●断続的労働の適用除外許可,最低賃金減額許可の効力発生時期

最低賃金の減額の特例許可



※労働基準法解釈総覧の入手は → こちら

3.断続的労働の適用除外許可の効力発生時期とその問題点

a.事務マニュアル

(法令の定め)

断続的労働の適用除外許可についての法令は次の通り

〇労働基準法41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
「この章、第6章及び第6章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、
次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの」

〇労働基準法施行規則23条
「使用者は、宿直又は日直の勤務で断続的な業務について、
様式第十号によつて、所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合は、
これに従事する労働者を、法第三十二条の規定にかかわらず、使用することができる。」


(労働基準法の解釈総覧)
・厚生労働省労働基準局の「労働基準法の解釈」です。
・最新版は改訂16版(令和3年年3月発行)で書店で入手できます。 → こちら
※一つ前の改訂15版は安いですが「平成26年7月30日発行」です。できれば最新版の方がよいでしょう。
・これも「最低賃金法第7条の減額の特例許可事務マニュアル」や、警察庁の「警備業法の解釈運用基準」と同じく「その行政機関内でだけ拘束力を持つ」もので、一般の国民に対する法的拘束力はありません。
・労働基準法41条や施行規則23条の「許可を受けた」についての厚生労働省の解釈に過ぎません。

b. 手順

労働基準法の解釈総覧では
「警備員の行う断続的労働」について「労働時間等に関する規定の適用除外(第4章第41条関係)」として説明しています。※P533~535、
その内容は「断続的労働に該るかどうかの具体的基準」で、許可手続の手順やマニュアルではありません。

「申請 → 実地調査 → 許可」は最低賃金の減額の特例許可と同じように行われています。

・申請と実地調査

許可申請のあとに実地調査が行われますが、
労働者が既にその業務に就労していること」が必要です。

〇法令上の根拠(津労働基準監督署担当者の説明)
最低賃金の減額許可と同じです。
・労働基準法41条3号「監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの」
・「従事する者」=「従事している者」=「実際に就労している者」

〇つまり
①使用者が断続的労働を受注。
②使用者が断続的労働の適用除外許可を申請。
③使用者が新たに雇用した労働者または雇用している労働者をその断続的労働に従事させる。
④労働基準監督署が申請内容が正しいか実地調査をする。
⑤労働基準監督署が断続的労働の適用除外許可書を出す。

※最低賃金の減額許可の場合との違いは「実地調査のときにその断続的労働に従事させる労働者」
   最低賃金の減額許可の場合は「減額許可の対象となっている労働者」。
   適用除外許可の場合は「労働者であれば誰でもよい」。
   これは、最低賃金の減額許可が「特定の労働者に対するもの」であるのに対し、
   適用除外許可は「その断続的労働に対するもの」であるからです。
   ただし、適用除外許可が「その断続的労働に対するもの」であっても、
   「実際に労働者がその業務に従事していること」が必要です。
   それは、実際の業務が行われていなければ「申請どおりのものであるかどうか」を検討できないからです。

〇ポイント
許可が出るまでに、労働者をその断続的労働に従事させなければならない

・申請から許可書交付の期間

〇申請から許可までの時間
最低賃金の減額許可と同じです。
・申請~実地調査までの標準期間が15日。
・実地調査後の審査に15日
・結局、申請~許可書交付まで30日くらいかかります。

〇当方の申請した許可では
・雇い入れ : 断続的労働の適用除外許可を取得することを示して募集。令和3年6月1日に2名雇用。
・許可申請 : 令和3年6月4日
・実地調査 : 令和3年6月上旬
・就労開始 : 令和3年7月13日/令和3年7月14日
・労働者への電話での聞き取り : 令和3年7月下旬
・許可書交付 : 令和3年8月11日
※実際の就労から30日以内で許可が出ています。

・今度は「まぎらわしくない」許可書の文言

〇次のような許可書が出ました。
・津基署許可第〇〇〇〇号 令和3年8月11日
・事業の名称,所在地,代表者職氏名
・津労働基準監督署長と(大きな角印)
・「令和3年6月4日付けをもって申請のあった労働基準法第41条第3号にもとづく
   断続的労働に従事する者に対する適用除外については、許可する
   なお、許可の内容に反する勤務に従事させた場合には、許可を取り消すことがある。」

