RMX-SJ13 整備資料



2018.05.02. モタードRMX② の ギヤオイルが黒くて燃費が悪い-その2 / エンジ②-2 の点検・異状なし





RMXモタードで「ギヤオイルがすぐに黒くなり燃費が悪くなった」エンジン②-2 を降ろしてチェック。
しかし、すべて問題なくエンジンに異状なし。
念のために、シリンダーを「問題なしの実績のある」ものに交換。、クランクシャフト左右のオイルシールを交換。ドライブシャフトのオイルシールも交換。
ついでに「RM250のガッチリクラッチ」を組んで、「問題なしエンジン」としてエンジン②-3 をスタンバイ。



ピストンとシリンダーの状態/問題なし。念のためにシリンダーを実績のあるエンジン③のものに変える
クラッチの状態/問題なし。試したみたいRM用のクラッチを取り付け
クランクシャフト右ベアリングの状態/問題なし。オイルシールだけ交換
クランクシャフトオイルシールの外から交換
ジェネレーターのローター取り付け・取り外しの注意
排気バルブ右室のカバー取り違え/右室のガソリン汚れ・部品のサビだけで問題とはならない
排気バルブ右室のカバーはN型とRS型では違う(RS型では「エキゾーストバルブ室とミッション室のブリーザーを分離独立」)
排気バルブの状態/問題なし。
ドライブシャフトオイルシールの状態/オイルシールがベアリング内輪を削った?/しかし燃費が悪くなった原因ではない。
ドライブシャフトのスペーサとオイルシールの取り付け
ギヤオイルがすぐに黒化し燃費が悪い理由は見当たらず



1.取り外したエンジン②-2の状態と処置

     
a.ピストンとシリンダーの状態

※問題なし。念のためにシリンダーを実績Rものに交換


イ.きれいな状態

 クランクケース上面に金属粉はありません。

 ベアリングホルダーやベアリングが損傷した場合は
 この二つの穴から金属粉が吹き出し溜まります。→→→こちら  


 ピストンがいやにオイルで濡れています。
 レース用イグナイターにはオイルポンプの調整が必要なのでしょうか?
 正確に測っていませんが、オイル消費量がとても増えました。
 ※燃費が悪いから当然です。
 ヘッドきれいです。
 写真は取り外したままの状態。


 爪で触れば縦傷を感じますが、この程度なら問題ありません。

ピストンがきれいなので、多分新品ピストンを組んだと思うのですが、いつどのエンジンに組んだものかどうか覚えていません。

そこで、エンジンの履歴を検証。

・ このエンジンの前身はレース仕様・混合給油のN型 ( エンジン① ) で、2012.2 に尾鷲・熊野の山中で右クランクベアリング破損→→→こちら
・ 2013.2、クランクベアリング破損をピストンの抱きつきと間違い、エンジン②のRS型のシリンダーに新品ピストンを組んでテスト。当然ピストンはガリガリに。→→→こちら
・ 2013.3、腰下ガ怪しいと腰下もエンジン②のRSに。( 2014.7、エンジン①の腰下分解、ここでベアリング損傷が分かる。→→→こちら )。→→→こちら
・ 2014.9、左クランクベアリング損傷が分かり腰下OH。シリンダーやピストンはそのまま。→→→こちら
・ 2016.2、新たに入手したエンジン⑤ ( N型 ) をOH。新品ピストンを組む。→→→こちら
・ 2016.4、排気バルブの損傷が分かり、エンジン⑤のシリンダーをピストンごと移植。→→→こちら
・ 2017.1、排気バルブ点検異常なし。→→→こちら

※結局、腰下はエンジン②のRS型で、OHは2014.9。腰上は新品ピストンを組んでOHしたN型エンジン⑤のものを2016.4に移植。
  ピストンは2016.4に新しくなっているのできれいなのです。


ロ.シリンダーの状態


このシリンダー(エンジン⑤から移植)はホーニング加工がしてあります。→→→こちら

 こちらは横面。
 交差した斜めの加工線 ( 縞 ) が付いています。
 こちらは前側の面。
 ピストンは前後に押しつけられるので、縦線 ( 縞 ) が付きます。
 ホーニング加工斜め縞の上からピストンの縦縞が付いているのが分かります。


