釈で警備業法を運用せよ」と意思統一をしているだけです。

警備業法は警備業務とは次の四つのものであると定めています。(警備業法2条1項)
・ 事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園地等における盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務 ( 施設警備-1号業務 )
・ 人若しくは車両の雑踏する場所又はこれらの通行に危険のある場所における負傷等の事故の発生を警戒し、防止する業務 ( 交通・雑踏警備-2号業務 )
・ 運搬中の現金、貴金属、美術品等に係る盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務 ( 運搬警備-3号業務 )
・ 人の身体に対する危害の発生を、その身辺において警戒し、防止する業務 ( 身辺警備-4号業務 )

プール監視業務が1号・2号業務に該ることは誰が考えても当たり前のこと。
※普通のプール監視が施設警備(1号)、たくさんの人が集まる遊園地のプールでの監視が雑踏警備(2号)でしょう。

警備業法は昭和47年に制定され、それ以来、警備業務・警備業・警備業者・警備員の定義規定(2条)は変わっていません。
つまり、昭和47年から「プール監視業務が警備業務」であり、警備業法でコントロールされる警備業者しか受任できないことは変わっていないのです。

それを今になって警察庁が「プール監視は警備業務に該り、警備業者しか受任できない」と突然言い出したのです。

警察庁が40年間も「警備業者でない者がブール監視業務を受任することを黙認していた」のはそれなりの力関係が作用していたのでしょう。
しかし、「大阪府泉南市内の市立小学校でのプール死亡事故」で突き上げられ、突然「黙認」を反故にしたのです。
今まで「プール監視業務を受任していた警備業者でない者」は突然「ハシゴを外された」のです。
「お上」というものは「自分の保身が第一」ですので気をつけてください。

もっとも、ほとんどのプール監視業者は警備業の認定を受けていますのでこの通達による問題は生じません。
しかし、実務では大変なことになります。
     

2.現場の混乱は必至



ほとんどのプール監視業者は警備業の認定を受けているので「資格要件」はOKです。
しかし、警備業法でいろいろな制約・要求があるのでそれをクリアーしなければなりません。

通達が6月25日、公共プールのオープンは早いところでは7月1日。
既に人員配置を済ませているはずです。


a.監視員に法定教育が必要

プール監視が警備業務ならプール監視員は警備員です。

警備員には新任教育が30時間、現任教育が8時間/半年必要です。(※2019より新任教育20時間・現任教育10時間/年に改正).
教育内容も決められています。単なる心配蘇生やAEDの使い方だけではありません。

これをプールの営業開始前に済まさねばなりません。
所定の教育が終了していない監視員(警備員)を現場に配置したら警備業法違反となります。


b.服装届が必要

解釈にもよりますが「ワッペン(標章)をつけていない服装についても制服届が必要」です。→ワッペンを付けない作業服やジャージを制服にした場合服装届は必要か?

服装届は「業務開始の前日まで」にしなければなりません。

服装届のない状態でその服装でプール監視(警備業務)をすれば警備業法違反となります。


c.交付書類・備付書類が必要

警備業者が警備業務を受注する場合には、契約前に契約前書面、契約後に契約痕書面を契約の相手側に交付しなければなりません。
これらの書面を交付しなかった場合は警備業法違反となります。

また、監視員(警備員)の一人一人について、警備員名簿・誓約書・欠格事由確認措置書面・教育実施確認書を作っておかなければなりません。
これら書面の一つでも欠けたら警備業法違反となります。


d.プール監視員(警備員)として雇えない者がいる

警備業法では「警備員の欠格事由」を定めています。(警備業法14条)
プール監視員も警備員となるので、警備員の欠格事由にあたる者にプール監視業務を行わせることができません。

一番の問題は「18歳未満の者が警備員の欠格事由に該る」ことでしょう。
従来、プール監視にアルバイトの高校生を使ってきましたが、「18歳未満の高校生」が使えなくなったのです。
人員配置をやり直さなければならなくなります。


e.公安委員会も大目に見るはずだが

もちろん、40年間放置しておいて、突然にそれもプール監視業務の始まる5日前に「プール監視は警備業務に該り警備業法の適用を受ける」と言い出したのですから、
「お上」もそれ相応の「お目溢し」はあるでしょう。

しかし、「潰してやろう」と狙っている警備業者は格好の餌食。
いつでも、臨時立入で営業停止や認定取り消しにすることができるのです。

しかも、通達によると「プール監視が警備業務に該る」という警察庁の通達は 全国警備業協会 と NPO法人日本プール安全管理振興協会 に知らせただけ。

警備業協会って単なる民間団体です。
警備業協会に入っていない警備業者はたくさんいます。

NPO法人日本プール安全管理振興協会って知ってます?
日本水泳連盟日本スイミングクラブ協会はよく知られていますがねぇ。

プール監視を請け負っている業者さん、このNPO法人から連絡はありました?
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3.ボランティアのプール監視、学校プールで教師が行うプール監視はどうなるのか


学校の先生やPTAのする夏休みのプール監視はどうなるのでしょう。
警備業法による規制があるのでしょうか?

