警備業者は一人親方が多い業種です。
しかし、大きくするには人を雇わなければなりません。
そのような場合に必要な手続きを説明します。
手続きは二種類。労働基準監督署・ハローワークに対するものと税務署に対するもの。
前回説明した断続的労働の適用除外許可申請や最低賃金の減額許可申請は前者です。
今回は、労災保険と雇用保険について説明します。
手続は基準監督署とハローワークで行います。
その方法は「労働保険の成立手続はおすみですか」というパンフレットに詳しく書かれています。
また、基準監督署やハローワークで詳しく説明してくれます。
わざわざ説明する必要もありませんが「敷居が高い」と感じる方もいるでしょう。
そんな方は一読してください。
避けては通れない手続きなので必ず完了してください。
- 労働保険の基礎知識
- 届出書,提出先,添付書類,期限
- 届出書の書き方
- 退職したときの手続き
- 労働保険年度更新(次年度保険料の申告・納付・清算)
1.労働保険の基礎知識
a.保険関係が当然成立する特殊な強制保険
労働保険とは労働災害保険と雇用保険を総称したものです。
これは労働者を守るための保険なので
加入手続や保険料の支払がなくても、労働者を雇ったときに「加入したこと」になります。
火災保険や生命保険は加入手続をして保険料を支払わなければ保険関係は成立しません。
強制保険と呼ばれる自賠責も同じです。ただ自賠責の加入義務があるだけです。
これに対し、労働保険は「労働者が保険対象者となった時点で保険関係が成立」します。
労災保険なら雇われたときに、
雇用保険なら雇用保険が適用される労働者として雇われたときに保険関係が成立します。
あとは使用者の届出義務と使用者・労働者の保険料支払義務が残るだけです。
※労働保険の保険料の徴収等に関する法律(徴収法) 3条,4条
※労働者災害補償保険法(労災法) 3条1項
※雇用保険法 5条1項
※雇用保険が適用されない労働者(雇用保険法6条)
・一週間の所定労働時間が20時間未満
・雇用見込みが31日未満
・昼間学生 など
・2017年の法改正で65歳以上の労働者にも適用されるようになりました。
b.使用者が手続をしていなかった場合
●労災保険が未手続の場合
使用者が労災保険の手続をせず保険料(100%使用者負担)を支払っていなかった場合
労働災害が起こったら労働者は災害補償を受けられるのでしょうか?
使用者に雇われたときに労災保険の保険関係は成立しているので補償が受けられます。
使用者は遡って保険料を支払い、
手続をしなかった責任の度合いに応じて保険給付額(補償額)を支払わなければなりません。
※認定決定により保険料が決まる(徴収法19条4項)。
※保険料徴収の消滅時効が2年(徴収法41条)のため最大2年間の保険料の支払い。 → こちら
※10%の追徴金の支払い(追徴法21条)。
※保険給付額の負担(労災法31条)。
※労災保険未手続事業主に対する費用徴収制度の強化(厚生労働省)
手続をしなかった使用者に対する罰則は
・使用者の報告,文書提出,立ち入りに対する義務違反にだけ(労災法51条~54条)
・使用者が届出をしなかったこと自体には罰則なし。
●雇用保険が未手続の場合
使用者が雇用保険の手続をせず保険料(使用者と労働者負担)が支払われていない場合
労働者は雇用保険の給付を受けられるでしょうか?
