RMX250-SJ13 整備資料



・2015.11.23.RMXのホイールベアリング交換





RMX④のリヤホイールにガタがあるのを見つけました。
イノウエ・GP210を履かせたリヤホイールです。

このホイールは一番初めの「部品取り・レース仕様」RMX①に付いていたものです。
その後、RMX①でスポーク全交換をし、モトクロスタイヤからGP210に変えました。
エンジン換装をしたRMX②ではアスファルトの上で酷使。今年の5月に控えのRMX④に付けられるまで4年以上も頑張ってくれたものです。

この4年間は飛んだり跳ねたりしていませんが、
もともとの使用がハードであっただろうし、4年の使用でベアリングの交換時期が来たのでしょう。

RMX④は予備車両ですが、GP-210の「フロント21インチ・リヤ18インチ」がいつ必要になるかもしれません。
ホイールベアリングを交換しておくことにしました。

以下では内容が非常に理屈っぽくなっています。
手順だけ確認するために「ホイールベアリング圧入手順まとめ/印刷用」を作っておきました。


必要なベアリングとオイルシール/合計3000円程度
取り外したベアリングの状態
ベアリングの基礎知識/接触型と非接触型,両側シールと片側シール,それらを示す記号
部品番号から分かるベアリングのサイズと形状(推測)
マニュアルの「隙間ができる」とは
「リヤは右から先に、フロントは左から先に」圧入する理由
スペーサとベアリングの関係
ベアリングの圧入
圧入器具
リヤ右側ベアリングの圧入
リヤ左内側ベアリングの圧入
リヤ左外側ベアリングの圧入
フロント左側ベアリングの圧入
フロント右側ベアリングの圧入
ホイールベアリング圧入手順まとめ/印刷用
アクスルシャフトにグリスを塗る理由


   
1.必要なベアリングとオイルシール


スズキのベアリングを純正部品で入手すると驚くほど高価です。

純正ベアリングといっても、汎用の規格ベアリングにスズキ純正の包装がしてあるだけです。
同じものをモノタロウで入手すれば驚くほど安くなります。

・三種類・五個のベアンリングが必要です。

・一台分で1725円です。

・オイルシールは純正で合計1237円
  純正部品はモノタロウでも入手できます。

・ホイールペアリング交換に必要な費用は3000円程度です。


①後輪外側×2
・型番:6204 (外径/47㎜,内径/20㎜,巾/14㎜)
・シール:両側ゴムシール・接触型
・部品番号:08133-62047
・純正:KOYO-6204-2RS (409円)
・代替:NTN 6204-LLU (364円) ・ NSK 6204-DDU (359円) ・ NACHI 6204-2NSE (350円)

②後輪左内側×1
・型番:6004 (外径/42㎜,内径/20㎜,巾/12㎜)
・シール:片側ゴムシール・接触型
・部品番号:08123-60047
・純正:KOYO-6004-RS
・代替:NTN 6004-LU (349円)
※モノタロウでは KOYO,NSK,NACHIの片側ゴムシール・接触型は扱っていない。両側ゴムシール・接触型の片側シールを外すしかない。
  但し、ゴムシールといっても鋼板にゴムコーティングしたものであるので簡単に外れるかどうか分からない。
※両側ゴムシール・接触型:KOYO-6004-2RS,  NSK-6004-DDU,  NACHI-6004-2NSE

③前輪×2
・型番:6003 (外径/35㎜,内径/17㎜,巾/10㎜)
・シール:片側ゴムシール・接触型
・部品番号:08123-60037
・純正:NTN 6003-LU(伝電動機ドットコム) (341円)
・代替:NSK-6003-DU (446円)
※モノタロウではKOYO,NACHIの片側ゴムシール・接触型は扱っていない。両側ゴムシール・接触型の片側シールを外すしかない。
※両側ゴムシール・接触型:KOYO-6003-2RS,  NACHI-6003-2NSE


今回は全てNTNで統一しました。
在庫が豊富で、待たされませんからネ。
一台分の値段は、NTN-6204-LLU (364円)×2+NTN-6004-LU (349円)×1+NTN-6003-LU (324円)×2=1725円(税抜き)です。

オイルシールは純正部品で入手。

④後輪ハブオイルシール×2
・部品番号:09283-26019 (464円)
・刻印:KOYO・MHRA-26-47S
・サイズ:26×47×5

⑤前輪ハブオイルシール×1
・部品番号:09284-23001 (313円)
・サイズ:23×35×6

⑥後輪ハブサークリップ×2
・部品番号:08331-41478 (172円)
※通常のサークリップよりとても頑丈なので交換の必要はありません。
※念のために2個入手しましたが、写真には写っていません。

結局、前後ホイールベアリング交換に必要な部品第は 3000円程度になります。
土日のネット注文は5%値引きです。
3000円以上の注文で送料無料になります。

    
1-2.取り外したベアリングの状態


取り外したベアリングとオイルシールです。

・①L.リヤ・スプロケット側(左側)の外側ベアリング
  内輪にガタ。軸方向・円周方向にはっきりとしたガタがある。
・②.リヤ・スプロケット側(左側)の内側ベアリング
  内輪にガタは感じない。サビなし。
  スムーズに回らないが、取り外すときに内輪を引っ張っているのでその影響もある。
・①R.リヤ・デスク側(右側)ベアリング
  外輪と内輪にサビ。みるからに痛んでいる。
  外すときにベアリング部を叩いたので、まったく動かない。
・③L・③R.フロント左右ベアリング
  フロントホイールにガタはなし。ベアリング型番確認のために取り外しただけ。
  ガタや引っかかりなし。
  ただし、取り外すときに内輪に力をかけたので、ベアリングだけ交換
・④L・④R.リヤ・左右オイルシール
  痛み相応。そもそも、防塵・防水のためのもので、痛んでいてもそれほど支障はないだろう。
・⑤:フロントオイルシール
  痛みなし。予備ホイールだからオイルシールは交換しない。このまま使う。

