店長のための 「保安のイ・ロ・ハ」



3.小学生万引きを捕まえると違法逮捕





今回は現行犯逮捕の制限について説明します。
現行犯逮捕ができるのは犯行後1時間以内、犯行現場から300m~500mです。
万引き行為の既遂時期は店外10mではありません。商品をポケットに入れたり、清算するべき売場から離れた時です。
店外10mでの声かけまでに、1時間以上経ったり、その売場から300m~500m離れれば現行犯逮捕することはできません。
このような場合に現行犯逮捕すれば違法逮捕となり、逮捕監禁罪となります。

また、「それが犯罪に該るものでないこと」が明らかに分かる場合は現行犯逮捕できません。
「それを犯罪行為として罰しない場合」も同じです。
泥酔してフラフラしている者は「明らかに心神喪失者」と分かるので、現行犯逮捕ができません。
また、小学2~3年生は「明らかに刑事未成年者」と分かるので現行犯逮捕できません。
このような場合に現行犯逮捕すれば違法逮捕となり、逮捕監禁罪になります。

この点は私服保安はもちろん店長さんも充分注意してください。


犯人を逃がすな・現行犯逮捕で認められる実力行使の程度
「店外10mでの声かけ」の理由と万引きの既遂時期
現行犯逮捕には時間制限・距離制限がある
現行犯逮捕の時間制限・距離制限を超えた場合はどうするか?施設管理権の正当防衛と自救行為は使えるか?
小学2~3年生が万引きしても現行犯逮捕できない
実際は問題は起こらないが…



1. 再会


・『 あっ、 お久しぶり!この前の  “ 商品を捨てた万引きを捕まえた ” 私服保安さん  じゃないですか!』

保『 いやいや、毎度お恥ずかしいことです。』

・『 あのあと、どうなりました?』


保『 あの中学生の親にはまいりましたよ。
     私が状況を説明しても、一切耳を貸さない。子供の言い分を全部信じる。
     「この子の心の傷をどうしてくれる!」・「この子の将来をどうしてくれる!」 と猛り狂っていました。』

・『 中学生はどうしていました?』

保『 盗ったことなど忘れて、自分が被害者のような顔をしていましたよ。』


・『 最近の子供と親はちょと変なのですよ。
     親は子供を「自分の行動に責任を持つ青年」に育てて社会に送り出す責任がある。
     この責任を忘れているようですネ。
     それはともかく、結末はどうなりました?』


保『 何とか表沙汰にはなりませんでした。
     しかし、店の本部まで話が上がり、店長は他店へ転勤。私の警備会社は契約解除‥。』

・『 それで、この店に勤務しているのですね。』

保『 この店で、一からやり直しですよ!』
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2.犯人を逃がすな


a. 万引きは必ず逃げる


保『 この前は、どこがマズかったのですか?』

・『 犯人を逃がしたことですよ。

     犯人を逃がせば、途中で盗った商品を捨てて前回のようなことになる。
     犯人が逃げ切ったら、盗った商品をどこかに隠して戻ってくる。そして万引き扱いしたと文句をつける。

     もっと怖いのは、
     犯人が逃げる途中で一般客を突き飛ばしてケガをさせる。犯人が車にぶつかって死んでしまう。
     こうなったら、誤認以上の大問題になります。  店の信用はがた落ちですよ。』


保『 万引きなんか大した犯罪じゃないのに‥。』

・『 そう考えるのは万引き常習犯と私服保安だけです。
     自殺しかけたり、家出をしたりすることもありますよ。

     万引き犯人に声かけしたら必ず逃げます。
     逃がしたら誤認になると思ってください。絶対に逃がしてはいけません。』


b. 犯人に手をかけるな


保『 でも、「声かけのときには犯人の体に触れるな ・ 犯人に手をかけるな」 と教えられています。』

・『 私もそう教えられました。
     犯人を逮捕するときのやり過ぎを防ぐためのものでしょう。
     私服保安のやり過ぎで犯人にケガをさせて問題が起こるより、逃がした方がよいと考えているのでしょう。

     しかし、犯人を逃がすともっと大きな問題が生じることがあります。
     そのことに気づいていないのでしょうね。
     「木を見て森を見ず」の感がありますね。』


c.現行犯逮捕は実力行使


・『 我々私服保安が万引き犯人を捕まえるのは現行犯逮捕という行為です。』

保『 刑訴法212条で認められた行為ですね。』

・『 逮捕とは「身体を直接拘束すること、その後、拘束を短時間継続すること」 です。
     当然、犯人の体に触れてもいいのです。
     念力で犯人を足止めすることはできませんからねぇ。』


保『 どのくらいの実力行使が認められるのですか? 』

・『 たとえば、
     ・ちょっと待ちなさい!と犯人の腕をつかむ。
     ・逃げようとしたら押さえつける。
     ・抵抗したら関節をきめたり、組み伏せたりする。
     このくらいは充分認められます。
     相手にもよりますが、蹴ったり殴ったりしなければ大丈夫でしょう。』