最低賃金の減額許可署の文言は
令和3年6月4日付けをもって最低賃金法第7条の規定に基づき申請のあった断続的労働に従事する者に対する最低賃金の減額の特例については、下記の附款を付し、次の通り許可する

適用除外許可の方は「令和3年6月4日付けをもって申請のあった」と「申請を入れること」により
「令和3年4月付けをもって…許可する」と誤解しないようにしています。


これは、適用除外許可の場合は許可書が出たあとも使用者を誤解させておく必要がないからです。

「使用者に申請に遡って許可される」と誤解させておく目的は最低賃金の減額許可も適用除外許可も同じです。
それは、使用者に「許可書が出るまでは減額してはいけない、適用除外がなされない」ことを気付かせないこと。
使用者がそれに気付くと「要注意!」と声を上げ、他の多くの使用者がそれを知って、許可書が出るまで労働者をその仕事に従事させないからです。 → こちら

最低賃金の減額許可の場合は給料支払い日の関係で、支払い日の前に許可書を交付するときがある。
そこで、許可書の出た後も使用者に誤解させておく必要がある。 → こちらの「最低賃金法違反の成立時期」
適用除外許可の場合はそのようなことが起こらないからです。

少々考えすぎかもしれません。
多分、書式の作成時期の違いから「文言が同じでない」のでしょう。

c.労働基準法の適用除外はいつからされるのか?

最低賃金の減額許可と同じく、断続的労働の適用除外が効力を生じるのは許可書が交付された日からです。

理由は、最低賃金の減額許可書のときと同じ
・労基法41条の「使用者が行政官庁の許可を受けたもの」
・労働基準法施行規則23条の「所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合は」
・「許可を受けた」とは「労働基準監督署長が許可をしたとき」つまり「許可書の交付日」のこと。
その許可が遡ることはない。

当然、適用除外許可書が出る前にその断続的労働に労働者を従事させた場合は、
労働基準法の適用が除外されず、労働基準法違反となります。

d.断続的労働の適用除外許可と労働基準法違反

断続的労働の適用除外許可は断続的労働について労働基準法の労働時間の制限を外すものです。
この許可なしに断続的労働に従事させると次の労働基準法違反となります。

・労働基準法の規定

・32条(労働時間)
「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
②使用者は、1週間の各日については、
   労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。」

・34条1項(休憩)
「使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、
   8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。」
※1ポストの断続的労働では休憩が存在しないため、この規定に反する。

・119条1号(罰則)
「次の各号のいずれかに該当する者は6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
一 第3条、第4条、第7条、第16条、第17条、第18条第1項、第19条、第20条、第22条第4項、
第32条、第34条、第35条、第36条第6項、第37条、第39条(第7項を除く。)、第61条、第62条、
第64条の3から第67条まで、第72条、第75条から第77条まで、第79条、第80条、第94条第2項、
第96条又は第104条第2項の規定に違反した者」

・102条(労働基準監督官の権限)
「労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う。」

・使用者の労働基準法違反は二種類

断続的労働の適用除外許可手続では最低賃金の減額許可手続と同じように許可が出る前に実地調査があります。
その実地調査のためには労働者をその断続的労働に従事させなければなりません。
そして、実地調査のあとで適用除外の許可書が交付され、そのときから適用除外の効力が発生します。

このため、使用者の労働基準法違反は二種類あります。
①「許可書が出てから適用除外が許可される」ことを知っていて、実地調査のためにだけ労働者を就労させた場合。
②「申請日に遡って許可される」と誤解して、許可書が出るまで労働者を就労させていた場合。

結果から先に言えば、①も②も使用者に労基法違反は成立しません。
この点を説明しましょう。

①の場合
使用者が適用除外許可を得ようとすれば実地調査が必要です。
そして、実地調査のためには「まだ適用除外許可がされていない業務」に労働者を従事させなければなりません。
使用者は厚生労働省の定める手続に従ったために労基法違反を犯してしまったのです。