   ★★29    
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2.ベアリングの基礎知識


今回いろいろ収集した基礎知識を書き留めておきます。


a.金属シールドとゴムシール

ベアリングの外輪と内輪の間に、金属板(シールド板)や鋼板に合成ゴムを固着させたもの(シール板)を挟んだベアリングがあります。

その目的は防塵性,防水性を高めること。

防塵性・防水性は金属板よりゴムの方が優れています。

ホイールベアリングには防塵性・防水性が強く要求されるので、ゴムシール板でシールされたベアリングが使われます。


b.接触ゴムシール型と非接触ゴムシール型

・ゴムシールではシール板の一方は外輪の溝に固定され、もう一方は内輪の溝にはまります。
  左の写真のaとbです。※写真はNTN-6004-LU

・このとき、シール板が内輪の溝に接触するものと接触しないものがあります。
  つまり、ゴムシール板がb溝に接触するものと接触しないものです。
  前者を接触型、後者を非接触型と呼びます。

・接触型は防塵性・防水性に優れますが、
  シール板が内輪に接触しているので、それだけベアリングの回転が妨げられます。
  非接触型はベアリングの回転が妨げられませんが、防塵性・防水性が劣ります。

・バイクのホイールでは、回転性より防塵性・防水性が要求されるので
  接触型ゴムシールが使われるのが一般です。

・なお、金属板シールドはすべて非接触型です。

  ※技術的資料は→→→こちら



c.両側シールと片側シール

このゴムシールにはベアリングの両側になされる場合と片側だけになされる場合があります。
前者を両側シール、後者を片側シールと呼びます。


d.接触型・非接触型を示す記号

シールが金属シールドかゴムシールかは一目で判ります。
しかし、ゴムシールが接触型か非接触型かは見た目で区別がつきません。

そこで、「接触型か非接触型か」を示す記号が用いられます。
この記号はベアリングメーカーによって異なります。

(片側接触型/両側接触型)

・NSK→ DU / DDU
・NTN→ LU / LLU
・KOYO→ RS / 2RS
・NACHI→ NSE / 2NSE

(片側非接触型/両側非接触型)

・NSK→ V / VV
・NTN→ LB / LLB
・KOYO→ RU / 2RU
・NACHI→ NKE / 2NKE


なお、片側シールも両側シールもシールに刻印されている記号は同じです。

例えば、SJ13のリヤホイール外側ベアリングは純正で KOYO の 6204-2RS (両側接触型ゴムシール)が付いています。
しかし、ベアリングのゴムシールに刻印されている記号は 6204-RS で、6204-2RS とは刻印されていません。
もう一方の側にも 6204-RS と刻印されているから、両方で2RSなのです。

もちろん、ベアリングのパッケージには 6204-2RS と書いてありますが、ベアリングの片面を見る限り、それが片側シール(RS)なのか両側シール(2RS)なのかは分かりません。
片側シールなのか両側シールなのかは実際にベアリングを外してみなければ分からないのです。

    
e.部品番号から分かるベアリングのサイズと形状(推測)

部品番号とベアリング形状は一定の関係があり、部品番号からベアリング形状を判断することができます。

もう一度、ベアリング形状と部品番号をみてみましょう。

・後輪外側ベアリング:両側接触ゴムシール・6204番 →部品番号 / 08133-62047
・後輪左内側ベアリング:片側接触ゴムシール・6004番 →部品番号 / 08123-60047
・前輪ベアリング:片側接触ゴムシール・6003番 →部品番号 / 08123-60037

部品番号の後の数字列の初めから4桁がベアリングの型番、前の数字列の4桁目が「両側か片側か」を表しているようです。

08133-※※※※※なら「3=両側」、08123-※※※※※なら「2=片側」を表しているようです。


では、08113-※※※※※ ならどうでしょう?

4桁目の数字は1です。

3=両側」・「2=片側」なら「1=シールなし」でしょうか?

SJ13には08113の番号を持つ部品はありません。

しかし、パーツリストによるとRH250 (SJ11B)の前輪右ベアリングは 08113-62017、前輪左ベアリングは 08123-62017 です。
RH250は前輪右に「シールなしの6201番」、左に「片側シールの6201番」を使っているのでしょうか?

さらに、RH250の後輪ベアリングは 08143-62017 。
今度は、4桁目が「4」です。

3=両側」・「2=片側」・「1=シールなし」としたら「4」はどんなベアリングなのでしょうか?

だから、この推測は外れているかもしれません。


なお、SJ14の後輪ベアリングは左右の外側ベアリングも左の内側ベアリングも同じ、08133-60047 です。

6004番だから、SJ13の左内側ベアリングと大きさは同じです。
SJ13では外側に一回り大きい 6204番、内側に小さい 6004番を使っていますが、SJ14では外側も内側も小さい 6004番を使っていることになります。

また、SJ13の内側ベアリング・6004番は片側シールですが、SJ14の 6004番は部品番号が「08133」ですから「両側シール」だと推測できます。

当然、接触型が使われているでしょうから、「両側ゴムシール・接触型の 6004番」でしょう。
NTN-6004-LLU か KOYO-6004-2RS が使われているでしょう。

もちろん、これは部品番号からの推測です。
「金属シールドかゴムシールか」、「接触型か非接触型か」、「両側シールか片側シールか」は実際にベアリングを外して判断してください。
    ★★30    
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3.マニュアルの記述にビクつくな


a.マニュアルの記述にある「隙間ができる」の意味


ホイールベアリング交換についてマニュアルに次のようなことが書いてあります。(P13-1~P13-5)

・リヤは先に右側ベアリングをハブ段差に当たるまで圧入。
・次に左側の内側ベアリングと外側ベアリングを圧入。
左側の内側ベアリングとハブ段差の間には隙間ができる

・フロントは先に左側ベアリングをハブ段差に当たるまで圧入。
・次に右側ベアリングを圧入。
右側ベアリングとハブ段差の間には隙間ができる。

そして、ごていねいに「ここに隙間」とイラスト説明。


エ~ッ!

なぜ、リヤは右から先に圧入し、フロントは左から先に圧入するの?
まあ、それは「その順番でやれば良い」のだから問題はないけれど、

「リヤ左側の内側ベアリングとハブ段差に隙間」・「フロント右側ベアリングとハブ段差に隙間」ってどれだけの隙間なの?
そもそも「何のために隙間をあける」の?

