RMX-SJ13 整備資料



 2016.04.29  6500円エンジン⑤の実走テスト終了/クラッチの滑り





エンジン⑤をRMX②に搭載して、2カ月間実走テストをしました。
エンジンの調子はよいのだが、クラッチがすべる。
クラッチアウターの段差がすべりの原因らしい。
キャブレターのオーバーフローの原因は思わぬところにありました。


エンジン⑤の問題点/クラッチの滑り
ギヤオイルが黒い
排気バルブの状態はOK
ピストンの状態はOK
クラッチの爪の段差/なぜできるのか
段差があるとプレート同士が自然と離れていかない
段差を平坦にしても一時しのぎ
エンジン⑤の今後
オーバーフローの本当の原因は


    
1.エンジン⑤の問題点と状態


a.問題点/クラッチの滑り


2月末にテストのためRMX②に搭載。→→→こちら
2カ月間走行テストをしました。
いつもの165号線のほか、尾鷲・熊野にも持ち込みました。

エンジンはまったく問題なく元気です。

今までのR・S型のエンジンまるよりパワーが出ています。
もっとも、R・S型エンジンは排気バルブが壊れていたので本来のパワーは出ていませんでしたが。→→→こちら

問題はクラッチ。

ジャダースプリングを入れてから、クラッチの切れが悪くなりました。
停止してクラッチレバーを握り1速に入れてもアイドリングストップはしませんが、そのままアクセルを開けると前に進んでしまいます。
オートマチック状態になっています。
RMX③/エンジン③にもRMX④/エンジン④にも、今まで載せていたエンジン②にもジャダースプリングを付けていますが、こんなことはありません。


また、これはエンジン⑤には関係ありませんが、RMX③から拝借していた29E00(N型)キャブレターに問題あり。
ときどきオーバーフロー。

走行中に燃料切れをしたかのように息継ぎをする。
加速・高回転中に点火カットをされたかのように回転数が落ちる。
停止してみると「ポタ、ポタ」。
燃料消費量も少し多い。

こんなの、オーバーフローの症状ですかネ?

クラッチを点検するついでに、エンジンを降ろしました。

    
b.ギヤオイルが黒い


エンジン不調はギヤオイルで分かります。

真っ黒なオイルが出てきました。

・前回ジャダースプリングを入れるときにも真っ黒なオイルが出てきて気になりましたが、
  エンジンを組んだあとなので様子を見ることにしていました。

・しかし、ジャダースプリングを入れたときに新しいオイルにして、
  まだ300㎞くらいしか走っていません。
  普通なら透明のオイルが出てくるはずです。

・粘度はあるが黒いススで真っ黒になっている。
  表面にはキラキラする微細な金属粉。

・排出量は700㏄強。750㏄くらい入れているからオイル上がりではない。

・やはり、クラッチのどこかが問題。。


    
c.排気バルブの状態


エンジン点検でまず見なければならないのがココ。

チョット勇気が要ります、もう新品部品は手に入りませんからネ。

・スペーサに損傷や磨耗はありません。
・問題なく動きます。
・ローバルブ,ミドルバルブとも削られていません。
・引き上げたあと離しても引っかかりなく戻ります。
・分解の必要はありません。→→→参照/削られたRSエンジンの排気バルブ

なぜか、右側のレバー取り付けボルトが少し緩んでいたので増し締め。

     
d.ピストンの状態


・160円の新品ビストンに損傷なし。→→→160円新品ピストン
   良い色に焼けています。

・驚いたことは下の写真のようにピストンにタテ傷が付いていなかったこと。
  もともとあった表面のアバタが削られているだけで、爪に引っかかるようなタテ傷なし。
   シリンダーの状態がよかっただけでなく、クランクの状態もよかったのでしょう。

※問題あるエンジンに新品ピストンを組むと始動テストをしただけでこうなります→→→こちら
  さらに走行テストを少しするとこうなります→→→こちら
  これはクランク右ベアリングが大破しているのに、それを知らずに新品ピストンを組んだものです。
  クランクシャフトが振れるのでピストンが首振りして
  シリンダ内の吸気孔や排気孔に当たり生々しいタテ傷が付いたのです。

  なお、このピストンはその後三年間、現役で酷使されました。→→→こちら
  だから、ピストンにタテ傷がついてもその原因を解消すればよく、
  「タテ傷自体はあまり気にする必要はない」ということになります。



   ★★15     
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2.クラッチの状態


a.アウター(プライマリードリブンギヤ)に段付き


プライマリードリブンギヤ(アウター)とクラッチスリーブハブ(インナー)は左回転。
「回転方向を前側とした場合」、クラッチがつながったときに強く押しつけられるのは「ハウジングの爪の前側」と「プレートの後側」
ここに段差ができます。

・アウターの爪の後側にも当たり模様は出ています。
  しかし、指の腹で触ると平坦で段差を感じません。
・アウターの爪の前側には、はっきりとした段差が付いています。
   こんな深い段差があれば、ドライブプレートは自由に動くことができません。


・インナーの爪の後側には段差模様はありますが凹凸はありません。

・インナーの爪の前側にも段差模様がありますが凹凸はありません。
・この程度なら段差と言えず、
  この爪に収まるドリブンプレートの動きは邪魔されないでしょう。



b.アウターとインナーで段差のつき方が違うのはなぜか?


