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第2講 その行為が犯罪とならない場合-故意・過失,心神喪失,刑事責任能力,可罰的違法性





刑法の犯罪メニューには二つの部分がある。

「こんなことをしたら、こういう刑罰が与えられますよ」という部分(刑法第二編・罪)。
「犯罪メニューには書いてあるけれど、こんなときには犯罪になりませんよ。こういう場合にはこう取り扱いますよ」という“注意書き”の部分(刑法第一編・総則)。

ここでは「こんなときには犯罪になりませんよ」という部分を説明する。
いわゆる違法性阻却事由・責任阻却事由の部分である。

まずは、故意と過失,心神喪失,刑事未成年者,可罰的違法性能について説明しよう。
また、構成要件の解釈についても説明する。


構成要件に当てはまらなければ犯罪にならない-構成要件の解釈
故意がない場合は犯罪とならない(刑法38条)-普通の故意・過失・未必の故意
心身心神喪失は犯罪とならない(刑法39条)
刑事責任能力がなければ犯罪とならない(刑法41条)
可罰的違法性能がなければ犯罪とならない


        
1.構成要件(こうせいようけん)に当てはまらなければ、犯罪にならない  -カツ丼を食べたからカツ丼の代金を払う-



a.構成要件とは  -メニューのカツ丼-


刑法の犯罪メニューの「こういうことをしたら、こういう刑罰を与えますよ」の中の“こういうこと”の部分を構成要件という。
「カツ丼・980円」の“カツ丼”の部分である。

たとえば、殺人罪(刑法199条)の犯罪メニューは、
「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは三年以上の懲役に処する。」である。
ここで、「人を殺した」の部分が“殺人罪の構成要件”である。


その行為が構成要件にあたらない(構成要件該当性がない)場合は犯罪とならない。
これは刑法総則には書いてないが、罪刑法定主義から当然のことである。


b.構成要件の解釈  -サンプルや写真のないカツ丼。どんなものがカツ丼?-


問題になるのは構成要件の解釈である。

レストランメニューの“カツ丼”には写真が印刷してあったり、入り口にサンプルが置いてあったりする。
客には「どんなカツ丼か」が分かる。

しかし、刑法の犯罪メニューには写真やサンプルがない。
殺人罪の構成要件には「人を」・「殺した」としか書いてない。

そこでその解釈が問題となる。

“人”とは何か?
“殺した”とは「どういう状態にしたこと」か?

おなかの中の子(胎児)は人なのか?
「脳死状態にしたこと」は「殺したこと」なのか?


構成要件の解釈によって、その行為が犯罪になったりならなかったりする。
これでは罪刑法定主義の意味がない。

もっと詳しい犯罪メニューを作ることができればそれに越したことはない。
しかし、犯罪は多種多様である。
どんなに詳しいメニューを作っても、犯罪すべてを完全にメニュー化することはできない。

構成要件の解釈は避けられないのである。


c.判例・学説


いろいろ考え方がある。それは時代につれて変わっていく。

解釈で一番強いのが“最高裁判所の解釈”である。
裁判の最後は最高裁判所になるからである。
これを“判例”と呼ぶ。


次に強いのが“最高裁判所以外の裁判所(下級審)の解釈”である。
裁判をするところだからである。
これを“下級審例・裁判例”と呼ぶ。

裁判官は他の裁判所の解釈や最高裁判所の解釈にとらわれないで、自分自身の判断で解釈ができる。
その裁判所・裁判官によって解釈は異なる。
下級審例・裁判例は同じではないし、最高裁判所の解釈と異なることもある。


一番弱いのが学説である。
“学説”とは法律学者の解釈である。

圧倒的多数の学説を“通説”、多数の学説を“多数説”、少数の学説を“少数説”という。
学説の中の優劣は通説・多数説・少数説の順となる。


つまり、法解釈での強さの順番は、判例・下級審例・通説・多数説・少数説となる。


大学で法律学者が学生に解釈を教える。
学生が卒業して裁判官になる。
そして、最高裁の裁判官になる。

だから、最後には学説(通説・多数説)が判例となる。
しかし、それには何十年という年数がかかる。


時代はドンドン変化していく。
法律改正はそれについていけない。

法解釈は時代の変化に応じて変わっていく。
学説はドンドンと進化していく。通説・多数説も変わっていく。
この点から言えば、判例は「最も時代にそぐわない解釈」、学説は「最も時代にあった解釈」ということになる。