戸惑います。

しかし、落ち着いてマニュアルを読んでみましょう。

マニュアルには「隙間を作れ」とは書いてありません。
「隙間が自然とできる」のです。
だから、「どれだけの隙間」と数字を挙げていないのです。

ベアリング圧入も「隙間をつくるための特別な方法」は必要ありません。
通常通り「抵抗を感じて止まるまで」圧入すればよいのです。
それで、隙間ができるのです。

その点を以下に説明します。

その前に、「リヤベアリングは右から先に、フロントベアリングは左から先に圧入する」理由を説明しましょう。

    
b.「リヤは右から先に、フロントは左から先に」圧入する理由


次に説明しますが、ハブ穴にはスペーサが入っています。

このスペーサは「ハブ段差~ハブ段差」より少し長く、ハブ段差から少し出るようになっています。

だから、先に圧入するベアリングはハブ段差で止まりますが、後から圧入するベアリングはこのスペーサで止められてハブ段差に達することができません。


ブレーキデスクが付いているのは、リヤでは右側、フロントでは左側です。

リヤの右側ベアリング・フロントの左側ベアリングを先に圧入するのは、このベアリングをハブ段差まで到達させるためです。

それは、ベアリングがハブ段差に到達してブレーキデスクのセンターが出るように設計してあるからです。

要するに、「ベアリングはデスク側から先に圧入する」ということです。


それでは、両側にブレーキデスクがある場合はどちら側から先に圧入するのでしょうか?

FJ1200のマニュアルでは「右側から」(P6-4)、NSRのマニュアルでも「右側から」(P12-9)。

それで、両側デスクのセンターが出るように設計してあるのでしょう。

だから、ベアリング圧入の順番はマニュアル通りにしなければなりません。
  ●●      
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c.スペーサとベアリングの関係


・ブレーキデスクのセンターを出すためにベアリングをデスク側から先に圧入する。
・デスク側のベアリングは段差で止まる。
・ハブ穴にはパイプ状のスペーサ※が入っている。
・このスペーサは「ハブ段差~ハブ段差」より少し長い。

・デスク側と反対側のベアリングを圧入する。
・ベアリングはスペーサのところで止められて段差ま達することができない。
・ベアリングと段差の間に隙間ができる。

  ※NSR/デスタンスカラー,FJ/スペーサ、RMX/ハブベアリングスペーサ
  ※以下ではハブベアリングスペーサ or スペーサと記述。


このスペーサは何のためにあるのでしょう。

そして、なぜ「ハブ段差~ハブ段差」より少し長いのでしょう。

「何で?」を自分なりに解決しないと先に進めません。

少し考えてみました。


イ.ベアリング内輪はアクスルシャフトに固定されていない

・ベアリングが回転するためには、
  ベアリング外輪とベアリング内輪が別々に(独立して)固定されていなければなりません。

・ベアリング外輪はハブときつくはめ合いハブに固定されています。
・ベアリング内輪にはアクスルシャフトが挿入されます。
  ここで、アクスルシャフトがベアリング内輪ときつくはめ合い、
  ベアリング内輪がアクスルシャフトに固定されれば、
  「ベアリング外輪とベアリング内輪が別々に固定される」ので問題はありません。

・しかし、アクスルシャフトは頻繁に抜き差ししなければならないので、
  ベアリング内輪より細く、ベアリング内輪に固定されません。
  ベアリング内輪はどこにも固定されていないので、
  ホイールが回転するとベアリング内輪がアクスルシャフトの周りをを回ってしまいます。
  つまり、ベアリング本体がシャフトの周りを回ってしまうのです。
  これではベアリングを付けた意味がありません。

・だからベアリング内輪をハブとは別のどこかに固定しなければならないのです。



ロ.ベアリング内輪はどこに固定されているか?

でば、ベアリング内輪はどこに固定されているのでしょうか?

上の写真を見てください。

・ベアリング内輪は外側からカラー、内側からスペーサで挟まれ、アクスルシャフトが挿入されます。
・アクスシャフトはアクスルナットがスイングアームを外側から締め付け、スイングアームに固定されます。
・すると「カラー+ベアリング内輪+スペーサ+ベアリング内輪+カラー」も押しつけられ、それらが一体となってスイングアームに固定されます。

つまり、「ベアリング内輪はスイングアームに固定されている」ことになります。

結局、スペーサは両側のカラーと一体になって、ベアリング内輪をスイングアームに固定するパイプになっているのです。


ハ.スペーサはハブの「段差~段差」より長い

スペーサの長さと「ハブの段差~段差」が同じなら、カラーとスペーサでベアリング内輪をしっかりと挟みつけることができません。

カラーとスペーサがベアリング内輪をしっかりと挟みつけ、「カラー+ベアリング内輪+スペーサ+ベアリング内輪+カラー」が一体とならなければ、
カラーをスイングアームに固定しても「ベアリング内輪をスイングアームに固定した」ことになりません。

スペーサの長さが「段差~段差」よりすこし長いのは、ベアリング内輪を挟みつけるための“締め代(しめしろ)”なのです。


ニ.左外側ベアリングの位置でスペーサが内輪を押しつける力を調整する

・右ベアリング(写真のR)は外輪が右段差で止められるので動かすことはできない。
・スペーサは「左第2段差~右段差」より少し長いので、左第2段差から左へ少し出っ張る。
  そのため、左内側ベアリング(L2)と左第2段差の間には隙間ができる。

・また、「左第1段差~左第2段差」と「左内側ベアリングの巾」が同じなので、
  左内側ベアリングも左第1段差から左に出っ張る。
  このため、左外側ベアリング(L1)と左第1段差の間にも隙間ができる。※注意1

・つまり、L1もL2も段差との間にスペーサが出っ張った分だけ隙間ができ、
  この分だけ右に動かすことができるの。
  ただし、L1の内輪はL2の内輪で、L2の内輪はスペーサで止められているので、
  右に動かすことができるのはL1・L2の外輪。