結論から言うと「警備業法の規制は一切ありません」
その点を説明します。


a.「自分のために行う」場合は警備業務ではない

警備業務とは「他人の需要に応じて行うもの」です。(警備業法2条1項本文)

「他人の需要に応じて行う」のではなく、「自分の必要なために行う」ものは警備業務ではありません。

たとえば、
・スポーツクラブのプールをスポーツクラブの従業員に監視させる、
・市営プールをその市が雇った監視員に監視させる
・プールの指定施設管理者が監視員を直接雇ってプール監視させる

学校の先生がその学校のプールの監視をするのも同じです。
それは「自分のために行うもの」ですから警備業務に該りません。
警備業務ではないので警備業法の規制は受けません。

おな、「それが警備業務に該らないから警備業法の適用を受けない」ので、それを有償で行うか無償で行うかは関係ありません。
例えば、学校の夏休みプールの監視をその学校の先生が行い、学校がその対価(手当)を支払っても、その先生に警備業法は適用されません。


b.「営業」でなければ警備業法の適用を受けない

PTAのお父さんお母さんや地域ボランティアが学校のプール監視をする場合は、
「自分のために行うもの」ではなく「他人の需要に応じて行うもの」なので警備業務に該ります。
それが有償であるか無償であるかは関係ありません。

しかし、警備業法がいろいろな制約や義務を課す相手は、警備業者と警備業者に雇われている警備員です。
警備業者とは「お金をもらって警備業務を行う者」、警備員とは「警備業者に雇われて警備業務を行う者」です。

つまり、「お金をもらわないでプール監視をする」者には警備業法は適用されません。
ここで「お金をもらう」とは「プール監視業務に対する報酬」で交通費や昼食代は含みません。


この点をもう少し詳しく説明しましょう。(指導教育責任者用)

警備業法は警備業者と警備員について次のように定めています。

・①.「警備業」とは、警備業務を行なう営業をいう。( 警備業法2条2項 )
・②.「警備業者」とは、第四条の認定を受けて警備業を営む者をいう。(警備業法2条3項 )
・③.「警備員」とは、警備業者の使用人その他の従業者で警備業務に従事するものをいう。(警備業法2条4項 )


①について

・「営業」とは「それによって お金をもらうこと」です。
  ※「営業」とは、営利の目的で同種の行為を反復継続して行うことをいう ( 警察庁解釈・運用基準 )

・有償で警備業務を行う場合が警備業、無償で警備業務を行う場合は警備業ではありません。

・「他人の需要に応じてするプール監視」は有償であろうと無償であろうと警備業務です。
  しかし、それを有償で行う場合にだけ警備業となり警備業法の適用を受けます。

・ただ、上の警察庁解釈では「営業とは‥同種行為を反復継続して行うこと」としていますから、
  有償であっても、突発的に臨時に行う場合は警備業とはされず警備業法の適用を受けないでしょう。

  たとえば、あるプールで地域の水泳大会がある。
  この日だけプール監視を行う場合は、それが有償であっても警備業とはいえず警備業法の適用を受けないでしょう。
  ただし、そのような短期・臨時のプール監視をいろいろなプールから受注している場合は営業に該ることになります。

  なお、警察庁の解釈運用基準は「単なる警察庁の解釈」に過ぎませんので、
  裁判で争いになったときに、警察庁の解釈通りの判決がでるかどうかは別問題です。


つまり、無償で行うプール監視は臨時であれ反復継続であれ、営業ではないので警備業には該らず警備業法の適用は受けません。

学校のプールを生徒の父兄や地域住民がボランティアで監視する場合は警備業法の適用を受けません。
ライフセーバーの海水浴場監視もはボランティアなので警備業法の適用は受けません。


③について

警備業者が雇っている者のうち警備業務に従事する者が警備員です。
正社員であろうとアルバイトであろうと同じです。

警備業者の指揮命令に服していれば警備員です。
雇用関係があるかどうか、給料をもらっているかどうかも関係ありません。

プール監視業者が有償でプール監視を受注し、ボランティアの監視員だけを使ってプール監視をした場合、
そのプール監視業者は警備業者、ボランティアの監視員は警備員として警備業法の適用を受けます。
( このあたりを指導教育責任者資格の試験問題にしたらおもしろいですね。)


c.まとめ・ どのような者がプール監視をした場合に警備業法の適用を受けるか


警備業法の適用を受ける者
・他人のプール監視業務を有償で受任しその業務を行う者 ( 警備業を行う者 )
・その者の指揮命令下でプール監視を行う監視員 ( 警備員 ) ※有給・無給は関係なし・・ボランティアでも

警備業法の適用を受けない者
・自社のプールを監視する者(自分のためにプール監視をする者)
・この者の指揮命令下でプール監視を行う監視員 ※有給・無給は関係なし

・プール監視を無償で請け負ってその業務を行う者
・その者の指揮命令下でプール監視を行う監視員 ※有給・無給は関係なし


以上、指導教育責任者諸兄はしっかりと確認しておいてください。


つづく。




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