学説と判例との対立が大きくな問題となって、法律の不備が社会問題となる。
また、判例がたくさん積み上がって判例と法律の条文からかけ離れたものになる。
こうなって、法律が改正されることになる。
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d.殺人罪の構成要件の解釈  -「殺人」とは?-



話を戻そう。
“人”と“殺した”の解釈である。


通説も判例も同じである。

・人とは「一部露出~脈拍停止までの人間」である。

だから、胎児は刑法上の人ではない。
腹の中の胎児を殺しても、「人を殺した」という構成要件に当てはまらないので殺人罪にはならない。
胎児は刑法上“物”となり器物損壊罪となる。
但し、その行為が堕胎罪の構成要件に当てはまる場合は堕胎罪となる。


・“殺した”とは「人でない状態にした」ことであるから、「被害者を脈拍停止状態にした」こととなる。

被害者が脳死状態になって植物人間になった場合は、「殺していない」ので殺人未遂罪となる。


ついでに、もう一つ。

猥褻物頒布罪の犯罪メニューは次の通りである。
※刑法175条
  「わいせつな文書、図画(とが)その他の物を頒布(はんぷ)し、販売し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金若もしくは科料に処する。
    販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする。」

ここで“頒布”とは「不定多数人に配付すること」。
“販売”とは「不定多衆に対してする目的に出た、有償的譲渡行為」と解釈されている。(判例)

どちらも「不特定多数を相手にした場合」である。
だから、ネットオークションで手に入れた百円の猥褻な図画を友人にやったり、百万円で売ったりしても“頒布”にも“販売”にも該らない。
これは猥褻物頒布罪とはならない。

もっとも、刑法以外の法律や条例でそれが犯罪とされていれば別である。
たとえば著作権法違反である。


法律は「国家から個人の自由を守るためのもの」である。

我々は構成要件の解釈を知っておかねばならない。
少なくとも、刑法の“犯罪メニュー”には目を通しておくべきである。

万引き犯人が抵抗したり逃げたりしたときに、誰かが死ねば強盗致死罪となり無期懲役か死刑となる。[※第八章-Ⅲ-(2)]
「割に合わない犯罪」をして人生を無駄にするのは嫌だろう。
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2.故意がなければ犯罪にならない  -「するつもり」がなかったら犯罪にならない-


※刑法38条
「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。」

「罪を犯す意思」を“故意”と言う。

“意思”とは「何かをしようとする気持ち」。
“意志”とは「何かをなし遂げようとする気持ち」。
法律ではこの二つを区別して使う。


a.普通の故意  -「カツ丼だ・食べることだ」と知らなければ代金はいらない-


「罪を犯す意思」とは「構成要件にあたる事実を知っている」ことである。

殺人罪の構成要件は「人を殺す」こと。
殺人罪の故意は「自分の行為によって人が死ぬことを知っている」こととなる。

つまり、
・行為の相手が“人”であることを知っていること。
・その行為によって「相手が死ぬことになる」と知っていること。
この両方が必要になる。


たとえば、

・①.「熊だと思って」撃ち殺したが、それは人だった。

この場合は、「相手が人である」と知らないので、殺人の故意はない。

殺人罪は成立しない。
殺人の故意がないので、殺人未遂罪ともならない。
殺人未遂罪は殺人の故意を持って行為したが相手が死ななかった場合である。

・②.「人だと思って」撃ち殺したが、それは熊だった。

この場合は「相手が人である」と知っているから殺人の故意がある。

ただ、相手が熊だったので結果が発生しなかっただけである。

だから、殺人未遂罪となる。(判例)

※この事例は“不能犯”として学説・裁判例で「未遂罪か犯罪なしか?」について解釈が分かれている。
  判例は「結果発生が絶対に起こらない場合を“犯罪なし”。たまたまそのときにだけ結果発生が起こらなかった場合を“未遂罪”」としている。
  ②では「たまたまそのときに熊だったので、人が死ぬことが起こらなかっただけ」だから、判例では殺人未遂罪となる。

・③.友達に向かってふざけて銃を向けたら、銃が暴発して友達が死んだ。

この場合は、「相手が死ぬことになる」と知らない。
だから、殺人の故意はない。
当然殺人未遂罪ともならない。


b.過失  -うっかりして「知らなかった」場合は“うっかり代金”だけ-


行為者が「構成要件にあたる事実を知らない」と故意がなかったことになる。
しかし、「通常人ならそれを知って、結果を発生させなかっただろう」と考えられる場合には“それなりの責任”を負わされる。