・また、L1の外輪はL2の外輪とくっついているので、
  L1の外輪を動かした分だけL2の外輪も動く。
  つまり、 L1を打ち込めば(L1を右に動かせば)、
  その力は「L1外輪→L2外輪→L2ベアリング列→L2内輪→スペーサ→R内輪」と伝わり、
  スペーサがL1・L2・Rの内輪を押す力が強くなる。
  このようにして、左外側ベアリングの位置でスペーサが内輪を押す力を調整している。

※注意1
「隙間ができる」と書くと「左内側ベアリングがスペーサに押されて動き、左外側ベアリングが左内側ベアリングに押されて動く」ように感じられる。
しかし、実際は「右側ベアリングを先に圧入するので、次に圧入する左内側ベアリングはスペーサに邪魔されて左第2段差に到達することができない。」
そして、「最後に圧入する左外側ベアリングは左内側ベアリングに邪魔されて左第1段差に到達することができない。」ということになる。


ホ.押しつけ過ぎに注意

ここで注意しなければならないのは、「スペーサが三つのベアリングの内輪を押している」ことです。

L1を打ち込みすぎると、L1・L2・Rの内輪と外輪のズレが許容範囲を超えて、ベアリングがスムーズに回転しません。
ベアリングがスムーズに回転しなければ、ベアリング列に許容値以上の力が加わり、ベアリング列破損の危険が生じます。

「スペーサとベアリング内輪の圧着力」と「ベアリングの内輪と外輪のズレ・回転性」をどのように調整するかが問題となります。

そして、最後は「どちらを優先するか」の選択になります。


※参考-測定値

・後輪スペーサ:外径/25.4㎜Φ、内径/20.8㎜Φ、長さ/97.5㎜
・後輪アクスルシャフト:外径/20㎜Φ
・後輪ハブ:左第2段差~右段差=96.5㎜
・スペーサ出っ張り量=隙間=1.0㎜程度

・前輪スペーサ:太い部分の外径/27㎜Φ、両端外径/24㎜Φ、内径/17.1㎜Φ、長さ/50.0㎜
・前輪アクスルシャフト:外径/16.9㎜
・前輪ハブ:段差~段差=49.0㎜
・スペーサ出っ張り量=1.0㎜程度。


ヘ.「適正な隙間ができる」ための圧入方法


マニュアルが言う「隙間」とはスペーサが左側ハブ段差より出っ張って生じる隙間のことです。

だから、「隙間をとれだけにするか」は考えなくてよいのです。

隙間はできた分だけでよいのです。


左ベアリングの圧入は通常通りで「ベアリングがスペーサに当たって抵抗を感じるまで」。

しかし上で述べたように、圧入が甘いとスペーサが内輪に強く押しつけられず内輪の固定が甘くなります。
逆に圧入がキツイとスペーサが内輪を押しすぎて内輪と外輪にズレが生じベアリング回転が渋くなります。

これはクランクシャフトをクランクケースに引き込むときと同じです。

だから、ベアリングをある程度圧入したら、スペーサを確認。

スペーサにガタがあれば、ベアリングをもう少し圧入。

ベアリング内輪の回転が渋ければ、ベアリングを少し戻す。

「スペーサが左右ベアリングの内輪をしっかりと突っ張り」しかも「ベアリング内輪がスムーズに動く」ところがベスト位置。


なお、リヤ左側は内側ベアリングを圧入したあと、外側ベアリングを圧入するので、外側ベアリングが内側ベアリングを押します。

だから、内側ベアリングをベスト位置にしても、外側ベアリングが内側ベアリングを押すので内側ベアリングは圧入しすぎとなります。

そのため、「内側ベアリングを適正位置に圧入してから外側ベアリングを圧入する」のではなく、
「内側ベアリングをある程度圧入して(スペーサにガタがある状態)から、外側ベアリングを圧入。
「外側ベアリングと内側ベアリングを一体化させた状態」で圧入し、内側ベアリングを適正位置にする方がよいでしょう。


※参考-ベアリングを外す前の状態(測定値)

・リヤ右側ベアリング : ハブ外面~ベアリング=7.8㎜
・リヤ左内側ベアリング:ハブ外面~内側ベアリング=21.9㎜(第一段差から見た目で 0.5㎜弱出ている)
・リヤ左外側ベアリング:ハブ外面~外側ベアリング=7.8㎜(サークリップ溝下より見た目で1㎜弱下)
・フロント左側ベアリング:ハブ外面~ベアリング=6.3㎜
・フロント右側ベアリング:ハブ外面~ベアリング=6.2㎜(メーター突起上端~ベアリング=10㎜)

    
4.ベアリンク圧入の実際

※数値はベアリング巾以外すべて測定値です。
   ●●      
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a.圧入・取り外し器具


クランクケースのベアリング圧入のときに作ったものです。→→→ こちら

・フロントベアリングの圧入では「ネジ下110㎜のM16ボルト」が使えますが、
  リヤのベアリング圧入には「ネジ長が200㎜以上」必要です。
  そのようなボルトがありませんので、
  ステンレス・寸切りボルト・285㎜ (477円) を使いました。
  スチールでも構いません。スチールなら90円くらいです。

  使用するソケットは、
・26M:前輪ベアリング/6003番打ち込み用(外輪とピッタリでハブ穴に入る)
・22M:後輪外側ベアリング/6204番取り外し用(内輪とピッタリ)
・16M:前輪ベアリング/6003番取り外し用(内輪とピッタリ)※写真には写っていません。

・20㎜Φのベアリングが外せるパイロットベアリングプーラーも必要です。→→→こちら

 


     
b.リヤ右側(デスク側)ベアリングの圧入


★古いベアリングを重ねて、段差で止まるまで圧入
★覚えておく数字:段差深さ=21.6㎜、ベアリング厚=14㎜適正圧入目安=ハブ上面から7.6㎜

①新しいベアリングの初期打ち込み
・12時,3時,6時,9時のベアリング高さを均一にする。

②古いベアリングを上に重ねて一緒に圧入
・ベアリングを外すときも入れるときも、ドライヤーで少し温めてやるとスムーズにできる。
・圧入シャフトが両側ナット留めの場合は供回りするので注意。
・供回りすれば、シャフトピッチが2㎜でも、ナット一回りで圧入2㎜にならない。
圧入は軽く回していって抵抗を感じるまで。無理はしない