この行為は 正当行為(刑法35条)として「違法性なし」とされます。

②の場合
実地調査のためにその業務に労働者を従事させたのは、①と同じく正当行為で違法性なし。

実地調査のあと許可書が出るまでその業務に労働者を従事させたのは「正当行為」とされません。
ここでは「申請日から許可される」と誤解していたことが問題とされます。

そして、
・実地調査のためとはいえ「除外許可与えられていない業務」に労働者を従事させることが認められていること。
・その点につき「これは実地調査のための就労だから労基法は適用されない」などの説明がないこと。
・申請時に、
   「許可書が出るまで適用除外はされないから、労働者をその業務に従事させてはいけない」との説明がないこと。
・これらが原因となって誤解したこと。

以上のことから「通常人でもそのように誤解してしまう」と判断され、
「適法行為の期待可能性なし」で「行為者を非難できない」として犯罪不成立でしょう。


それでは、このような手続を作って労基法違反の状態を造り出している厚生労働省に犯罪性はないのでしょうか?

・労働基準監督署長は労働基準法違反の間接正犯?

最低賃金の減額許可のときと同じく厚生労働省の犯罪性を検討しましょう。

ここで問題になるのは次の二つの場合

①厚生労働省の定めた断続的労働の適用除外許可手続で、
「申請者が実地調査を受けるためには、適用除外許可がされていない断続的労働に労働者を従事させなければならず、申請者が許可を得るためには必ず労基法違反をしなければならない」こと。

② 実地調査のためとはいえ「除外許可与えられていない業務」に労働者を従事させることを認めていること。
   その点につき「これは実地調査のための就労だから労基法は適用されない」などの説明がないこと。
   申請時に
   「許可書が出るまで適用除外はされないから、労働者をその業務に従事させてはいけない」との説明がないこと。
   これらが原因となって使用者に「申請時に遡って許可される」と誤解させたこと。

この場合
正犯は「適用除外許可がされていない業務に労働者を従事させた使用者」。
実行行為は「適用除外許可がされていない業務に労働者を従事させる」こと。

・①も②も厚生労働省が実行行為を共同したとも犯罪を共謀したとも言えません。
・既に説明したように、①も②も使用者(正犯)に犯罪は成立しません。
   そのため、これらが教唆行為や幇助行為に該るとしても、正犯が成立しない以上教唆犯や幇助犯は成立しません。


なぁ~んだ、やっぱり逃げられるのか!


今度は、そうはいきません。①が間接正犯に該ります。

今回も最低賃金の減額許可と同じく
「c.情を知らない者・それが正当防衛であると思っている者のように、故意がない者・犯罪 にあたらない場合であると思っている者」を道具として使った場合です。

ここでは申請者がその道具です。

但し、「道具」と判断されるためには「必ずその犯罪結果が生じる場合」でなければなりませんでした。

最低賃金の減額許可の場合は、
「申請者が許可書を効力発生時期について誤解しなければ」最低賃金法違反を犯さないので、
「必ず最低賃金法違反という結果が生じる」とは言えません。
だから、申請者は道具と言えず厚生労働省は間接正犯にならなかったのです。

しかし、断続的労働の適用除外許可の場合は違います。
申請者は必ず「その仕事の適用除外許可」が出る前に「労働者をその仕事に従事させなければならない」のです。
つまり、使用者にその手続で申請させれば「必ず労基法違反という結果が生じる」のです。
だから、この手続で事務処理をしている厚生労働省は労基法違反の間接正犯となるのです。

『質問です!』

どうぞ

申請者(使用者)には労基法違反は成立しないのでしょう?
   だったら、使用者を道具として労基法違反をさせたことにならないのじゃないですか?