保『 その点についての裁判例はありますか?』

・『 よく引用されるのは、
     「私人の現行犯逮捕に当たっては、逮捕の職責を有する捜査機関に要求されるほどの節度は要求されず、これよりも緩和される。東京高裁昭和37.2.20」

     つまり、警察官の実力行使より少々強くてもOKということです。
     警察官の実力行使より強くてもよいといっても、手錠をかけたり・縄を打ったりしてはだめですよ。

     警察官の現行犯逮捕行為として行き過ぎた例としては、
     70歳の老人に後手錠をかけ20分間押さえつけたもの。 この老人は後で死にました。 (平成22年11月18日津地裁 )  』


保『 しかし、犯人がレスラーのような男だったら大変ですね。』

・『 体力負けするような相手には、複数で検挙行為を行うことですね。
     人数が多ければ、相手は観念してしまいますからね。
     相手を刺激しないことも大切ですよ。 ※私服保安教本事例 26(いつか公開します

     犯人検挙のときに相手がケガをしても問題になりますが、私服保安かケガをしても問題になります。
     「あの店は物騒だ」という噂が立ちますからね。』

保『 声かけのコツはありますか?』

・『 「相手は逃げる」 と考えて声かけすることですネ。』


     
3.万引き行為の既遂時期


a.店外10mの声かけ


・『 それはそうと、なぜ店外10mで声かけするか知っていますか?』

保『 これは教えられています。犯罪故意を立証するためです。』

・『 説明してくれますか?』

保『 スーパーでは客が商品を自由にレジに持って行き、レジで代金を支払うことになっています。
     万引き犯人に店内で声かけすると、「今から支払うんだ!」 と言い逃れをされるからです。

     レジ清算せずに店の外に出たら 「 支払う意思がない=盗るつもりがある」と判断されるからです。』


・『 窃盗罪が成立するには窃盗故意が必要。
     窃盗罪を立証するには窃盗故意を立証しなければならない。
     窃盗故意を立証するためには、 「犯人が店の外に出てしばらく進んだという事実 」が必要。
     こういうことですね。』


b.万引き行為 ( 窃盗罪 ) の既遂時期


・『 では、万引き行為はいつ既遂になる ( 完成する ) のですか?』

保『 「犯人が店の外に出て10m進んだとき」 でしょう?』


・『 そうではありませんよ。』

保『 えっ?店外10mで犯人の窃盗故意が成立する。だから、店外10mで窃盗罪が成立するのでしょう?』


・『 窃盗罪の成立時期 ( 既遂時期 )は、は他人の財物を 「他人の支配力を排除して自己の支配下に置いたとき」 です。
     万引きで言えば、商品をポケットやバッグに入れたときでしょうね。』

保『 では、店外10mは何なのですか?』

・『 店外10mは犯人の窃盗故意を判断する材料・証拠です。

     犯人が商品を店内でポケットに入れたとします。
     この時点では、犯人が商品を盗るのかレジで支払うのかは外からは判断できません。
     犯人の心の中は外からでは分かりませんからね。

     しかし、犯人がレジ清算せずに店外に出れば、しかも店外にでて10mも歩けば、「 盗るつもりだったのだな 」 と判断できます。
     つまり、犯人は 「商品をポケットに入れたときに窃盗故意があった」 と判断されるのです。

     結局、窃盗故意を持って商品をポケットに入れたのだから、この時に窃盗罪が既遂になるのです。』


保『 でも、どのみち万引き犯人が店外するまで声かけ ・ 逮捕ができないのでしょう?
     別に、万引き行為がいつ既遂になろうが関係ないじゃないですか?』

・『 それが、関係大ありなのです。
     現行犯逮捕には制限があるからです。
     現行犯逮捕ができるのは、犯罪が完成してから ( 既遂になってから )、一定時間内 ・ 一定距離内 です。
     この制限を超えて現行犯逮捕すると違法逮捕になってしまうからです。

      この点について、説明しましょう。』
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4.現行犯逮捕には時間制限・距離制限がある


a. なぜ、私人に現行犯逮捕が認められるか


・『「現行犯」ってどんなものですか?』

保『 自分の目の前で犯罪が起こった場合です。』

・『 犯罪が行われたのを自分自身の目で見た場合ですね。』

保『 自分の眼で犯罪を見たのだから、犯罪が起こったこと・犯人が誰であるかが間違いない場合です。』

・『 だから、犯罪を見た者は誰でも犯人を捕まえることができるのですね。』

保『 通常は、裁判官が逮捕状を出して、警察官が逮捕します。
     逮捕する前に、裁判官が 「 間違いがないか 」 ・ 「 間違いがなくても逮捕する必要はあるか・逮捕権の濫用ではないか 」をチェックしてOKを出すのです。
     現行犯は間違いがないから、裁判官のOKがなくても、誰でも犯人を逮捕できるのです。』