★演習問題1
・新しいベアリングを初期打ち込みした。出ている部分は 7.6㎜。
・古いベアリングを上に重ねて圧入する場合、圧入ナットをあと何回転させればよいか?
・圧入具のピッチ2㎜
 (答え)
 ・ベアリング厚=14㎜ → 初期打ち込み量=14-7.6=6.4㎜ → 残り圧入量=21.6-6.4=15.2㎜
 ・圧入ナットの回転数=15.2÷2=7.6回 → 7回転半したあと微調整。


③微調整
・重ねた古いベアリングを叩いて、そのベアリングの出ている量を6.4㎜にする。
新しいベアリング厚+古いベアリング厚-段差深さ=14+14-21.6=6.4

・ただし、段差で止まるので圧入し過ぎることはない
・圧入は外輪を押しているので、内輪とのズレは生じない。
・だから重ねた古いベアリングを叩いて止まれば、上の「6.4㎜」になる。

④古いベアリングを外す
・上から重ねて圧入した古いベアリングを外すためには、パイロットベアリングブーラーが必要。
・プーラーの足場を作ったり、ゲタを履かせたり。結構煩雑です。
・プーラーはできるだけ大型のものを入手しましょう。
・もちろん、20㎜Φのベアリングが外せるものです。


④サークリップをはめる

 これで、ハブ上面~ベアリング外輪=7.8㎜です。

 サークリップを溝にはめると、サークリップが軽く回ります。


このサークリップは縮めてはめたり外したりするタイプですが、異常なまでに頑丈です。

“並のサークリッププライヤー”では はめ外しに必要な分だけ縮まりません。

外すときはサークリップブライヤーで一部を溝から外してマイナスドライバーでこじる、はめるときはサークリップブライヤーで一部をハブ穴に入れてマイナスドライバーで溝まで押しこむ。

もちろん、通常のサークリップのように外側・内側の区別があります。

面が丸まっている方が、エッジの角度が小さく外側になります。
   ★★31     
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c.リヤ左(スプロケット側)内側ベアリングの圧入


★32Mソケットでたたく。ある程度圧入したらそれで終わり。あとは、外側ベアリングと一緒に圧入
★覚えておく数字:ハブ上面~ベアリング=20㎜ が限度。それ以上打ち込まないこと。
※第1段差の深さ=22.3㎜、第2段差の深さ=12㎜、内側ベアリング厚=12㎜、外側ベアリング厚=14㎜、スペーサ出っ張り量=1.0㎜

・スペーサは第2段差より1.0㎜出っ張っているはずだが、測定困難。
  出っ張りがもう少し少ないように思える。

①内側ベアリングにグリスをなじませる。
・内側ベアリングは片側シールです。
・開放型や片側シールド・片側シールにはグリスが塗ってありません。
  開放面にグリスをたっぷりと塗って、内輪を回転させてグリスをなじませます。
ベアリングのシール面が外側(左側)、開放面が内側(右側)です。

②内側ベアリングの初期打ち込みと圧入

・32Mソケットが外輪に合うので、32Mソケットを当てて初期打ち込み。

・12時,3時,6時,9時の出っ張り量(打ち込み量)は隙間が狭いのでノギスで測定できない。
  この四位置についてはハブ外面からベアリング外輪までの距離を測る。
  「ハブ外面~ベアリングが小」=「出っ張り量が大」→こちらを叩く。
  「ハブ外面~ベアリングが大」の位置を叩いてはいけません。

・初期打ち込みができたら、もう少し打ち込む。
  ハブ上面~内側ベアリング=15㎜程度でOK。
・ただし、ハブ上面~内側ベアリング=20㎜以上打ち込まないこと。※注意2




※注意2 : 内側ベアリングの初期打ち込みの限界量

a.ハブ上面~第2段差=第1段差深さ+第2段差深さ=22.3+12=34.3㎜
b.第1段差でのスペーサの出っ張り=1㎜
c.内側ベアリング厚=12㎜

内側ベアリングがスペーサまで達した場合、
ハブ上面~内側ベアリング=a-(b+c)=34.3-(1+12)=21.3㎜

内側ベアリングとスペーサが接すると、微調整ができなくなるから、ハブ上面~内側ベアリング=20㎜以上打ち込まないこと。

     
d.リヤ左(スプロケット側)外側ベアリングの圧入



③外側ベアリングをハブ上面まで圧入

・もちろん初期打ち込み必要です。

圧入器具のプレートがハブに当たるまで圧入
※プレートがハブ上面に当たるので、それ以上はベアリングが圧入できません。
  何も気にしないで圧入ナットを締めていけばよい。


④古いベアリングを重ねて、古いベアリングの初期打ち込み
・初期打ち込みはどんな場合でも必要。面倒くさがらずにやりましょう。

⑤一回目の圧入
・ 重ねたベアリングが出ている量=6.7㎜になるまで圧入

・a.ハブ上面~第2段差=第1段差深さ+第2段差深さ=22.3+12=34.3㎜
・b.第1段差でのスペーサの出っ張り=1㎜
・c.内側ベアリング厚=12㎜
・d.外側ベアリング厚=14㎜
・e.重ねた外側ベアリング厚=14㎜
・内側ベアリングがスペーサまで達すると、
  ハブ上面~内側ベアリング=a-(b+c)=34.3-(1+12)=21.3㎜。
  ハブ上面~外側ベアリング=21.3-d=21.3-14=7.3㎜
  重ねたベアリングがハブ上面からの出ている量=e-7.3=14-7.3=6.7㎜

・重ねたベアリングの出ている量が6.7㎜で内側ベアリングはスペーサと接している。
  これ以上圧入すると次の微調整ができなくなる。

※重ねたベアリングの初期打ち込みの結果、重ねたベアリングがハブ上面から出ているのが10㎜とすると
  残りの圧入量=10-6.7=3.3㎜。
  ピッチ2㎜の圧入器具ならナット回転数=3.3÷2=1.65回転
・実際に、この状態でナットを1.5回転すると、スペーサにガタツキあり。

