★★★★
4.クランクの取り出し
a.プライマリードライブギヤの取外し
●クランクケースカバーのボルトは3種類
まずはクランクケースカバー取外し。
取り付けボルトは3種類。
・L/首下60㎜
・M/首下40㎜
・S/首下32㎜
「どこにどのボルトが入るか」はパーツリストに記載されています。
●プライマリードライブギヤ取外し
『すごい!ヘリカルギヤ(はす歯歯車)だ!」と喜んでいてはいけません。
この段階で、プライマリドライブギヤの取り付けボルトを緩めておきます。
通常通り、クラッチ(プライマリドリブンギヤ)を外してから、
プライマリドライブギヤを外そうとすると、
ユニバーサルホルダ(クラッチセンタホルダ)がギヤの歯に引っかからないのです。
「コンロッド小端に棒を差し込んで回り止めにする」という方法もあります。
※RMXのスズキ特殊工具はこれです。
試しに写真のように「キリの木製の柄」を差し込みましたが、かんたんに「メシッ」
スチールパイプなら止められるでしょうが、クランクシャフトのセンターが狂わないかと心配になります。
だから、この段階で緩めます。
ブライマリードリブンギヤとドライブギヤの間にウエスを挟めばOKです。
それで不足ならクラッチアウターの爪にホルダーを引っかけましょう。
専用の特殊工具があります。
07HMB-KV30100 → こちら
しかし、自分でも造れそうなただの歯車止めです。
どうしてもドライブギヤの方を止めたければユニバーサルホルダーを工夫しましょう。
片方の爪を外側へ曲げて、
もう片側の爪を内側へ曲げれば使えそうです。
但し、試していませんので「できるかどうか」分かりません。
プライマリドリブンギヤとドライブギヤの間にウエスを挟んだら緩みました。
・プライマリドライブギヤの取り付けボルト締め付け規定トルク : 900~1000㎏・㎝
・ネジロック塗布不要ですが、前の組立者が使ったかどうか分からないので、念のためにネジロック解除。
●クラッチ取外し
通常通りですが、ロックワッシャが見当たりません。
カシメてあるのがロックワッシャなのだろうけど、パーツリストにそのワッシャがありません。
ナット自他にツバが付いていて、そのツバを曲げてシャフトの溝に入れてロックするのです。
部品点数が少なくて済みますが、ユーザーとしてはロックワッシャの方が安上がりです。
b.クランクケースの分割
RMXのような「左右分割」の場合はクランクケースセパレーターで引っ張らなければなりません。
クランクケース組立のときにはクランクシャフトを引き込まなければなりません。
さらに、クランクケースを分割するとトランスミッションやシフトカムもバラケてしまいます。
当然、これらを組み直さなければなりません。 → 分解手順,組立手順
また、クランクケース接合のときに微妙な調整があります。 → こちら,こちら
これに対しNSRのクランクケースは上下分割式で、クランクケースの上下ボルトを外せば簡単に外れます。
クランクケースを分割すればクランクはそのまま取り出せます。
トランスミッションは別の部屋に入っていますからバラケてきません。
しかも、この作業がエンジンを降ろさないで可能です。
整備性に関して言えばNSRは非常にすぐれていると言えます。
①クランクケース上部のボルト取外し
外すのは5本。
・M6×首下25㎜が3本とM6×首下30㎜が1本。
・差し込むと4本すべてが同じ高さになります。
・この4本には全て銅製のシーリングワッシャ(6㎜)が入っています。
・5本目はオイルポンプ後のボルト。M8×首下105㎜。
・ここにもワッシャが入っています。パーツリストにサイズ記載なし。(90555-283-000)
②クランクケース下部のボルト取外し
・M8ボルトでS/首下80㎜,M/首下85㎜,L/首下90㎜。
・写真上左端にだけワッシャ(オイルポンプ手前の接合ボルトと同じ)が入っています。
③トランスミッションミッションオイルポンプを取り外す。
NSR250はJ型からトランスミッションオイルポンプが追加されています。
これがクランクケースの接合部にかかっているので取り外さなければなりません。
・M6/首下16㎜とM6/首下18㎜のキャップボルト。
・裏側にOリング(8×1.5)取付。