・『 よく勉強しているじゃないですか!』

保『 そろそろ 1号指導教育責任者資格を取ろうと思っています。会社の選任 ( 教育係 ) にこの教本を借りて勉強しているのです‥。』

・『 これは懐かしい教本ですね!
     警備員指導教育責任者講習教本1 ( 全国警備業協会編集/発行・平成17年2月15日発行六訂初版) じゃないですか!
     私も、これで講習を受けましたよ。』


b.現行犯逮捕が認められる理由


・『勉強しているのなら、遠慮なく質問しますよ。』

保『 お手柔らかにお願いします。』


・『 まず、現行犯逮捕の条文を言ってください。』

保『 刑事訴訟法212条1項「現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。」
     刑事訴訟法213条 「 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。」 です。』

・『「 何人でも逮捕できる 」 のだから、誰でも逮捕できるのですね?』

保『 もちろん、「犯罪行為を見た者」 しか逮捕できません。
     「犯罪行為を見た者が、警察官でなくても誰であっても 」 逮捕できるという意味です。
     犯罪行為を見た者でないと、犯罪のあったこと ・ その者が犯人であること がハッキリ分かりませんからね。』


・『「犯罪行為を見なかった者」が現行犯逮捕できる場合もありますね?』

保『 準現行犯逮捕 ( 刑訴法212条2項 ) です。
     現行犯逮捕に準ずるものです。
     「周囲の状況から見て、自分が犯罪行為を見た場合と同視できる場合 」です。 
     現行犯逮捕よりも厳しい条件をつけて逮捕を認めています。』※準現行犯逮捕-犯人の犯行を見ていない者が捕まえる場合

・『 逮捕は、①令状逮捕が原則、②令状逮捕の例外が現行犯逮捕、③現行犯逮捕の例外が準現行犯逮捕 という順番ですね。』


c.現行犯逮捕の時間制限


・『 それでは、現行犯逮捕の時間制限に話を進めます。
     現行犯逮捕は犯罪完成後何時間までOKですか?』

保『 犯罪が既遂になってから数時間以内です!先ほどの指導教育責任者講習教本の74頁に書いてあります!』

・『それは、準現行犯逮捕の時間制限でしょう?』

保『 ちょっと、確認してみます。
     あっ、そうです。準現行犯逮捕の時間制限です。』

・『 現行犯逮捕の時間制限について、その教本には何と書いてありますか?』

保『 ええっと‥、ええっと‥。 あれ? どこにも書いてありません!』

・『 書き忘れたのでしょう。 そんな教本は当てにせずに考えてください。』

保『 ちょっと分析させてください。

     ・現行犯逮捕は自分の眼で見た場合。
     ・準現行犯逮捕は自分の眼では見ていないが、自分の眼で見たと同じような場合。。
     ・しかし、自分の眼で見ていないので、現行犯逮捕よりも厳しい条件がついている。
     ・準現行犯逮捕の時間制限は現行犯逮捕の時間制限より厳しくなっているはず。
     ・逆に言えば、現行犯逮捕の時間制限は、準現行犯逮捕の時間制限よりも緩いはずだ。
     ・時間制限が緩いとは制限時間が長くなること。
     ・準現行犯逮捕の制限時間は数時間 ( 3~4時間 ) 。
     ・現行犯逮捕の制限時間はこれより長くなる‥。』

・『何をブツブツ言っているのですか? 現行犯逮捕の時間制限はズバリ何時間ですか?』

保『 5時間!』


・『 残念でした。1時間くらいです。 』

保『 えっ?準現行犯逮捕の制限時間より短いのですか!』

・『 ほとんどの人がそう言って私を疑います。 だから裁判例を挙げます。

     ・最決昭和31.10.25(暴行・器物損壊の犯行より3~40分後の逮捕は適法
     ・大阪高裁昭和40.11.8(映画館での公然わいせつの犯行より1時間5分後の逮捕は違法
     ・仙台高裁昭和42.8.22(自動車の当て逃げの犯行より約1時間後の逮捕は違法
     ・大津地裁昭和48.4.4(具体的状況により脅迫の犯行より約1時間20分後の逮捕を適法。

     学説では「現行犯逮捕の時間制限は30分~40分」とされています。
     ※注釈刑事訴訟法第二巻・立花書房・170~172頁・藤永幸治執筆部分(犯罪の現行性・時間的接着性  』


保『 つじつまがあいませんよ! なぜ、準現行犯逮捕の方が現行犯逮捕より緩いのですか?』

・『なぜでしょうね? その教本の発行元に質問してください。』
  ※時間制限は数時間。現行犯逮捕の1時間よりゆるい


d.現行犯逮捕の距離制限


保『 質問です!』

・『 どうぞ。』

保『 そもそも、なぜ現行犯逮捕や準現行犯逮捕に時間制限があるのですか?』

・『 現行犯逮捕が認められるのは、「犯罪が目の前で起こったから・自分の眼で見たから・間違いがないから」です。
   
     しかし、時間がたてば記憶が薄れます。 犯人も現場から離れてしまいます。
     時間が経つと、犯人を人違いする危険があります。
  
     また、時間が経てば、犯人は証拠を隠滅したり、証拠が自然に消滅したりします。
     証拠がなくなれば犯人を捕まえても有罪にすることはできません。
     確実に有罪にできないような犯人を、裁判官の事前チェックなしで簡単に捕まえさせるわけにはいきません。
     犯人の権利が不当に侵害されないよう、正式な手続をとって犯人を捕まえなければなりません。』