アウターとインナーで段差のつき方が違うのは、エンジンの回転をアウターが受け、それがプレートを介してインナーに伝わるからでしょう。

・クラッチを切っているときに回転しているのはアウター(プライマリードリブンギヤ)とそれに噛み合っているドライブプレート。
  インナー(スリーブハブ)とそれに噛み合っているドリブンプレートは回転していません。

・クラッチをつなげると、バネの力でドライブプレートとドリブンプレートが押しつけられ、アウターの回転がドライブプレートとドリブンプレートを介してインナーに伝わります。

・このとき、まずアウターとそれに噛み合っているドライブプレートが当たり、次にドリブンプレートとそれに噛み合っているインナーが当たります。
  ドリブンプレートとインナーが当たる衝撃力はドライブプレートとドリブンプレートの滑りで緩和されるので、アウターとドライブプレートの衝撃力より小さくなります。
  この衝撃力の違いが段差の大きさの違いとなっているのでしょう。
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c.アウターに段差があるとクラッチが切れないのはなぜか?


次のようなものでしょう。

・クラッチがつながっている場合、ドライブプレートとドリブンプレートはバネを介してクラッチプレッシャーデスクで内側へ押さえつけられています。

・押さえつけられたドライブプレートとドリブンプレートは、その摩擦力によって一緒に回転し、プライマリードリブンギヤの回転力をスリーブハブに伝えています。

・クラッチを切る(レバーを握る)と、ブレッシャーデスクが外側へ動かされバネが伸びてドライブプレートとドリブンプレートを押さえつけている力がなくなります。

・押さえつけている力がなくなると、ドライブプレートとドリブンプレートの摩擦力が激減し、ドライブプレートの回転力がドリブンプレートに伝わらず、
  プライマリードリブンギヤの回転力がスリーブハブに伝わらなくなります。

・ ここで注意しなければならないのは、クラッチを切ってもドライブプレートとドリブンプレートを押しつける力がなくなるだけで、
  「ドライブプレートとドリブンプレートが強制的に離されるのではない」こと。
  「ドライブプレートとドリブンプレートは滑ることで自然に離れていく」こと。

・湿式クラッチはプレートの間にオイルが入るので、オイルの粘着力によって二つのプレートが離れることを邪魔します。

・さらに、ジャダースプリングが付いていると、クラッチを切ってプレートを押しつける力をなくしても、ジャダースプリングが内側から押してプレートを押しつけます。

・もちろん、このようなオイルの粘着力とジャダースプリングの押しつけ力は計算済みで、それらを含めてクラッチを切った時には自然に両プレートが離れるように設計されています。

・しかし、アウターに段差があると話は別です。

・この段差はクラッチがつながったときに付くもので、ドライブプレートがドリブンプレートに押しつけられている時のものです。
  だから、クラッチが切られドライブプレートがドリブンプレートと滑り合って自然に離れようとするときに、
  ドライブプレートがこの段差に引っかかって、ドリブンプレートから上手く離れられないのです。

・ドライブプレートは8枚、ドリブンプレートは7枚。
  この中の何組かでもうまく離れられないと、オイルの粘着力で半クラッチ状態になってしまいます。

    
d.修復は可能か?


アウターの段差を削って平坦にすれば、ドライブプレートが段差に引っかかることなくドリブンプレートから自然に離れます。

しかし、削った分だけアウターの爪の間が拡がります。
アウターの爪の間が拡がれば、ドライブプレートの爪との間に隙間ができ、かみ合いにガタができます。
アウターとドライブプレートのかみ合いにガタがあれば、クラッチをつないだときに生じる衝撃力はさらに大きくなりアウターの段差とドライブプレート爪の消耗が生じます。
※PJ12マニュアルでのドライブブレートの使用限度 : 爪巾/15.3㎜

つまり、段差を修復してもそれは一時しのぎで、じきに同様の段差ができてしまいます。

完全な解決はアウターを新品に交換すること。
クラッチハウジングはクラッチプレートと同じく消耗品だと言わなければなりません。


段差を修復する場合にはできるだけ削らないこと。
段差を完全になくし、完全な平坦にする必要はありません。
その段差がドライブプレートの「ドリブンプレートから離れようとする」動きを邪魔しなければいいのです。