このシリンダーで気になるのは排気バルブ孔の天井にある凹み。

 シリンダヘッド側を下にしています。

 右側のバルブ孔の天井に 「 ミドルバルブの突起で削られた 」 と思われる凹みがあります。

 この凹み部分にはバルブガイドが当たり、バルブガイドは固定されて動かないので、
 ミドルバルブがこの部分に引っかかることはありません。

 また、この凹み部分を含めバルブ孔の天井部分にはバルブガイドの曲面が当たるので
 この凹み部分からガス漏れがすることはないはずです。

 しかし、後で述べるように 
 「 このエンジンは 排気バルブ室に多くの排気ガスが流れ込んだようであること 」 から
 この凹みが気になります。



ハ.RMX③/エンジン③のシリンダーを使うことに。

そこで、スペアーの実績のあるシリンダーを使うことにしました。
そのシリンダーは、クランクシャフト右ベアリングを破損したエンジン①の換装用とし入手したRMX③/エンジン③のもの。→→→こちら

当時はエンジン① の 「 クランクシャフト右ベアリングの破損 」 を知らずに、
ベアリングを破損したままのエンジン①の腰下に、このシリンダーを組んでテストしたのでそれ相応のダメージを受けたと思います。→→→こちら

しかし、「 エンジン②の腰下 + エンジン②のシリンダー 」 で 正選手RMX② に搭載して 2013.3~2016.4 の三年間、問題なく使ってきたシリンダーです。→→→こちら
2016.4 に排気バルブの損傷が分かって、スペアーとなりましたが実績のあるシリンダーです。→→→こちら

 排気バルブ孔の天井に凹みはありませんが、その当たりに傷があります。  シリンダー面はそれ相応の浅い縦傷が無数にあります。
 しかし、問題となるような大きな傷はありません。

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b.クラッチの状態

※問題なし。全て正常。但し、RM用のクラッチを取り付け。


イ.全て正常・爪段差も問題なし


・腰下は2014.9 に OH。
  3年半も酷使していますが、きれいです。
・クランクシャフトオイルシールの磨耗や劣化があり、
  クランク室から混合気が漏出するともっと悲惨な状態になります。
・混合気漏出なら、このあたりに、泥のようになった変質オイルが溜まっています。
  しかし、そんなものはありません。


・プライマリードリブンギヤもきれいで異常なしです。 ・ギヤ取付プレートの一部にサビがありましたが、
  これは通常使用によるもので問題ありません。


・ドライブデスク厚はジャダースプリング対応のデスクが 3.0㎜、
  あとの7枚は 2.8㎜でOK。
・ドリブンデスクもきれいで、ドライブデスクとの張り付き痕なし。
・ジャダースプリング入り。
・構成部品は全てきれいで良好。クラッチ滑りを起こしていた徴候なし。
・プライマリードリブンギヤの爪段差については、
  この写真では問題ある凸凹のようですが、
  実際は指の腹で触って 「 ああ、あるな 」 と凸凹を感じる程度。
  このくらいの凸凹ならデスク同士が離れることを邪魔せず、
  クラッチ滑りは起こらないでしょう。
・しかし、オイルストーンで修復しておくにこしたことはありません。



ロ.RM用のガッチリクラッチを使うことに

R・Sのクランクケースだから、R・Sのクラッチハウジングが一番なのですが、
試してみたいクラッチがあるので、そちらを使うことにしました。。

今年の正月に入手した 「 多分RM用のだろう 」 ガッチリクラッチです。→→→こちら

 爪の段差・ 凹凸 は上のものより軽いものです。  ドリブンプレートはずっしり重いスチールです。

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c.クランクシャフト右オイルシールとベアリング

※異状は見られず。念のためにオイルシールだけ交換。


イ.点検-異常は見られず


・最初に外すのはプライマリードライブギヤ。
・ネジロック指定なのでエアーホットガンで解除。
・プライマリードライブギヤの下にスペーサがあります。
  これははめてあるだけなので、プライヤーで挟んで抜きます。
・スペーサの中にOリングが入っているので、
  スペーサを指でつまんで抜くことはできません。
・オイルシールの主リップが当たるのはこのスペーサの外周です。


・オイルシールが磨耗してスペーサとのシールが甘くなると、
  クランク室から混合気が流れ込みます。
・もちろん、甘いか甘くないかは見ただけで分かりません。
  「 疑わしきはオイルシールの不利益に 」 です。
・できればスペーサ内のOリングも新しくした方がよいでしょう。
  今回は交換しませんでした。
・オイルシールの奥にあるのがベアリングです。
・オイルシールとベアリングの間にはすき間がありますから、
  そこに何かを入れてオイルシールをこじれば外れます。
・このとき、オイルシールの外周と接するオイルシール孔外周を傷つけないこと。
  この部分が傷つくと、オイルシールを新しくしてもそこから混合気が吹き込みます。
・写真では「挟んで外す」ように見えますが、そんなに簡単には外れません。
  写真は「プライヤーの下の部分でこじっている」様子です。
  どこかに「支点になるもの」を置いた方がよいでしょう。