保『 それなら、時間制限だけでなく距離制限もあるのではないですか?』

・『 なぜそう思いますか?』

保『 犯人が現場から離れれば離れるほど、人違いの危険もあるし証拠の隠滅の恐れがありますから‥。』

・『その通りです。現行犯逮捕には距離制限もあります。』

保『 犯行現場からどのくらい離れたら現行犯逮捕できないのですか?』

・『 要は「間違いが起こるかどうか」ですから、事案によって違います。
     学説では、最大限200~300m、裁判例では400~500mですね。

     ・最決昭和33.6.4(住居侵入の現場から約30m離れた地点での逮捕は適法)
     ・東京高裁昭和27.2.19(すり犯人を継続追跡し約150尺(約46m)へだてた地点での逮捕は適法)
     ・東京高裁昭和41.1.27(自動車の速度取り締まりで、測定終了地点から300m離れた地点での逮捕は適法)
     ・札幌高裁小破37.9.11(窃盗現場から速足で4分20秒の距離・約4~500mでの逮捕は適法)
      ※注釈刑事訴訟法第二巻・立花書房・170~172頁・藤永幸治執筆部分(犯罪の現行性・時間的接着性)  』


保『 では、準現行犯逮捕の距離制限はどのくらいですか?』

・『 準現行犯逮捕の距離制限はあまり問題になっていませんね。
     現行犯逮捕のように、 「 〇〇m 」という説明は見かけません。』

保『 準現行犯逮捕は犯罪行為を自分の眼で見ていないので、現行犯逮捕より厳しい条件がつくはずです。
     それなのに、時間制限が現行犯逮捕より緩かったり、距離制限を問題にしなかったり。
     なぜ、準現行犯逮捕の方が認められる条件が緩いのですか?』

・『 考えられるのは、準現行犯逮捕が国家権力 ( 捜査機関 ) にとって便利なものだからでしょう。

     もともと、旧刑事訴訟法では準現行犯逮捕に対する制限はあまり厳しくありませんでした。
     戦後、国民の基本的人権が尊重されるようになって、制限が厳しくなったのです。
     だから、現場の運用は戦前とあまり変わっていないのでしょう。

     捜査機関が使いやすいように裁判所は判断しますからね。』
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5.現行犯逮捕の時間制限 ・ 距離制限を超えた場合はどうするか?


a.時間制限・距離制限を超えた現行犯逮捕は違法逮捕


保『 では、万引き行為が既遂になってから1時間を超えた場合や、
     万引き行為の現場から犯人が300m離れた場合は現行犯逮捕できないのですか?』

・『 そうなりますね。そんな場合に現行犯逮捕をしたら、適法な現行犯逮捕ではなくなり私服保安の方が逮捕罪となりますね。
     ※刑法220条「不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。」  』


保『 そんなぁ~! 万引き犯人が商品を盗ってから、店内に1時間以上いることなどザラですよ!
     万引きした売場から500mくらいすぐに歩きますよ!
     こんな場合、店外した万引き犯人を捕まえると、違法逮捕になって、私服保安が刑務所に行かなくてはならないのですか?』

・『 犯人を逮捕すれば違法逮捕になります。
     しかし、犯人を逮捕しなければ違法逮捕とはなりません。』

保『 犯人を逮捕しなければ、捕まえられないじゃないですか?』

・『 逮捕とは「身体を直接拘束すること、その後、拘束を短時間継続すること」 です。
     これをしなければ、逮捕ではないでので、違法逮捕の問題は起こりません。』


保『 だから、「声かけするときは犯人の体に触れるな」 と教えているのか!
     犯人の体に触れなければ、逮捕にならないから!違法逮捕の問題は起こらない。
     犯人を、単に呼び止めただけだから!』


b.犯人の体に触れなくても問題になる


・『 「声かけするときは犯人の体にふれるな」と教えている者がそこまで考えているかどうかは分かりません。しかし、犯人の体に触れなくても問題は起こりますよ。』

保『 なぜですか?』

・『犯人の身体を直接拘束しないでも、質問のために呼び止めたら犯人の自由を拘束したことになります。

     警察官なら法律で認められている職務質問権があるので、問題になりませんが。
     私人である私服保安には職務質問権などありませんから、問題になるでしょう 。

     裁判になれば、犯人側はどうなことでも問題にしてきますからね。』


・施設管理権による正当防衛は行えない


保『 ちょっと待ってください。確か、私服保安には施設管理権があるはずです。
     「犯人を施設管理権による質問のために呼び止めた」 と考えたらどうですか?』


・『 施設管理権の中には店内の商品を守ることも含まれますね。
     この場合 「 なぜ施設管理権の行使になるか 」 を説明してください。』


保『 こういうことです。

     ・犯人が店内で商品をポケットに入れた。
     ・1時間たって店外し、立ち去る。
     ・このままだと商品が盗られてしまう。
     ・現行犯逮捕の制限時間を超えているので現行犯逮捕はできない。
     ・施設管理権で犯人を呼び止めて商品を取り返そう。
     ・犯人を呼び止めるのは施設管理権の行使だから、犯人の自由が害されて許される。 』


・『 店内ならまだしも、店外においてまで質問権を認めることはできないでしょう。
     店外での質問権を認めると、施設管理権に警察官の職務質問権のような権利が含まれていることになります。
     施設管理権をそこまで拡張して解釈することはできないでしょう。』
   
 
保『 では、 「商品の所有権侵害に対する正当防衛として犯人を呼び止めたと 」いうのはどうですか?

