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・1ポストの宿直・日直業務の日当 -断続的労働とその賃金(2022.08.21改訂)
施設警備に「1ポストの宿直・日直業務」といものがあります。
市庁舎や病院、介護施設で夜間や休日の巡回,電話・来訪者対応対応,郵便物受け取り,緊急対応を行うものです。
通常勤務時間は、12時間,16時間,24時間の三種。
この業務は「1日に8時間以上の労働」なので、労働基準法に反します。
そのために、労働基準監督署から「断続的労働の適用除外許可」をもらって「労働基準法の労働時間の適用」を除外してもらいます。
これらの許可がないと労働基準法違反,最低賃金法違反となり罰則が適用されます。
また、この場合、労働者は通常の賃金を請求できます。
ここでは、どのような業務が断続的労働に該るのか、その賃金はどのように計算するのかについて説明します。
なお、市町村の公共調達ではこの計算で出た賃金よりはるかに安い価格で落札されています。
小さい警備会社のほとんどはこの許可を得ずに警備員に違法労働を行わせています。
しかし、警備員は文句をいいません。
「文句を言えばクビになる」からです。60歳超え70歳超えの警備員にとっては「仕事をもらえるだけでありがたい」のです。
発注側の市町村は「違法労働を知っていて知らぬふり」、「受注者の違法労働にはアンタッチャブル」。
受注者の違法労働を正せば、落札価格が上がるからです。
労働基準監督署は「労働者の申告がなければ」動きません。
「おしゃべりフミオさん」は「賃金引き上げ。最低賃金1500円を目指します」
最低賃金をどれだけ高くしても「その賃金が支払われなければ」意味がありません。
現実の労働実態を把握してほしいものです。
・1ポストの宿直日直業務とは
・労働基準法の原則-1日8時間・週48時間・週1日の休日
★1ボストの宿日直業務に休憩は存在しない
-労働基準法の原則が適用されない断続的労働-
・法律の定め
★断続的労働の要件(労働省通達)
・労働基準法の例外となるには個別に労働基準局の許可が必要
★断続的労働の賃金計算方法
・最低賃金減額にも許可が必要
1.1ポストの宿直日直業務とは
工場や官公庁の業務の終了後の夜間や業務をやっていない休日に、
警備員が常駐して、定期的な巡回、来訪者・電話対応、郵便物の受け取り、事件・事故発生時の緊急対応をするものです。
平日なら17時~翌8時30分の15.5時間勤務。休日なら8時30分~翌8時30分の24時間勤務です。
複数名で行われる場合もありますが、小さい施設では1ポストです。
今回は1ポストの場合を取り上げます。
この勤務で警備員の最低日当はいくらになるでしょうか?
もちろん、それは労働基準法に適合するものです。
次の勤務を例とします。
① 平日勤務・1名
・17時~翌8時30分 ( 拘束15.5時間 )
・17時30分~18時30分:閉館施錠業務
・22時~22時30分:施設内巡回
・23時~翌5時30分:仮眠
・6時~6時30分:施設内巡回
・7時30分~8時:開館・開錠業務
② 休日勤務・1名
・8時30分~翌8時30分 ( 拘束24時間 )
・10時~10時30分:施設内巡回
・15時~15時30分:施設内巡回
・22時~22時30分:施設内巡回
・23時~翌5時30分:仮眠
・6時~6時30分:施設内巡回
巡回以外は警備室や防災センターに待機して来訪者や電話の対応郵便物の受け取りを行います。
また、ローカルシステム作動時 ( 火災,温度異状,侵入感知なと) には緊急対応を行います。
仮眠はできますが、少なくとも緊急時の対応があるので、完全に自由な睡眠はできません。
※「宿直・日直」とは労働者が通常の業務の後で会社に泊り込んだり、休日に留守番をしたりすることですが、
ここでは上のような業務を「宿直業務・日直業務」と呼びます。
★★01
2.労働基準法の原則は-1日8時間・週48時間・週1日の休日
労働者には労働基準法(以下 労基法 )が適用されます。
・使用者が労働者を労基法の労働条件より悪い条件で働かせると罰則が適用されます。(労基法117条~)
・使用者と労働者が結んだ労働契約の中で、労基法の定める労働条件より悪い部分は無効となり労基法の労働条件に引き上げられます。
(労基法13条)
※労基法13条(労働契約)
「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。
この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。」
労基法が定める労働時間,休憩,休日は次の通りです。
a.労働時間
・一週間に40時間以下で一日に8時間以下(労基法32条)
※労基法32条(労働時間)
「 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
2.使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。」
b.休憩
・休憩は労働時間が6時間を超えたら45分間以上、8時間を超えたら60分間以上。
・休憩は労働時間の途中に与えなければならない。
・休憩は労働者が自由に使えるものでなくてはならない。
(労基法34条)
※労基法34条(休憩)
「 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、
八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
2.前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない。
ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、
労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、この限りでない。
3.使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。」
(1ボスとの宿日直業務に休憩は存在しない)
1ポストの宿直日直業務の場合、休憩時間中でも不意の来訪者や電話、事件事故発生時の緊急対応をやらなければなりません。