・プレートを留めるノックピン5×8が2本。なくさないように注意。
これで引っ張れば外れます。
プラスチックハンマーで軽く「コン、コン」と。
そんな程度では外れません。
「液体ガスケットがしっかりとくっついているから」とエアホットガンで接合部を熱してもダメです。
サービスマニュアルには「クランクケース合わせ面をトライバーなどでこじらないこと」と書いてありますが、こじらないと外れません。
後側の左端に隙間があるのでここにドライバーを差し込んで「こじる」と、簡単に外れます。
c.クランクの状態
●クランクベアリング
ベアリングには突起があって、それがクランクケースの凹みに当たって固定される。
これで回転方向へのベアリングを固定。
「突起のあるベアリング」など汎用ではないので汎用ベアリングは使えないでしょう。
なお、サービスマニュアルに「ベアリングセットリング」というものが出てくることがあります。
※V550.2000.10.G~N 頁11-3
「クランクケースの右側端部のベアリングホルダ部にベアリングセットリングを取り付ける」
もちろん、そんな溝はないし、MC21のパーツリストにもセットリングはありません。
多分、MC16くらいのモデルでは「右端のベアリング突起を止める凹部にだけ溝があった」のでしょう。
それが、MC21では何らかの理由でそれが無くなったのでしょう。
「前所有者が入れ忘れたのかもしれない」との心配は無用です。
プライマリードライブギヤ側(写真では左側)のベアリングに68㎜のスナップリング。
クランクケースにはこのスナップリングが入る溝。
これで左右方向を固定。
●ベアリング状態
〇ブライマリードライブ側
・回すと「ザー」という音。内輪にガタつきあり。
〇中央
・回すと「チャラチャラ」という音。
〇ジェネレーター側
・スムーズに回って異音なし。
・内輪のガタ正常。
●オイルシール
〇取付方向を間違うことはない
オイルシールにはツバが付いています。
それがクランクケースの溝にはまります。
だから、RMXのように「取付方向を間違って大惨事になる」ことはありません。 → こちら
しかし、汎用品が使えないので純正部品のなくならない内に確保が必要。
〇オイルシールの状態
左がプライマリードライブギヤ側のオイルシール。
・内側にリップ欠け。
・オイルシールとしての役割は果たしていない。
右がジェネレーター側のオイルシール。
・リップが磨耗してなくなっている。
・クランクケースにガソリンを入れたら「ダダ漏り」は当然。 → こちら
RMXでは「クランクケースを分割せずに、オイルシールを外側から交換」できました。 → こちら
しかし、NSRではここまでやらないとオイルシールが交換できません。
〇センターシールの状態
「この辺りにセンターシールというものがあるらしい」けどそれらしきものがない。
細いスプリングのようなものがちぎれてくっついていました。
センターベアリングにはOリング(60.7×1)がはまっているけど、ペッチャンコ。
〇井上ボーリングへ送付
・プライマリードライブギヤ側ベアリングのスナップリングを取外し。
・ジェネレーター側クランクシャフトのウッドラフキー取外し。
ゆうパック60サイズは25㎏までOK。
2022.12.12、いつもは嫌いなゆうパックで送りました。
d.速報
2022.12.24 井上ボーリングからクランクが戻ってきました。
オーバーホールしてラビリ組み付けです。
磨きもかかっています。
「3月くらいだろう」と覚悟していましたが、2週間もかかりませんでした。
「コンロッドが2本とも大端内径部が酷く変形している」とのことでコンロッドを交換してもらっています。
1本7000円×2=14000円で工賃込みです。
これが交換してもらった部品です。
多分、真ん中の「割れた金属製の輪」がセンターシールの一部だったのでしょう。
このオーバーホールは「サンデーメカニック」には無理です。
「コンロッドが使用限界を超えている」など素人が見つけるのは無理でしょう。
「餅は餅屋」という言葉がピッタリです。
シリアルナンバー刻印済みです。
別に「エンジンに貼る”ラビリ装着済み・シリアルナンバー“の耐熱シール」が附属します。
当方は年末年始と多忙です。
組付けは1月下旬から、出来上がり・試走は春になります。
以上、速報まで。