さらには、ドライブレートが離れるのを邪魔する、ジャダースプリングを外すこと。

今回の「クラッチが切れない状態」もジャダースプリングを付けた時から顕在化したのです。

しかし、このアウターは少々ガタがありますから、段差修復をしてもそれほど健康寿命は長くなりません。
程度のよいものに交換した方がよいでしょう。

    
3.エンジン⑤のこれから


エンジンにまったく問題がないが、クラッチアウター段差修復か交換必要。

クラッチ修復をするにしても、少し時間がかかる。

RMX②に今まで載せていたエンジン②は排気バルブが壊れている。→→→こちら

しかし、正選手のRMX②にはすぐに使えるエンジンが必要。

そこで…、

・ 今まで載せていた「排気バルブ損傷のエンジン②」に、
  このエンジン⑤の排気バルブ,シリンダー,ピストンを移植。
  そのエンジンをRMX②に搭載しました。

・ これにより、RMX②のエンジンは、
  「RS型クランク+RS型クランクケース+N型シリンダー+N型排気バルブ」となりました。

・ もちろん、クラッチ作動は問題なし。

・ キャブレターはRMX③から拝借した、チェックボール作動の29E00。


・元気に動いていたオーバーホール済みの6500円エンジン⑤は、
  エンジン②にシリンダー回りとピストンを取られ、
  箱に入れられてスペアーとなってしまいました。

・排気バルブなし、ピストンとリング要交換、クラッチアウター修復or交換必要。
  「故障者リスト入り」のかわいそうな状態になってしまいました。

・しかし考えてみれば、
  もともと排気バルブはなかったし、ピストンとリングは新しく交換したものだし、
  クラッチハウジングはそのまま使ったのだし…。
  要するに元に戻っただけなのです。

・さらに、クランクケース内のベアリングとオイルシール類を新品交換し、
  エンジンの実走テストも済ませています。
  だから、まったく「かわいそう」ではないのです。

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4.フロートバルブ交換/オーバーフローの本当の原因は*


・どこも痛んでいないようですが、
  Oリングを交換しても漏れるからどこかがダメになっているのでしょう。
・やはりセット交換が一番。
・オーバーフローはピタリと止まりました。
・3132円と高額だけれど、4気筒なら四個要りますからね。



2016.05.06 追記  オーバーフローの原因判明


「フロートバルブをセットで交換。オーバーフローはピタリと止まりました。」と喜んでいたら、
165号へ向かう信号待ちの先頭でアイドリングストップ。

チョット照れながら、路肩に押していってキック。
エンジンがすぐにかかるはずなのにかからない。

キャブレターを見ると「ボタボタ」とオーバーフロー。

近くの郵便局の駐車場でキャブレターを開ける。

フロートバルブがニードルに固着して動かなくなっていました。

ニードルの中を見ると0.5㎜Φくらいのゴム状のゴミ。

「こんな小さなゴミでフロートバルブが傾き、斜めになって動かなくなってしまうのか」とビックリ。

子供の日の165号線はあきらめて、そのまま帰宅。


オーバーフローはなくなりエンジンは快調に戻ったけれど「あのゴミ」が引っかかる。

「あのゴム状のゴミは、燃料コックのレンコンが劣化して剥がれたものかもしれない」と燃料コックの点検開始。

ガソリンを抜いてタンクを取り外したら、すぐに原因判明。

タンクから「カラ、カラ」という音。

燃料コックのメイン吸入管が外れているです。


タンクはキャブレターの設定で頻繁に取り外します。
しかし、ガソリンが入っているので吸入管が外れていても「カラカラ」という音がせず、今まで気がつかなかったのです。


吸入管にネジロックを塗って差し込み。
※「吸入管穴 : 内径/7.0㎜Φ弱、深さ/8.3㎜、吸入管 : 外径/7.0㎜」 だから軽く叩かないと入っていかない。
  吸入管の先にはフィルターが付いているので吸入管の頭を叩けない。
  吸入管の途中をプライヤーで掴んでコックの方を軽く叩いて吸入管を挿入する。

ついでに、燃料コックのレンコンとシール類を交換。
レンコンはハーレー用の外周を削って使用。
『そうだった!バーディ用のレンコンの片面を削ればよかったのだ』→→→こちら

レンコンに劣化・損傷なし。


オーバーフローの原因は「燃料コックの吸入管が外れ、フィルターが機能せずゴミがキャブレターに流れ込んだ」こと。
フロートバルブが原因ではなかったのです。

そう言えば「バルブにはっきりとした段付きがあっても」オーバーフローなんかしませんものね。

タンクを外すときにはガソリンを抜いて「カラカラ」音をチェックすることにしました。


けたたましい排気音で信号待ちの先頭にやって来て、信号青でエンジンストップでは格好悪いですからネ。


2016.05.08  テスト走行異常なし

本日 k165号走行 202㎞、オーバーフローなし。低・中・高回転域問題なし。

消費燃料 9L。22.5㎞/L。キャブレターは正常と判断できる。


5.現状


しばらく、このエンジンで走ってみることにしました。



やはり、RMX-SJ13 は私のメインウエポンのようです。

あと5年、ウエイトトレーニングで筋力を保持して、70歳までアスファルトの上をフルスロットルで走らせましょう。


つづく




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