だから休憩時間が与えられていても「それを労働者が完全に自由に利用できる」とは言えません。
仮眠時間についても同じです。
『休憩時間に来訪者や電話対応があったら、適当に休憩時間をずらせてよ。』
『自火報発報なんてまず起こらないからね。万が一発報したときは対応してくださいね。これは大地震が起こったときと同じだよ。』
こんなごまかしは通用しません。
1ポストでは「休憩時間に業務を交代する者がいない」限り休憩は存在しません。
だから、1ポストの宿直日直業務は6時間を超えた時点で労基法違反となります。
c.休日
・休日は一週間に一回以上、または4週間で4日以上(労基法35条)
※労基法35条(休日)
「 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。
2.前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。」
d.時間外労働・休日勤務
・ただし、例外として労働者の過半数を代表する者との約束で時間外や休日に労働させることができる。( 36協定 ・労基法36条)
※労基法36条(時間外及び休日の労働)
「 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、
労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、
これを行政官庁に届け出た場合においては、
第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)
又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、
その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、一日について二時間を超えてはならない。
2.厚生労働大臣は、労働時間の延長を適正なものとするため、
前項の協定で定める労働時間の延長の限度、当該労働時間の延長に係る割増賃金の率その他の必要な事項について、
労働者の福祉、時間外労働の動向その他の事情を考慮して基準を定めることができる。
3.第一項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者は、
当該協定で労働時間の延長を定めるに当たり、当該協定の内容が前項の基準に適合したものとなるようにしなければならない。
4.行政官庁は、第二項の基準に関し、第一項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。」
※36協定については → こちら(2019年改正)
e.時間外労働・休日勤務の制限
36協定には上限があります。
その上限は
・原則 → 月に45時間以内 かつ 年に360時間以内
・臨時的な特別の理由があるとき → 月に100時間未満 かつ 2~6カ月平均が 月に80時間以内 かつ 年に6カ月まで かつ 年に720時間以内
※詳しくはこちら
f.余談- 警備員の方へ 「労基法は労働者の生存を守らない」?
使用者は労働者を労基法の定める労働時間を超えて働かせることはできません。
逆にいえば、労働者は労基法の定める労働時間しか働けません。
その時間数を計算してみましょう。
・一年は365日で、(365÷7)週
・一週間に40時間しか働けないから、一年で働けるのは 40時間×(365÷7)週=2085.7時間。
・36協定の時間外労働の上限は 360時間/年。
・この時間外労働は25%の割増賃金となるから、実質的には360時間×1.25=450時間。
これらを合計すると 2535.7時間。
これにあなたの時給をかけたものがあなたの年収の最高額。
警備員の時給は最低賃金ギリギリ。
三重県の警備員の最低賃金は時給902円、東京は1041円 ※2022.08.21現在
だから、三重県の警備員の年収は902円×2535.7時間=228万7202円。
一カ月になおすと 19万600円。
東京なら、年収 1013円×2535.7時間=263万9664円。
月収は 21万9972円。
ボーナスなんかありません。
だから、警備員の月収は最高額で「19万円~22万円」なのです。
しかし、これは「仕事が毎日あった場合のこと」・「残業や休日出勤ができた場合のこと」。
交通警備・イベント警備中心の警備会社では一年に半分くらいしか仕事がありません。
だから、月収が10万円以下でも異常ではないのです。
労基法は「働き過ぎを規制して、労働者の健康を守る」ことはできても「労働者の生存を守る」ことはできません。
「労基法や基準局を口にしたら仕事をやらせてもらえない」
それが警備業界です。働き方改革をやられたら警備員は生きていけないのです。
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3.労働基準法の原則が適用されない断続的労働
a.断続的労働とは(法律の定め)
「一日に8時間・週に40時間、8時間を超えたら休憩1時間、休日は週に1日」の原則には例外があります。
その例外の一つが断続的労働。
断続的労働に対しては「労働時間,休憩,休日の原則」が外され(労基法41条,施行規則34条)、
最低賃金も異なります(最低賃金法7条4号)。
※労基法41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
「 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一.別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二.事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三.監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの」
※労基法施行規則34条
「法第四十一条第三号 の規定による許可は、従事する労働の態様及び員数について、様式第十四号によつて、所轄労働基準監督署長より、これを受けなければならない。」
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