こちらも労災保険と同じです。
雇われたときに雇用保険の保険関係が成立しているので雇用保険給付を受けられます。
ただ、保険料が未納なので
使用者も労働者も保険料の負担分を遡って支払わなければなりません。
支払わなければならない保険料は、認定決定により決まりますが(徴収法19条4項)、
問題は「消滅時効で2年間しか遡れない(徴収法41条)」こと。
そのため 20年勤めていても労働者が遡って保険料を支払えるのは最大2年間で、
「被保険者であった期間」は最大2年間となってしまいます。
失業給付は「~1年,~5年,~10年,~20年,20年~」で給付日数が異なるので、
労働者の不利益になります。
この点は「雇われたときから保険関係が成立する」とういう労働保険制度の趣旨に反し
何らかの救済措置が必要でしょう。
※使用者が雇用保険名目で給与から控除していた場合は救済措置があります。 → こちら
このように雇用保険の手続懈怠は労災保険と違って労働者に不利益を生じさせるので
手続をしなかったこと自体に対しても罰則が設けられています。
6カ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金(雇用保険法83条1項)
2. 届出書,提出先,添付書類,期限
a.保険関係成立届
〇届出の意味
・労働保険の対象となる労働者を雇いましたので、保険料徴収など以後の事務手続きをお願いします。
〇提出先
・労働基準監督署
〇添付書類
・個人 → 事業を行っていることが分かる書類のコピー(警備業認定書)
・法人 → 法人番号があるので不要
・通勤経路の略図は不要。
これは実際に事故が起こり. 労災の適用が問題になった場合に提出が要求される。
予め届ける必要はない。
〇提出期限
・保険関係が成立した日(雇い入れの日)の翌日から起算して10日以内
b.概算保険料申告書
〇届出の意味
・本年度の保険料はこれだけになる予定なので申告し納入します。次年度初めに清算します。
〇提出先
・労働基準監督署
〇添付書類
・なし
〇提出期限
・提出期限 → 保険関係が成立した日(雇い入れの日)の翌日から起算して50日以内
・支払期限 → 保険関係が成立した日(雇い入れの日)の翌日から起算して50日以内
※50日目に提出したらその日に保険料を支払わなければならない。
※毎年6/1~7/10に先年度の確定分を申告して清算。本年度の概算分を申告して納付。
〇年度毎の清算と申告・納付
・その年度(4月~翌年3月)の確定労働保険料はその年度に実際に支払った賃金によって決まります。
・毎年「前年度に支払った賃金とそれに対する労働保険料」を計算して前年度の確定保険料を計算します。
・次年度(本年度)の保険料は前年度の確定保険料を(暫定保険料として)申告し納付します。
・このとき、前年度に申告・納付した労働保険料(暫定保険料)が前年度の確定保険料より多ければ、
次年度(本年度)の暫定保険料から差し引いて、少なければ上乗せして申告・納付します。 → こちら
c.雇用保険適用事業所設置届
〇届出の意味
・雇用保険の対象となる労働者を雇いましたので手続きをお願いします。
※労災保険と雇用保険の対象者が違うためaの「保険関係成立届」とは別に届ける。
〇提出先
・ハローワーク
〇添付書類
・「a.保険関係成立届」の事業主控え
・事業をおこなっていることがわかる書類 (登記簿謄本,営業許可証など)→ 警備業認定書
・免許証のコピー
〇提出期限
・ 設置の日(雇い入れの日)の翌日から起算して10日以内
d.雇用保険被保険者資格取得届
〇届出の意味
・この労働者を雇いましたので、この労働者について雇用保険の手続きをお願いします。
〇提出先
・ハローワーク
〇添付書類
・雇い入れの日が分かるもの → 「タイムカード,出勤簿,雇用契約書など」のコピー
〇提出期限
・資格取得の事実があった日(雇い入れの日)の翌月10日まで
・ただし. 一名分は「c.雇用保険適用事業所設置届」と一緒に提出。
結局. 一名はcと同じく「設置の日の翌日から起算して10日以内」となる。
※雇い入れの日をいつにするか
「保険関係が成立した日,資格取得の事実があった日」とは「雇い入れの日」ですが、
「雇い入れの日」とは「採用の日・労働契約の日」なのでしょうか「初出勤の日」なのでしょうか?
雇用契約書(労働条件通知書)の「採用の日」と「初出勤の日」が異なる場合
どちらにしたらよいのでしょうか?
採用の日が6月1日、初出勤の日が7月1日の場合
「保険関係が成立した日,資格取得の事実があった日」を 6月1日にすると
実際に働いていない6月分の保険料を支払うことにならないのか?
心配いりません。雇い入れの日をいつにしても保険料は同じです。
保険料は「その年度の支払い予定賃金」に対して算出され(概算保険料)それを使用者が事前に納入。
次年度初めに「実際に支払った賃金」に対して保険料を算出して清算。
そのため、保険料は実際に支払った賃金に対して決められます。
また、労働者の負担分は毎月の給与に対して保険料を算出し給与から控除。
結局、雇い入れの日をいつにしても使用者と労働者の支払う保険料は
実際に支払った賃金・実際に受け取った賃金に対して決められるので変わりません。
ただ、雇い入れの日を早くすると書類提出期限が早くなり.
概算保険料の支払い期限が早くなります。
また、雇い入れた労働者が初出勤の日の前に辞める場合もあります。
だから、初出勤の日を「雇い入れの日」にした方がよいでしょう。
それでは、実際に届出書を書いていきましょう。
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