上例の①と②で、通常人ならその状況下で「人を熊だとは思わない」・「銃が暴発するかも知れないと思う」場合だとする。
そんな場合なら、通常人なら「人を死なせる」という結果を引き起こさないだろう。

しかし、行為者は人を死なせてしまった。
行為者が「通常人としての注意をしなかった」ので結果が発生したのだ。

行為者は「通常人ならしない“うっかり”をして結果を発生させた」。
これを「行為者に過失があった」という。


行為者に過失があった場合、犯罪になることもあるがならないこともある。
犯罪になる場合は刑法の犯罪メニューに書いてある。
書いてない場合は犯罪とならない。

過失で人を死なせた場合は、過失致死罪・業務上過失致死罪が犯罪メニューにあるので犯罪となる。

私服保安が不注意で誤認逮捕をした場合、過失によって逮捕・監禁したことになる。
しかし、犯罪メニューには過失逮捕罪・過失監禁罪というものがない。
だから、犯罪とはならない。


c.特別な故意(未必の故意)  -知らなくても「もしそうでもかまわないヤ」と思っていればダメ-


故意とは「構成要件にあたる事実を知っていること」であるが、どの程度知っていることが必要なのだろうか?
確実に知っていることが必要なのだろうか?
不確実でも知っていればよいのだろうか?

上例の①と③で、
「熊だと思って撃ったが、もしかして人かも知れないと思っていた」場合。
「友達に銃を向けただけだが、もしかして暴発するかも知れないと思っていた」場合。
こんな場合は「人が死ぬことになる」ということを「不確実であるが知っていた」ことになる。

このような場合に故意を認めるべきではないのか?


この点について判例・通説は、
構成要件にあたる事実を不確実に知っていたる場合は、
・「そうであっても構わない」と思っていれば「故意あり」
・「そうであっては困る」と思っていれば「故意なし」とする。(当然、過失は問題となる)
この故意を普通の故意とは区別して“未必の故意”という。
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d.故意・過失の内容


結局、故意・過失の内容は次のようになる。

・①.構成要件にあたる事実を知っていた場合。 → 故意
・②.構成要件にあたる事実を不確実に知っていたが、それでも構わないと思っていた場合。 → 未必の故意
・③.構成要件にあたる事実を不確実に知っていたが、そうであっては困ると思っていた。
     しかも、通常人なら構成要件にあたる事実を知って結果を発生させなかったと考えられる場合。 → 過失
・④.構成要件にあたる事実を知らなかったが、通常人なら構成要件にあたる事実を知って結果を発生させなかったと考えられる場合。 → 不過失

※③の過失は「構成要件にあたる事実を知っていた」ので“認識ある過失”、④の過失は「構成要件にあたる事実を知らなかった」ので“認識のない過失”と呼ぶ。

要するに、殺人の故意は、
「人を殺すことになると知っている」場合だけでなく、「人かも知れない、殺すことになるかも知れない。しかし、そうなっても構わないと思っていた」場合も含むことになる。

もっとも、「そうなっても構わない」と思っていたかどうかは本人にしか分からない。
もし、そう思っていても本人が自白しなければ、それが外部的事実で証明されない以上「そのように思っていた」とは判断されない。


警察官が犯人を取り調べている。

警『そうか!君は相手が“人”だと知らなかったンだ。君は「人を撃とう」と思っていなかったンだ!』

犯『分かってくれましたか!私は「人を殺そう」とは思っていなかったンです!』

警『殺人の故意がなかったンだね。』

犯『そうなンです。』

警『君の言いたいことは分かった。しかし、「“万が一”人かも知れない」くらいは思っていただろう。
    どんなことにも“絶対”というのはないからネ。俺でもそのくらいのことは思うよ。』

犯『そりゃあ、誰でも“万が一”くらいは考えるでしょうね。』

警『誰でも「“万が一”でもいいや」と思うからねぇ。』

犯『“万が一”ですからネ。「“万が一”でもいいや」という気持ちがどこにもなかったとは言い切れませんヨ。』

こんな“手”に引っかかってはいけない。

警察官は世間話をしているのではない。「未必の故意があった」と言わせるように誘導しているのである。

きっぱりと次のように言わなければならない。

『「“万が一”人かも知れない」くらいは思いました。でも、「そんなことはない。もしそうであったら絶対困る。」と思っていましたよ!』


※「認識・認容」について。
法律書には「故意とは構成要件にあたる事実を認識・認容していること」と説明されている。
“認識”とは「知っていること」である。
“認容”とは「それを認めること」つまり「それでも構わない」と思うことである。