⑥微調整

・スペーサがベアリング内輪からずれないように、アクスルシャフトを差し込む。

・そのまま古いベアリングを叩く。
  ハンマーで直接叩いてもよいし、角ブレートを当てて叩いてもよい。
  フロントフォークのオイルシール打ち込みのように鉄パイプを使う必要はない。

・アクスルシャフトを抜いて動きを確認。
  古いベアリングを外さなくてもよい。
  古いベアリングの内輪もスペーサと一体になって回転する。
  「スペーサがガタつかず、ベアリング内輪+スペーサがスムーズに回転するところ」に調整

⑦重ねた古いベアリングを外す
・パイロットベアリングプーラーが必要


⑧ベアリングの動きが渋ければ外側ベアリングを少し抜く
・スペーサが突っ張り棒になって左右ベアリングの内輪を固定。
・ホイールがスイングアームに固定されていない状態では、
  ベアリング内輪とスペーサは一緒になって回転する。
・内輪とスペーサの回転は結構固い。
  内輪だけを動かしていると「圧入し過ぎ」と判断してしまう。
・そのため、ハブ穴に両側から人指し指を入れて、タイヤを転がして確認する。
  タイヤがスムーズに進んでいけばOKです。

・圧入し過ぎのときはベアリングを少し戻す。
・プーラーを引っかけるのは外側ベアリングではなく内側ベアリング下面。
・戻すのはほんの少し、プーラー回転角度は30度未満。
・プーラーの爪を引っかけて拡げただけで、「パキッ」と音がしてベアリングが緩む。

適正位置の例 : ハブ上面~ベアリング=7.8㎜
・これは実際に圧入したときの一例です。
  内側ベアリングがスペーサと接する場合のハブ上面~外側ベアリング=7.3㎜だから、
  これより、0.5㎜だけ押しつけたことになります。


⑨サークリップをはめる。

サークリップの方向はエッジが立っている方(角がきつい方)が外側。
面取りしてある方が角がきつくなっているので、面取りしてある方が外側。

⑩オイルシールをはめる

押し込めばOK
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e.フロント左側(デスク側)ベアリング


①ベアリングにグリスを塗る

・開放側にグリスを塗って、内輪を回転させグリスを行き渡らせる。
・忘れないように両方のベアリングに行う。

②ベアリングの圧入
26Mソケットを直接当てて止まるまで打ち込む
・目安量/ハブ上端面~ベアリング=6.3㎜になる。


イ.数字

ハブ段差の深さ=16.3㎜、ベアリング巾(高さ)=10.0㎜、オイルシール巾(高さ)は6.0㎜

・ベアリングは段差まで圧入。
・オイルシールはハブ上端面とツライチ
・ベアリングとオイルシールの隙間=ハブ段差深さ-ベアンリング巾-オイルシール巾=0.3㎜。
  ベアリングとオイルシールの間には0.3㎜の隙間ができる。

・ベアリングを段差底まで圧入した場合
  =ハブ上端面~ベアリング上端面=ハブ段差深さ-ベアリング巾=16.3-10.0=6.3㎜。



ロ.26Mソケットの打ち込みだけでOK

 当初の予定は
  「ベアリングの初期打ち込み→古いベアリングを重ねて圧入→抵抗を感じて止まるまで。」

・しかし26Mソケットで初期打ち込みをするついでに、
  最後まで打ち込んでみたら簡単に打ち込み終了。
  小さいベアリングだからでしょう。
  古いベアリングを重ねることも不要でした。


ハ.数値確認

・これで、ハブ上面~ベアリング上面まで 6.3㎜です。
  きっちりとハブ段差まで打ち込めています。

・ただし、ソケットを当てての打ち込みはプレートによる圧入と異なり
  打ち込みは力が均一にかからないので、ベアリングが少し傾いて入っているかもしれません。
  それが気になるのなら、26Mソケットで「ダメ押し打ち込み」をやっておきましょう。
  この場合、外輪にどれだけ力をかけても問題はありません。※注意3
  「ダメ押し打ち込み」をやってもベアリングの動きが渋くなることはありません。

※注意3
・これは凹部にベアリングを圧入する場合のことです。
・凹部ではベアリング内輪は凹部から離れているので、ベアリング内輪に力を加えると、
  それがベアリング列に伝わりベアリングの動きを重くします。
  ベアリング外輪は凹部と接しているので、外輪の力はベアリング列に伝わりません。
  これに対し、凸部にベアリングを圧入する場合は、外輪が凸部から離れているので、
  外輪に力を加えるとその力がベアリング列に伝わりベアリングの動きを重くします。
  凸部の場合は内輪にどれだけ力を加えてもベアリング列に力は伝わりません。



ニ.どうしても圧入具で圧入したい場合

もちろん、圧入具で圧入できます。
しかし、メーターギヤの突起が邪魔になるのでそれなりの対策が必要です。

・デスク側のベアリングを圧入するのですから、
  デスク側が「押し側/プレートの上からナットを締める側」
  メーターギヤ側が「止め側/プレートを当ててるだけの側・ボルトの頭側」

・押し側も止め側も角ワッシャを当てますが、
  メーターギヤ側にはメーターギヤと噛み合う突起があります。
  この突起に角ワッシャを当てると不安定になります。
  だから、この突起部分に何かを被せなければなりません。

・ハブの外径は43㎜Φだから内径44㎜Φ以上。高さは20㎜くらい必要です。
・フロントフォークのオイルシール打ち込み器具が使えるようです。

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f.前輪右側(メーターギヤ側)ベアリングの圧入


こちら側は隙間ができる側です。
完全を求めてはいけません。


(数字)

右段差の深さ=17㎜、突起の高さ=3.8㎜、・突起~右段差底=20.8㎜
右ハブ段差~左ハブ段差=49㎜、スペーサ長=50㎜、スペーサの出っ張り量=1.0㎜

③スペーサを入れる。
・ハブ段差から1㎜出っ張る
・指でスペーサを触ってみると、しっかりと1㎜くらい出ているのが分かります。


④新しいベアリングの初期打ち込み
・アクスルシャフトをデスク側から挿入(デスク側に角ワッシャを挟む※次)
・古いベアリングを重ねる
・古いベアリングに角ワッシャを当てて打ち込む
新しいベアリング(下)が突起上端とツライチになるまで。

