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第10講.現行犯逮捕でできること
私服保安になりたてのころ、指導女性私服保安(いわゆるウーマン)に言われたことがある。
『犯人に声かけするときに、絶対に相手の体に触れてはいけない』
私はそれが不思議でならなかった。現行犯逮捕するのだから体に触れても良いはずである。
私が『なぜ触れてはいけないのですか?』と質問すると、『そんなことでは悪徳私服保安にしかなれない!』と叱られた。
私服保安の世界は「鉄則」が師匠から弟子へ代々口伝されてきた。
理由はなんでもよい。それを守っていればよい。
「店外10m」や「犯人の体に触れてはいけない」のもその一つである。
しかし、法律で何をすることが許されていて、何をすることが許されていないかを知っておくことは必要である。
現行犯逮捕でば、犯人の体に触れても構わない。
犯人が抵抗したら組み伏せても構わない。
現行犯逮捕の逮捕とは「相手の身体を直接拘束すること、その後、拘束を短時間継続すること」であり、
その拘束に使う実力行使の程度は「警察官の使う実力行使より強くても構わない」(判例)
ただし、軽い犯罪の場合は氏名・住所が分からないときにしか現行犯逮捕できないし、
現行犯逮捕に「逮捕の必要性があるか」、現行犯逮捕したあと「警察に引き渡さないで釈放してもよいか」に付いては意見が分かれている。
これらのこともしっかりと頭に入れておかなければならない。
★逮捕するとは身体を直接拘束すること、その後、拘束を短時間継続すること
★逮捕するために認められる実力行使の程度
・軽い罪を行った者を現行犯逮捕するときの制限
★現行犯逮捕に逮捕の必要性は必要か?-意見は分かれるが判例は「逮捕の必要性は不要」
★直ちに引き渡すこと-何分までOKか?警察に引き渡さないで釈放してもよいか?
3.現行犯逮捕の内容 -現行犯逮捕は「捕まえること」と「警察にすぐに引き渡すこと」しかできない
※刑訴法213条(現行犯逮捕)
「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。」
※刑訴法212条2項(準現行犯人)
「次に挙げる者が…(中略)…認められる時は、これを現行犯人とみなす。」
a.「逮捕すること」ができる。
大切なのでもう一度復習しておこう。[※第三章-Ⅲ]
イ.「逮捕」とは身体を直接拘束すること、その後、拘束を短時間継続すること
“逮捕”とは「身体を直接に拘束すること、その後、拘束を短時間継続すること」である。
つまり「万引き犯の体を捕まえて動けないようにし、少しの間そのままにしておくこと」である。
『チョット待った!』と万引き犯の腕を掴んだり、服や鞄を掴んだりするのは当然認められる。
犯人が逃げようとしたり抵抗したりしたら、「逮捕」すなわち「身体の拘束・その後の短時間の拘束継続」をするために「より強い実力行使」をすることができる。
そうでないと逮捕できないからである。
これは、逮捕に含まれることになる。
また、万引き犯人が抵抗した場合は窃盗罪ではなく事後強盗罪として強盗罪となる。
この点からも「強盗を捕まえる程度の実力行使」ができることになり、「より強い実力行使」ができることになる。
・逃げ出したので飛びついて組み伏せた。
・掴んだ手を振り払ったので関節技をかけた。
・殴りかかってきたのでジャブを軽く顔面に入れた。
これらは認められるであろう。
しかし、
・逃げる犯人を後ろから突き倒した。
・掴んだ手を振り払ったので投げ飛ばした。
・殴り掛かってきたのでジャブで出鼻をくじき、ストレートでKOした。
これらは行き過ぎであろう。
但し「より強い実力行使ができる」のは、犯人が「自分の万引きが見つかった」と知って、逃げたり抵抗したりする場合でなければならない。
犯人が「人相の悪いオッサンが急に襲ってきた」と思って、そうした場合は犯人の言い分も考慮される。
私服保安はできるだけ早く万引き犯人に「自分が私服保安であること・なぜ捕まえたのか」を説明しなければならない。
「逮捕行為として認められる行為」は正当行為(刑法35条)として暴行罪や傷害罪にはならない。
行き過ぎた行為は、暴行罪や傷害罪となる。
ロ.逮捕するために認められる実力行使の程度 -一般人は警察官より強い力を使ってもかまわない-
「逮捕行為としてOKか行き過ぎか?」は社会通念で判断される。
・犯人が女子中学生とゴツイ南米系男性では違ってくる。
・逮捕する者が“女性私服保安”か“ひ弱な男性私服保安”か“屈強な男性私服保安”かによっても違ってくる。
判例は「一般人が現行犯逮捕する場合は、警察官よりも実力行使の度合いが強くてもよい。」としている。
しかし、私服保安は万引き検挙を職業としているからまったくの一般人とは言えない。
「ピストルと公務執行妨害罪で護られている」警察官よりは実力行使の度合いが強くてもよいが、まったくの一般人よりは実力行使の度合いは弱くなるだろう。
何度も言っているように、「法律上認められること」と「私服保安としてやっていいこと」は別問題である。
「法律上認められる行為」は、「それをしても、犯罪とならず刑事責任を負わされない」というだけのものである。
・刑事責任がなくても民事責任が生じることがある。
・マスコミに取り上げられてスキャンダルになることもある。
・また逮捕現場を見た一般客が、『チョット行き過ぎじゃない!』『あそこまでするのはかわいそうだ!』と店にクレームをつけてきたら、それだけで店に迷惑がかかる。
私服保安は万引き犯人に対し、最後の最後まで実力行使をせずにソフトに笑顔で、他の客に悟られないように逮捕しなければならない。
しかし、「法律がどこまで許しているか、どこからは許していないか」をはっきり知っておく必要がある。
そうでないと、「最後の最後にどこまでできるのか」が分からないからである。
そのための法律知識である。
※読者からの質問-当社のマニュアルには「現行犯逮捕をするための実力行使は、警察官が行う程は認められていない」とされている。 → こらら
★★07
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つづく。
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