・2~3箇所を「こじれ」ば外れます。
・オイルシールプーラーという道具があります。→→→こちら ・ こちら
  あれば便利だから、「送料無料枠用」に予定チェックしておきましょう。
こちらがオイルシールの金属プレート面。
 この面が外側から見えていると 「 オイルシールの逆組 」 です。
 こじっているので、傷がついていますが、再使用しないので問題ありません。


・ベアリングホルダーは変色していますが、損傷はありません。
・ベアリング損傷は、まずペアリングを留めている金属ホルダーがちぎれ、
  次にベアリング玉が外れます。
  そして、飛び出したベアリングはクランクケースの中で消えてしまいます。

・オイルシールを交換するのならついでにベアリングも交換したほうが確実です。
  左右ベアリングの部品代は1500円~2000円です。
  しかし、ベアリングを交換するためにはクランクケースを割らなければなりません。
  ギヤ類をすべてばらし、また組み上げなければなりません。
  オイルシールたけならこの状態で外側からオイルシールを「ツライチ」に打ち込めば終わりです。
  左側オイルシールはジェネレータを外せばOKです。

・「オイルシールの手持ちもあるし、今回はオイルシールだけにして様子を見ようかな…。」 と迷い、
  結局オイルシールだけを交換することにしました。
  「オイルシール交換二回に対してベアリング交換一回」でよいでしょう。


・クランクケース右室の内部はきれいです。
  この右室の状態から「ギヤオイル黒化の原因」を「クランクシャフト右オイルシールの磨耗による混合気吹き出し」とすることに無理があります。
・どこにも病変は見当たりません。 

   ●●       
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ロ.クランクシャフトオイルシールの交換



( 右側オイルシール交換 )

・何度も言いますが、このプレート面は内側(クランク室側)になります。
・このプレート面が外側から見えていたら、取り付け方向が逆です。
・オイルシールはN型とRS型では異なります。
オイルシールの上から大きい座金を当てて打ち込みます。
  オイルシール打ち込み具で使った座金を使います。→→→こちら
  クランクシャフト径が22㎜Φだから座金穴の内径 22.5㎜Φ のものが適合。
・事前に「座金がオイルシール孔の上端面まではまるかどうか」を確認。


・ベアリングと違って、初期打ち込みにそれほどこだわる必要はありません。
  座金を当てて少し打ち込み、出っ張り過ぎの部分を少し打ちめは初期打ち込みはOK。
座金をそのまま叩いても打ち込めますが、
  ここはおだやかに、
  座金の上にソケットを当てて、ハンマーで「コン、コン」と打ち込みました。
・RS型の右オイルシールは外径 52㎜,内径 38㎜ だから、一番良いのは50Mのソケット。
  そんな大きなソケットは持っていませんので、手持ち最大の 36Mソケットを使いました。
  ソケット取り付け穴からクランクシャフトを見て、
  オイルシール外縁に均等に力がかかるようにします。


・座金がオイルシール孔の上端で止まるので、
・どれだけ座金を叩いてもオイルシール上端はオイルシール孔上端とツライチになります。
しかし、実際はオイルシール上端がオイルシール孔上端より少し出ているように見えます。
  触ってみても少し出ているようですが、これでOKです。
  座金を上から当ててどれだけコンコンしてもゴンゴンしてもこれ以上は入りません。


スペーサを差し込むときに、スペーサの長さを確認しておきましょう。

N型クランクとRS型クランクではスペーサの長さが違います。
N型 / 23.5㎜、RS型 / 22.5㎜ です。→→→こちら


( 左側オイルシール交換 )

・まず、ローターとコイルを外します。
・ジェネレーター室に金属粉はみあたりませんが、湿った汚れがあります。
  これはクランク室からの混合気侵入の痕跡でしょう。
下側にこの湿った汚れが溜まっています。
・やはりオイルシールが磨耗しているのでしょう。
・金属粉があればベアリング損傷です。


・小さいオイルシールですから簡単に外せます。
・巾の狭いマイナスドライバーをシャフトの横からオイルシールリップ部に差し込み、
  そのまま ドライバーを左に回してやれば外れます。
・右側のオイルシールのようにどこかを支点にして「こじる」必要はありません。
オイルシールはN型とRS型共通です。
・取り付け方向は平坦面が外側、凹面が内側。
・打ち込み量はオイルシール孔上端面とツライチ。
・オイルシールの打ち込み量はすべて「ツライチ」です。