     「いままさに商品が盗られそうだ、だからそれを防ぐために犯人を呼び止めるの」 は正当防衛として認められます。』
   

・『しかし、犯人が商品を持って店外したら、もう正当防衛はできませんよ!』


保『 えっ、なぜですか? 今まさに商品が盗られようとしているじゃないですか!』


・『正当防衛は、権利侵害が差し迫ってくる場合にしか行えません。  権利侵害が生じてしまったあとは行えません。

     万引きは商品をポケットに入れたときに完成しています。
     このときに、 商品に対する所有権 は侵害されています。
     犯人が商品をポケットに入れる前なら、正当防衛は行えますが、ポケットに入れたあとは正当防衛は行えません。

     犯人が店外するときは当然万引き行為は完成していますから、正当防衛は行えません。』※正当防衛(刑法36条1項
  
保『 ‥‥。』


c..手詰まり・行き詰まり


・『 話が込み入っていきましたから整理しておきましょう。
     今、次のような状態になっています。

     ・犯人が店内で商品をポケットに入れた。 ( 窃盗罪既遂 )
     ・犯人の窃盗故意は犯人が店外しないと立証できないので、店内では逮捕できない。
     ・犯人が、商品をポケットに入れて1時間後に店外。
     ・犯人の窃盗故意は立証できるが、現行犯逮捕の制限時間を超えているので逮捕できない。
     ・商品所有権侵害に対する正当防衛は、既に窃盗罪が既遂になっているので行えない。
     ・施設管理権行使として店外で犯人を呼び止めるのは無理。
     ・犯人を呼び止める権限がない。
     ・犯人を呼び止めて、犯人が『 自由を拘束された』 と問題にすれば、違法逮捕や自由権侵害となってしまう。』


保『 行き詰まりじゃないですか! 犯人が商品を盗っていくのに何もできないのですか!』


・『 安心してください、犯人を捕まえても大丈夫でしょう‥。

      万引き犯人は法律に詳しくありません。
     「現行犯逮捕に時間制限距離制限があること」 、「 正当防衛がが犯罪既遂後は行えないこと」、
     「呼び止められたことが自由を侵害されたことになる」 など知らないでしょう。
     多分、「万引き行為は店外10mで完成する」 と思っているでしょう。
  
     また、違法逮捕や自由権侵害に気づいても、それを主張するほど “ 骨のある万引き ” はいませんよ!』


保『 いやいや、あちらこちらのサイトを見て、知恵をつけているかも知れません。
     ここはやはり、合法的にやらなければいけません。
     何より、私はプロ私服保安です。反則をせずに堂々と一本勝ちを目指さなければなりません。』


・『 だったら、手詰まり・行き詰まりです。万引き犯人をお見送りするしかありませんね。
     盗られたことは、店に黙っていれば分からないじゃないですか。』

保『 そんなぁ~! 何か方法はないのですか?』


d.自救行為という方法はあるが‥


・『 考えられるのは 自救行為だけですね。』

保『 自救行為って何ですか?』

・『 自救行為は現行犯逮捕や正当防衛のように法律で認められているものではありません。
     学説・判例で認められている行為です。

     簡単に言えば、権利侵害直後に正当防衛を認めるものです。
     次のような条件がつきます。
     ①その行為によって侵害された権利が回復できる。
     ②その行為が侵害を回復するものとして社会通念上適当なものである。
     ③その行為によらなければ回復することができない。
     ④回復したものが与えた害より大きい。

    自救行為として例にあげられるのが、「道路でバックをひったくられたとき、すぐにバッグを取り返すこと」。

     もちろん、「 取り返すこと 」 だけで 「犯人を捕まえること 」 はできませんよ。
     犯人を捕まえることができるのは、ただ一つ現行犯逮捕だけですからね。


     この自救行為を使えば、犯罪が完成して正当防衛ができない場合でも商品を取り戻すことはできるでしょう。
     盗った商品をレジ袋に入れて持っている場合や、盗った商品をそのまま手に持っている場合は、その商品に手をかけてもいいでしょう。

     しかし、盗った商品の入った犯人のポケットに手を突っ込んだり、犯人のバッグを取り上げることはできないでしょう。
     それらは、 「侵害回復行為として社会通念上適当なもの」ではないからです。

     どれだけ控えめに考えても、「 自救行為によって商品を取り戻すために、犯人を呼び止めること」 は充分認められるでしょう。

     ただし、自救行為ができるのは犯罪完成直後です。
     今、問題になっているのは万引き既遂後1時間経っている場合です。
     もはや、犯罪完成直後とはいえず、自救行為も使えないでしょう。