※アクスルシャフトを挿入するのは、
  支えがないと、新しいベアリングが突起に引っかかって傾き初期打ち込みができないから。



※デスク側のシャフトに角ワッシャを挟む

・アクスルシャフトをデスク側から挿入してメーターギヤ側のベアリングを初期打ち込みする場合、
  シャフトをそのまま突っ込むと、
  シャフトの段差が既に打ち込んだデスク側ベアリングの内輪に当たります。

・シャフト段差がデスク側ベアリングの内輪に当たったまま、
  メーターギヤ側のベアリングを叩くと
  その力がデスク側の内輪に伝わり、ベアリングの動きを害する危険があります。

・それを防ぐために、
  角ワッシャを挟んでシャフト段差がベアリング内輪に当たらないようにしなければなりません。


・二つの突起の上面と打ち込むベアリング(下)の上面が重なれば、初期打ち込みは均等。

・上に重ねた古いベアリングを外して確認。

・重なっていなければ、ベアリング外輪を叩いて調整。

・写真は重ねた古いベアリングを外した状態です。


⑤圧入

・初期打ち込みのあと、新しいベアリングに26Mソケットを当てて打ち込んでもよいでしょうが、
  やはり、ここは圧入具でゆっくりと慎重にやります。

・古いベアリングを重ねる。
・ドライヤーでハブ段差を温める
圧入できるところまで圧入する。/ブレートが突起に当たるまで圧入※注意4
・圧入具を外す。
・重ねた古いベアリングはそのまま。

※注意4

「圧入できるところまで」とは「古いベアリングの上に載せた角ワッシャがメーター突起に当たるまで」
これ以上は圧入できません。

角ワッシャが突起に当たったら、古いベアリングは突起上面とツライチ。

つまり、「突起上端から段差底」までに「古いベアリング,新しいベアリング,スペーサの出っ張っている部分」が収まっていることになります。

古いベアリング厚さ+新しいベアリング厚さ+スペーサ出っ張り量=10.0+10.0+1.0=21.0㎜。

突起上面~段差底=20.8㎜、

だから、これでスペーサを0.2㎜だけ押した状態になっているのです。

しかし、実際にはこの状態でもスペーサは充分に内輪を突っ張っていません。

この状態から微調整に入るのが一番よいのです。。

⑥微調整

・デスク側に古いベアリングを入れる。※注意5
・アクスルシャフトに角ワッシャを入れる。※注意6
・デスク側からアクスルシャフトを挿入する。※注意7
・デスク側を下にする。
・メーター側の古いベアリングを角ワッシャを当てて叩いて微調整。

※注意5
  メーターギヤ側のベアリングか叩かれるとスペーサを押し、
  スペーサがデスク側のベアリングを押してしまうことを防ぐため。
  デスク側のベアリングが段差底に達していなければデスクのセンターがでない。
※注意6:アクスルシャフトの段差が内輪に力を加えることがないようにするため。
※注意7:ベアリング内輪からスペーサがずれないようにするため。

 



(微調整の基準)

  調整の基準は
・スペーサにガタがあればベアリングをもう少し入れる。
・ベアリングの動きが渋くなったら入れすぎだから少し戻す。
・ベアリング内輪とスペーサが一体となって、しかもスムーズに回転するところで止める。

・しかし、ベアリング内輪とスペーサが一体となって動いても、
  「左右のベアリング内輪が別々に動くようではスペーサの突っ張りが甘い」といえる。
  問題は、どの程度の一体性で良しとするか。

・左右ベアリング内輪とスペーサが完全に一体となって動く状態では固すぎます。

・左の写真では、古いベアリング上面が突起テーパー部の下に来ています。
・突起テーパー部は0.5㎜あります。
・⑤圧入で重ねた古いベアリングが突起上面とツライチになった状態で
  下側のベアリングは既にスペーサを0.2㎜押しています。
  だから、この状態ではスペーサは0.7㎜押されていることになります。
  ここまでくると、ベアリングの動きは固くなります。


(ある程度で妥協する)

  完全を求めてはいけません。
  ある程度妥協することが必要です。

  スペーサの突っ張りが少しくらい緩くても事故は起こりません。
  スペーサの突っ張りが強くても、走っている内に適切な位置に戻るかもしれません。
  0.05㎜未満の調整です。適当に切り上げましょう。


(少し甘くてもアクスルナットで適正位置になる)

両方のベアリングは内側からスペーサで突っ張られて押されます。
デスク側のベアリング内輪はその外側にカラーが当てられ、アクスルシャフトの締め付けにより外側から押されます。
では、メーター側のベアリング内輪を外から押すののはどの部分でしょう。

・メーター突起を除いてハブ上端面~内輪=6.0㎜。 ・メータかみ合いから出っ張っているカラーは 6.5㎜。
・メーター側ベアリング内輪の外側にはこのカラーが当たり、
  アクスルシャフトの締め付けによって外側から押されます。


つまり、両側のベアリングはカラーとメーターカラーに挟まれて、外側からアクスルナットで500~800㎏・㎝で締め付けられます。
だから、ベアリングの圧入が甘くてもアクスルを締めるときに適正位置になります。

もっとも、外側から押されるのはベアリング内輪だけです。
かえってベアリング列に力がかかりその動きを阻害するのではないでしょうか?