間接正犯とは「自分が行為をする代わりに、その人(道具)に行為をさせて犯罪を実現する場合」なので、
その人(道具)が犯罪結果を生じさせれば成立し、その人(道具)に犯罪が成立するかどうかは関係ありません。

例えば、人に催眠術をかけて犯罪を犯させた場合、
「催眠術にかかって犯罪行為を行った者は心神喪失なので犯罪は成立しませんが、
催眠術をかけた者には間接正犯が成立します。
これと同じです。

『質問です!』

どうぞ。

『間接正犯が成立するとしても、
   厚生労働省も断続的労働の適用除外許可の手続にそってやらせているのだから、
   使用者(申請者)と同じで、正当行為となり犯罪は成立しないのではないですか?』


断続的労働の適用除外許可の手続は「厚生労働省が勝手に作ったもの」で法令ではありません。
だから、法令行為ではありません。
また、「その手続が間違っていたらすぐに修正できます」
だから、使用者(申請者)のように「それに従わざるを得ない状態」にないので正当行為でもありません。

『労基法違反の間接正犯で罰せられるのは誰ですか?』

まずは、断続的労働の適用除外許可書を出した労働基準監督署長でしょう。

労働基準監督署長は断続的労働の適用除外許可を出すたびに、
労基法32条,34条1項の間接正犯を犯していることになります。
間接正犯は正犯ですから刑罰は「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」。
何の反省もなく何度も繰り返しているから情状酌量はなし。

もちろん、この人も『上が決めた手続に従わざるを得ませんでした』と主張すれば犯罪不成立になるかもしれません。
そうなったら、もう一つ上の役職が労基法違反の間接正犯。
どこかの段階の役職が「トカゲの尻尾」になるので、最後の厚生労働大臣にまで遡ることはないでしょう。
しかし、政治責任は問われるでしょうね。
なにせ、断続的労働の適用除外許可ができてから今日まで、
全国のいたるところで実地調査のたびに労基法違反を起こさせているのですからネ。

心ある労働基準監督官は、まず労働基準監督署長を労基法違反の間接正犯で摘発しましょう。
これは冗談です。あなたたちにそんな気骨を期待していません。

しかし、「法令を守らせるために定めた行政手続が法令違反を前提にしている」のは矛盾しています。
そのことに「大きな疑問を感じて」早急に許可手続の見直しを提言してください。
それくらいはできるでしょうし、それくらいはやるべきでしょう。

法令を改正するのではありません。
自分たちの作った「やり方」を変えればよいだけです。
あなたたちが我々に誤解させようとしているように
「最低賃金の減額許可や適用除外許可の効力は申請日に遡って生じる」とすればよいのです。
法令の「許可を受けたとき」を「許可書が出たとき」とする「自分たちの膠着した解釈」を変えれば済むのです。
法令は「許可」としか定めていません。
その「許可」が「申請日に遡って効力を生じるもの」であっても、解釈として問題はありません。

それができないのなら
「減額許可も適用除外許可も許可書が出たときから効力が発生し、許可書が出るまでは減額も適用除外もされない」
と申請時にしっかりと説明することです。
そうすることによって、「使用者は許可書が出るまで、労働者をその業務につかせず労働の機会を奪う」ことになりますが、使用者は誤解しないので「最低賃金未満の賃金を支払ったり、労働者を適用除外許可のされていない業務に従事させたりすること」がなくなります。

もちろん、この場合は「適用除外許可の実地調査で適用除外許可のされていない業務に労働者を従事させなければならない」ことの矛盾が問題となります。

自分たちのやっていることをどう思いますか?
・説明しないで使用者に誤解させる。
・使用者が誤解すれば「労働者は労働の機会を失わない」。
・そのために最低賃金法違反や労基法違反状態が起こるけれど、それは誤解した使用者の責任。
・自分たちは「許可書が出たときから許可の効力が発生しますよ」と答えて責任逃れ。

こんな自分たちが「姑息で卑怯」だとは思いませんか?
そう言えば、「森友の文書改ざん」で「上に」牙を見せた勇者がいましたね。

選任のための法律知識・

【広告】
200万円なら「傾く」 NIKEN も。
どちらも「立ちごけ」しません。




前へ/断続的労働の除外許可,最低賃金の減額許可手続の実際      次へ/初めて人を雇う場合の手続1労働保険

タイトルとURLをコピーしました