構成要件にあたる事実を知っていれば故意は成立する。
結果の発生を望んでいたこと(意欲していたこと)は必要ない。
「故意とは構成要件にあたる事実を確実に認識していたこと」である。

しかし、はっきりと認識していない場合がある。
「~かも知れない」と思っていた場合である。
この場合でも「それでも構わない」と認容していた場合は、未必の故意として「故意があった」とされる。

そこで「故意とは構成要件にあたる事実を不確実に認識し認容していたこと」が追加される。


この二つを一緒にすると、
「故意とは構成要件にあたる事実を確実に認識していたこと、または、不確実に認識していたが認容していたこと」となる。
そこで、「故意とは構成要件にあたる事実を認識・認容していたこと」という表現になるのである。


e.「それが犯罪になる」と知らなくても故意は成立  -「悪いことだと知らなかった」は通らない-


友達が学校へアワックスを2個持ってきた。
友達はあなたに『ヘアワックスを万引きしてきた。』と打ち明けた。
そして、『どうせ盗ってきたものだから、君に1個やる。』と言った。
あなたはそれを受け取った。

あなたは“盗品譲受け罪”となる。
※刑法256条1項
  「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を無償で譲り受けた者は、三年以下の懲役に処する。」

あなたは「それを盗品と知っていた」のだから、盗品譲受け罪の故意がある。

しかし、あなたは『そんな法律があるの?まったく知らなかった!』と反論するだろう。
そして、『犯罪メニューを知らなかったのだから、その犯罪を行う意思(故意)がなかった。』と主張するだろう。

残念ながら、あなたの主張は通らない。

そのことがちゃんと刑法に書いてある。
※刑法38条3項
  「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。」

「悪いことだとは知らなかった・法律で禁止されているとは知らなかった」は通用しないのである。

        
3.心神喪失(しんしんそうしつ)の状態なら犯罪にならない  -『酔っていましたから…。』・『ついかっとなって…。』は通るかな?-


※刑法39条
  「心神喪失者の行為は、罰しない。」)

“心神喪失”とは、「精神の障害により事物の理非りひ善悪ぜんあくを弁別する能力またはその弁別に従って行動する能力のない状態」である。(判例)

泥酔者・麻薬中毒者・精神病者のように“善悪の判断がつかない者”。
催眠術・マインドコントロールをかけられて、“善悪の判断はつくが、それに従って行動できない者”である。

これらの者が犯罪メニューの犯罪を行っても犯罪とはならない。

なお、夢遊病者のように「何をやっているのか分からない者」は故意がないので、心神喪失を持ち出すまでもなく犯罪とはならない。

    
4.刑事責任能力がなければ犯罪とならない  -小学生はおとがめなし。小学生が万引きしても犯罪じゃない-


※刑法41条
  「14歳に満たない者の行為は、罰しない。」

14歳から犯罪を行えることになる。
中学1年生が人を殺しても、万引きをしても殺人罪や窃盗罪とはならない。

年少者は物事の善悪を判断して、それに従って行動することができない。
それを一律に「14歳未満の者」としたのである。

“14歳”は少々甘いと思われるが、「将来、改善の見込みがある」ことも考慮されている。

    
5.可罰的違法性(かばつてきいほうせい)がなければ犯罪とならない  -小さいことはおめこぼし。カキフライ一個を食べても犯罪じゃない-


“可罰的違法性”とは「犯罪として罰するに値する悪さ」である。
犯罪メニューの中にあっても、それが、「とるに足らないもの」であれば犯罪とならない。

このことは刑法には書いてないか、通説・判例で認められている。

たとえば、
窃盗罪の構成要件は「他人の財物を窃取した者」であるが、ペプシの景品を1個盗ったり売り場のブドウの房から一粒食べたりしても窃盗罪にならない。
「刑罰を与えるほどに悪くはない」からである。


次講では、
・⑦.正当防衛が成立する場合。
・⑧.緊急避難が成立する場合。
・⑨.自救行為が成立する場合。
・⑩.正当行為・正当防衛・緊急避難・自救行為だと誤信していた場合。
を説明しよう。


つづく。




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