     やはり、手詰まり・行き詰まりですね。』※自救行為と成立要件


e.私人VS私人の限界


保『 こんなことが認められたら、万引きはやり放題じゃないですか!法律が犯罪に対して甘すぎるじゃないですか!』

・『 なぜ、甘すぎるのですか?』

保『 万引き犯人が商品をポケットやバッグに入れる。
     ゲームコーナーに行って、1~2時間潰す。
     堂々と、店の外に出ていく。
     私服保安は犯人を捕まえることも、正当防衛や施設管理権で犯人を呼び止めることもできない。
     もし、犯人を呼び止めて質問しても、
     犯人が 『 アンタ何を言っているの? 暑いからねぇ、ハ ・ ハ ・ ハ!』 と言えばそれで終わり。

     こんなことが許されるなら法治国家でなくなってしまいますよ!』

     
・『 法治国家だから、そうなるのですよ。』

保『 えっ?』

・『あなたは警察官ではないのですよ。あなたは犯人と同じ私人なのですよ。
     これ以上の権限を私人である私服保安にに認めたら、同じ私人である犯人の基本的人権が不当に侵害されてしまいます。

     あなたが、「 万引き犯人に甘すぎるというこの状態 」 が 「私人VS私人 の限界 」なのです。』
  

保『 何か、打つ手はないのですか?』

・『 あとは警察に任せればいいじゃないですか。

     「 ハ ・ ハ ・ ハ 」 と言って堂々と商品を盗って行った万引き犯は警察に通報して、被害届を出す。
     警察はこの男を窃盗容疑で通常逮捕する。
     窃盗罪の公訴時効は5年ですよ (刑訴法250条2項)。
     商品をバッグに入れて、現行犯逮捕の制限時間を待っている万引き犯に対しては、警察に通報して事情を説明する。
     犯人が1時間後に店外したら、警察官が準現行犯逮捕や緊急逮捕をする。

     警察にはいろいろな強制捜査権が与えられています。
     「職務質問 → 任意同行 → 任意取り調べ → 自供 → 緊急逮捕・通常逮捕 」 という定食コースもあるじゃないですか。

     刑事事件は警察が “ 法律で与えられた強制力 ” と “ 国民に対するお上のご威光 ” を使って解決するのが原則なのです。
     それが、法治国家なのです。

     我々私服保安は「 自分が私人であること 」 を認識し、「 私人としての限界 」 をわきまえなければなりません。』
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6.ケーススタディ「小学2~3年生は現行犯逮捕できない」


a.事案設定


保『 今回もケーススタディをお願いします。』

・『 事案設定をする必要はないですねぇ。あの小学生、盗りますよ‥。』

保『 あの、乾電池コーナーにやって来た、小学3~4年生の男子ですか?』

・『 子供の万引きはかわいいでしょう? 古いレジ袋を持っていますよ。』

保『 乾電池を買うのにレジ袋なんか必要ありませんからねぇ‥。』

・『 しゃがみ込んで、左手に持ったレジ袋を膝のところに持ってきましたよ。
     さあ、乾電池を棚取りしますよ。しっかり現認してくださいね。』

保『 あれあれ、次から次へと単三パックをレジ袋に入れていますよ。』

・『 乾電池パックを入れたレジ袋の口をしっかり握りましたよ。さあ今から店外しますよ。』

保『現行犯逮捕の時間制限・距離制限は問題ありませんね。』

・『 店の外に完全に出してから声かけですよ。』

保『 今度は逃がしませんよ。
     現行犯逮捕は実力行使です。小学生だから手加減するけれど身体の拘束です。』


b.声かけ状況


小学生が店外した。

私服保安は小学生の背後から近づき、小学生の腕を掴んだ。

保『 キミキミ、電池のお金を払わないとダメだよ。万引きになるよ。』

男子『 えっ?ボクは何もしてないよ。だから、この手を離してヨ!』

保『 ダメダメ、この手を離したら、キミは一目散に逃げてしまう。

     キミの持っているこのレジ袋の中に乾電池がたくさん入っているね。
     オジさんはずっと見ていたんだよ、キミがこの乾電池を盗るところを。』
     

男子『‥、ごめんなさい。乾電池は全部返すよ!ほらこれで全部だよ!だからこの手を離してよ。』

保『 そうはいかないよ。キミをこのまま帰したらどんな問題が起こるかもしれない。
     それに、キミは万引きをして、いま現行犯逮捕されているんだよ。。
     万引きは窃盗罪といって刑務所に行かなければならないような悪いことなんだよ。
     「 盗ったものを返したらそれで許される 」 ようなことではないんがよ。』