気にしだしたらきりがありません。
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★ SJ13 ホイールベアリング打ち込み要領(まとめ)★


(準備)

※古いベアリングのサイズを確認 : 後輪外側左右/14㎜厚、前輪左右/10㎜厚

※新しいベアンリングとオイルシールの確認

・後輪右 ( デスク側 ) / 型番:6204 (外径/47㎜,内径/20㎜,巾/14㎜)、両側ゴムシール
・部品番号:08133-62047
・純正:KOYO-6204-2RS 代替:NTN-6204-LLU / NSK-6204-DDU / NACHI-6204-2NSE 

・後輪左 ( スプロケット側 ) 内側 / 型番:6004 (外径/42㎜,内径/20㎜,巾/12㎜、片側ゴムシール
・部品番号:08123-60047
・純正:KOYO-6004-RS 代替:NTN-6004-LU 

・後輪左外側 / 後輪デスク側と同じ

・前輪左右 / 型番:6003 (外径/35㎜,内径/17㎜,巾/10㎜)、片側ゴムシール
・部品番号:08123-60037
・純正:NTN-6003-LU 代替:NSK-6003-DU 

・後輪ハブオイルシール×2 : 部品番号 / 09283-26019、 刻印 / KOYO・MHRA-26-47S、 サイズ / 26×47×5

・前輪ハブオイルシール×1 : 部品番号 / 09284-23001、 サイズ / 23×35×6

※片側シールドベアリングの開放面にグリスを塗り込む。


(後輪)

a.デスク側

①新しいベアリングの初期打ち込み。

②古いベアリングを重ねて圧入、止まるまで。(段差底で止まる)

③古いベアリングを叩いて出っ張り量を6.4㎜にする。
※数値 : ハブ上面~ハブ段差=21.6㎜、ベアリング厚=14㎜、重ねたベアリングの出っ張り量=14×2-21.6=6.4㎜。

④古いベアリングを外す。

⑤ハブ上面~圧入したベアリング=7.6㎜を確認

⑥サークリップをはめる。
※スプロケット側ベアリングをはめた後でもよい。
※チェック : クリップは軽く回るか?

⑦スペーサをスプロケット側から入れる

b.スプロケット側

①内側ベアリングに32Mソケットを当てて初期打ち込み、ハブ上面~ベアリング上端=15㎜くらいでOK。あとは外側ベアリングを重ねて一緒に圧入。
※限界値:ハブ上面~ベアリング=21.3㎜ ( 内側ベアリングとスペーサーがくっつく)

②外側ベアリングの初期打ち込み

③外側ベアリングを圧入プレートがハブ上端に当たるまで圧入
※①の状態 ( ハブ上面~内側ベアリング=15㎜ ) なら、外側ベアリングと内側ベアリングの隙間は1㎜でくっついていない

④古いベアリングを重ねる。
⑤古いベアリングの初期打ち込み。

⑥古いベアリングと外側ベアリングと内側ベアリングを一緒に圧入。
※基準値 : ( 6.7㎜-初期打ち込みでの古いベアリングの出っ張り量 ) ÷ 2 回転。
※重ねたベアリングの出っ張り量=6.7㎜で外側ベアリング+内側ベアリング+スペーサがくっつく。
※圧入具のピッチ=2㎜/回

⑦アクスルシャフトを差し込んで、重ねたベアリングを叩いて微調整。
※デスク側にプレート不要。プレートを付けるとデスク側のベアリングを押さえられない。
※基準 : スペーサがガタつかず、スペーサーと両側のベアリング内輪が一体となって回転する程度。ややきつめでよい。

⑧古いベアリングを外す。
※基準値 : ハブ上端~外側ベアリング上端=7.3㎜+α ( 7.3㎜でスペーサーとくっつく。+αが押し込み量。だいたい7.8㎜くらいになる。)
⑨回転が固いときは外側ベアリングをプーラーで少し戻す。1/4回転で0.5㎜戻るから、1/4回転では戻し過ぎ。1/8回転=45度以内を目安にする。

⑩サークリップをはめる。


(前輪)

d.デスク側

①26Mソケットを当てて、そのまま打ち込む。止まるところまで。(段差底で止まる)
※小さいベアリングだから、圧入の必要はない。
※段差でベアリングの外輪が止まるから打ち込み過ぎはないし、ソケットは外輪に当たっているので内輪とのズレもない。
※基準値:ハブ上面~ベアリング=6.3㎜

e.メーターギヤ側

①デスク側から、アクスルシャフトにプレートを挟んで通し、新しいベアリンク,その上に古いベアリングをセット。
②重ねた古いベアリングを叩いて新しいベアリングの初期打ち込み。新しいベアリングが突起とツライチになるまで。
③アクスルシャフトを抜く。

④デスク側に古いベアリングを叩いていれる。
⑤圧入具を差し込んで、メーター側の古いベアリングを重ねたまま圧入。止まるところまで。(プレートが突起に当たって止まる)
※これでスペーサを0.2㎜押した状態になっている。

⑥圧入具を外しアクスルを差し込んで、メーター側の古いベアリングを叩いて微調整。
※突起テーパー部が0.5㎜あり、すでに0.2㎜押し込まれているので、古いベアリングの上端がテーパー部の中央が限界。
※少し叩けばよい。

⑦デスク側の古いベアリングとメーター側の古いベアリングを外す。

※微調整の基準:「左右ベアリングの内輪とスペーサが一体となって回り」かつ「ハブ両側から指を入れて、ホイール(タイヤ)を転がしたときにスムーズに回転する」こと。
※微調整に際しては上で述べた「スペーサの役割・働き」を充分理解しておくこと。


    
5.その他/アクスルシャフト挿入にグリスを塗る理由

  RMX④(右側)のリヤホイールのガタは完全になくなりました。
  しかし、控え選手であることに変わりはありません。

  『いつまで、車庫の端っこで待っていればいいんだ!』
  まあまあ、隣の正選手RMX②より調子のよいことは知っていますから…。
  「玉子焼きを最初に食べるか、最後に食べるか」の違いですよ。
  これはスマホ世代には分からない。

それはそうと、チェーン張りやプレーキパッド交換でアクスルシャフトを抜いたときシャフトにグリスを塗ってはめていませんか?

今回気づいたことなのですが、「ホイール(ハブ)が回っても、回転するのはハブにくっついているベアリング外輪」です。

ベアリング内輪はスペーサと一体となってアクスルシャフトによりスイングアームに固定されて動きません。

また、アクスルシャフトはベアリング内輪,スペーサ,カラー,オイルシールのどれにもくっついていません。

だから、アクスルシャフトにグリスを塗ってもホイールの回転とは何の関係もないのです。
アクスルシャフトにグリスを塗るのは挿入しやすくするためやサビ止めのためなのです。


つづく




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