男子『 もう絶対しないから。離してよ!』

保『 事務所で手続をするから、事務所へ来てくれる?』

男子『 ‥ウン。』
     

私服保安は思った。

「今度は何の問題もない。小物万引きだけど敗者復活戦の一勝目だな‥。」


店長が警察に連絡。


c.警察官到着


いつもの警察官がやって来た。

警『 あれっ? この前の私服保安さんじゃないの。この店にも入っていたの?』

保『 最近、入るようになったンですよ‥。』


警『 今度は逃がさなかったンだね。』

保『 棚取りもバッチリ、乾電池もどっさりです。商品は捨てられていませんヨ!』


警察官は男子に尋ねた。

警『 キミは小学何年生なの?』

男子『 3年生。』

警『 今日はこの店に一人で来たの?』

男子『 ウン。』


警『 このレジ袋に入っている乾電池はどうしたの?』

男子『 ‥‥。』

警『 お金は払ったの? 』

男子『 ウウン。払ってない‥。』

警『それじゃあ、盗ったことになるよ‥。』

男子『 ゴメンナサイ‥。』


警『 では、この私服保安さんに呼び止められたときのことを教えてよ。』

男子『 ボクが店から外に出ると、このオジさんが僕の手を後から捕まえて 「 お金を払わないと万引きになるよ。」 と言ったの。』

警『 それからどうしたの?』

男子『「 盗っていないから、手を離してよ!」 と言ったよ。でもオジさんは離してくれなかったよ。』

警『 だって、キミは乾電池を盗ったのでしょう? ウソを言ったらダメだなぁ。』

男子『 ゴメンナサイ‥。』


警『 それで、どうしたの?』

男子『 ボクは乾電池の入ったその袋をオジさんに渡して、「乾電池を返すから手を離してよ」 と言ったの!』

警『 オジさんはその乾電池を受け取ったら、キミを離してくれたの?』

男子『 離してくれなかったよ。
       「万引きは刑務所に行かなければならないような悪いことだから、盗んだものを返しても許されない 」 んだって‥。』

警『 その通りだよ。もう悪いことをしてはダメだよ!』

男子『 ゴメンナサイ‥。』


次に警察官は私服保安に声かけ時の状況を尋ねた。

警『 今、この子が言ったことに間違いはないですか?』

保『 間違いはありません。
     13時05分現認、13時7分正面出入口より店外、13時8分現行犯逮捕、13時12分警察連絡です。』

警『 この子が乾電池を返しても、この子の腕を掴んで離さなかったのですか?』

保『 そうですよ。現行犯逮捕ですからね。
     逮捕とは「身体を直接拘束すること、その後、拘束を短時間継続すること」でしょう。
     もちろん、小学生だから手加減してますよ。』


d.小学生を現行犯逮捕することはできない


警『 私服保安さん、あなたの会社で教えてもらっていないのですか? 小学生を現行犯逮捕することはできないのですよ!』

保『 えっえっ? そうなンですか!』


警『私服保安さんは「 なぜ現行犯逮捕が認められるか」 を知っていますよネェ?』

保『 目の前で起こった犯罪だから、自分の眼でみたから、間違いがないからでしょう?』

警『 ちゃんと知っているじゃないですか。
     現行犯は犯罪が起こったことが間違いない、犯人が誰であるか間違いない、犯人を有罪にできることが間違いない。
     だから、裁判官の事前チェックなしで捕まえられるのです。』

保『 そうですよ。
     私はこの眼で、この男の子が乾電池を盗るのを見ました。
     窃盗罪はれっきとした刑法犯です。
     この男子が乾電池を盗ってから、すぐに捕まえたのだから、犯人を間違う危険も証拠を隠滅される危険もありません。
     私の行った現行犯逮捕のどこが問題なのですか?』

警『 犯罪が成立しない場合って知っているでしょう?』

保『 犯罪故意がなかったり、心神喪失状態だったり、14歳未満だったり‥。』

警『 この男子は小学3年生ですよ。14歳未満ですよ。この子のやったことは犯罪にならないンですよ。』


保『 14歳未満の場合、犯罪が成立しないのは知っています。しかし、14歳未満だと現行犯逮捕できないのですか?』

警『 現行犯逮捕は 「それが犯罪になること がはっきりして間違いがない 」 から認められます。
     しかし、現場で 「それが犯罪になるかどうか」 を細かく検討している余裕はありません。
     そんなことをしていたら犯人が逃げてしまいますからね。
       
     そこで、「それが犯罪にならないことがハッキリしている場合 」 以外は現行犯逮捕は許されるのです。
     刑事未成年者の行為は犯罪にならないけれど、
     犯人が 「14歳未満かどうかはっきり分からない場合」 は現行犯逮捕をしても違法ではありません。

     しかし、この男子は刑事未成年者だとはっきりと分かりますよねぇ。
     そして、この男子のやった万引きは犯罪にならないことがハッキリ分かりますよねぇ。
     だから、この男子を現行犯逮捕することは認められないのです。』


保『 ということは、私がこの男子を捕まえたのは違法逮捕となるのですか?』

警『 事情を聞くためや、盗られた商品を返してもらうために呼び止めるのは許されるだろうけど、
     盗られた商品を取り返したあとも、しっかりと男子の身柄を拘束しているからね‥。』


e.『仕方がないなぁ‥。』


ここで、店長が警察官に尋ねた。

店長『 で、この万引き事案はどうなるのですか?』


警察官はしばらく考えて、こう言った。

警『 仕方がないなぁ‥。逮捕だな‥。』


私服保安が警察官に尋ねた。

保『 逮捕ですか? だって、この子は誰が見ても刑事未成年者だから逮捕できないのでしょう?』


警察官は腰の手錠ケースから黒い手錠を取り出して、こう言った。

警『 逮捕する相手は、私服保安さんアンタだよ。

     逮捕容疑は刑法220条の逮捕監禁罪。法定刑は3月~7年の懲役。
     13時30分、緊急逮捕!

     今から、ワッパをかけるから両手を出して!』


保『 そんなぁ~ッ!』
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7.補足説明


a.実際はこうならない

今回説明したことに間違いはありません。

・商品所有権侵害に対する正当防衛は、犯人が商品をポケットに入れる前にしかできません。
・店外した犯人を呼び止め質問するのは、施設管理権の行使として認められないでしょう。
・現行犯逮捕 ・ 準現行犯逮捕には時間制限 ・ 距離制限があります。
・犯人がはっきりと小学生で分かる場合は現行犯逮捕できません。

これらに反して、犯人を呼び止めたり質問すれば、相手の自由を不当に侵害したことになります。
犯人を逮捕すれば違法逮捕として逮捕監禁罪になります。


しかし、実際はこのようなことは起こっていません。

時間制限・距離制限を超えた逮捕が違法逮捕となったり、
小学2~3年生の犯人を捕まえて逆に逮捕監禁罪になったりしたことは聞いたことがありません。

私も今まで、そんな事案を何の問題もなくたくさん処理してきました。


これらが問題にならないのは、警察官が我々から万引き犯人を引き継ぐ方法に原因があります。

実際は私服保安による現行犯逮捕であっても、次のように取り扱われます。
「私服保安が不審な行動をする客に事情を尋ねた → その客が盗ったことを認めた → 盗った商品も持っていた → そこで、警察に連絡した」

この中に私服保安の現行犯逮捕は出てきません。だから、現行犯逮捕の要件が問題になることはないのです。


b.問題になる可能性は充分にある。


近年、窃盗罪に罰金刑が付加されたことにより、万引き犯人の送検・起訴が頻繁に行われるようになりました。

万引き事件を送検・起訴する場合は、私服保安の現行犯逮捕からストーリーが始まります。

しかし、私服保安の現行犯逮捕の合法性・違法性が問題になったことはありません。

これは、私服保安の現行犯逮捕が私人によるものであり、公権力 ( 捜査機関 ) によるものではないからです。

捜査機関の違法行為は刑事手続上のルール違反となります。
そして、訴追側・捜査機関側にペナルティが与えられます。

たとえば、
憲法に定められた令状主義に反する違法捜索押収があった場合、その捜索押収で得られた証拠は証拠として採用されません。( 違法収集証拠排除論 )
その結果、犯人が犯罪を犯していても無罪になることがあります。 → 選任のための法律知識 第16講.違法収集証拠排除則

捜査機関の行った現行犯逮捕なら、被告人側が時間制限や距離制限を争ってその違法性を問題にすることは意味があります。
しかし、私人のした現行犯逮捕の違法性を争ってみても、被告人側に得になることはありません。

だから、問題にはならないのでしょう。


しかし、次のような場合も考えられます。


万引き犯人が私服保安の違法逮捕を問題にして、警備会社と契約している店の責任を追及する。
店は風評を気にして、問題を大きくせずに 「 被害届を取り下げること 」 で犯人と折り合いをつける。
とうぜん、店の怒りは警備会社に回ってくる。

万引き犯人は自分の行ったことを充分に反省して罪を認めた。
しかし、違法逮捕をした私服保安も許せない。
私服保安の違法行為を警察に告発する。
警察は私服保安を違法逮捕で検挙する。
マスコミが 「潔い万引き犯 」 と騒ぎ立てる。
万引きの舞台となった店がいろいろ取り沙汰される。
店の信用とプランド力が損なわれる。
店の怒りは警備会社に回ってくる。


もちろん、店長さんが違法逮捕をしても同じことが起こります。
犯人のやることは、まず店の使用者責任を追及して被害届を取り下げさせること。
そして、そのあとでゆっくりと店をいじめる‥。


c.「知っている」 のと 「知らない」 のでは大きな違いが出る


万引き犯人に関わるのは私服保安だけではありません。

常駐警備員、売場の従業員、店を守る意識の強い店長。
いつ、万引き行為に遭遇するかも知れません。

こんなときに、「法律上、何をどこまでできるのか」 、「法律上、何をしてはいけないのか 」 を知っておくことは大切です。
知っていれば、行動にプレーキがかかります。知らなければ一気に突っ走ってしまいます。

警備員だけでなく、店関係者は施設管理権 ・ 正当防衛 ・ 現行犯逮捕 の要件をしっかりと理解しておかなければなりません。



『 おおげさだなぁ!心配し過ぎじゃないの?
   我々私服保安は 「 捕まえてナンボ 」 だよ。 小難しい理屈なんか気にしないで捕まえればいいンだよ!』

そう思う私服保安さん。
あなたはプロであることを忘れていませんか。
そして、「 俺は正義の味方だ、月光仮面だ 」 と 思い上がっていませんか?


つづく




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