・オイルシール打ち込みの前にジェネレーター室をきれいにしておきましょう。
  そうしておかないと、次回の点検で異状や病変が判りません。
・ジェネレーター室の清掃はオイルシールを打ち込んだ後でもよいのですが、
  パーツクリーナーを吹きつけて清掃しますので、オイルシールが損傷します。
・右側と違い、打ち込むときにオイルシールがクランクシャフトに直接当たるので、
  オイルシールのリップ部にグリスを付ける必要があります。
・オイルシールは指で押し込んでもはまりますが、
  押し込みすぎないようにやはり座金を当ててツライチに打ち込み。
  見た目は少し出ているようですがこれでOK。


以上のオイルシール交換はエンジを降ろさなくてもできます。

「 クランクシャフトオイルシールの交換はクラッチデスク交換と同じレベル 」 だと初めて知りました。
    ★★19     
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ハ.ジェネレーターローター取り付け・取り外しの注意


( 取り付けの注意 )

コイルを取り付ける前に、クランクシャフトのピンの向きを変えておきましょう。

ピンにはローターの溝がはまりますが、この溝は 「 入口(ローター内側)が浅く、出口(ローター外側)が深い 」。形をしています。
だから、シャフトにはまっているピンを「 先(外側)が低く、元(内側)が高くなるように 」 しておくと、ピンが溝にスムーズに入ります。
ピンは溝に入った後、溝の形状に沿って  「 先が高く、元が浅く 」 なります。

もっとも、この調整をしないでもローターをはめることができます。
ローター取り付け穴はクランクシャフトより一回り大きくなっているので、
クランクシャフトのピン形状とローターの溝形状が合わなくても、ローターの溝にピンをはめることができます。
このとき、溝とピンが合っていないので、ローターはピンの方向にずれています。
その方向からハンマーでローターを叩いてやれば、ピンがローターの溝に適合してローターが真っ直ぐになります。

ピン調整はハンマーでコンコンと叩けば簡単にできますが、コイルを取り付けるとピン部分がコイルの奥になってこのコンコンがきません。
ピン調整はコイル取り付け前にやっておきましょう。


( 取り外しの注意 )

ローター取り外しのときに、プーラーで 「 固い、固~いっ 」 と引っ張っていると、突然 「 ボコッ 」 と外れるのは、
ローターの溝がピンを押さえつけて乗り越えるときに大きな力がかかるからです。

ローターが外れる直前にプーラーを回すレンチに大きな力がかかり、外れるとその力が開放されてレンチを持っている手をどこかに打ちつける危険があります。

プーラーを回すレンチが固くなり動かなくなったら、ローターを 「 溝のある側から下に向かって 」 プラスチックハンマーで軽く叩くと簡単に外れます。

次の写真ではローターを上から下に向かって叩きます。

・叩くのは「ローターの溝がシャフトのピンを乗り越えようとしているとき」です。
  初めから叩いても効果はありません。
・ローターの溝がシャフトピンを乗り越える前に、
  写真の上から叩いても、ピンが溝形状と同じになっているのでピン位置は変わりません。
  写真の下から叩いても、ピンに何ら力がかからないのでピン位置は変わりません。。
・叩くのはこの状態ではなく、もう少しローターが上に引き上がったときです。
  ローターがプーラーで引っ張られ、ローターの溝が「先が高くなっていくピン」に乗かかり
  ピンを上から押しつけているときです。
・叩くのは真下ではなく、「ローターの外側に向かって」の方が効果的でしょう。


また、叩くのはプラスチックハンマーで軽くやらなければなりません。
鉄ハンマーでガンカン叩くと次のようなことになります。

・コイルの鉄芯にマグネットが当たって割れてしまいました。
  ※エンジン⑤-3 の腰下。
・叩くのはプーラーで引っ張ってピンに力がかかっているときに 「 コン 」 だけ。
・レース仕様だったエンジン①のローターに交換しようとしたら、
  こちらは 「 マグネットは割れていないけれど角がガリガリ 」。
・割れたマグネットをエポキシ接着剤で留めることにしました。

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d.排気バルブの状態

※ギヤオイルがすぐに黒くなったり、燃費が悪くなったりするような原因はみられず。

 「 排気バルブ右室のガソリン汚れ 」 があったが、これは排気バルブ右室のカバーをRS型のものとしてためで、
  これは「ギヤオイルがすぐに黒くなったりり燃費が悪くなったりする」原因とはならない。
・排気バルブシャフトアームがバルブシャフトに固着していたことも、上の原因とはならない。


イ.排気バルブ室右側のガソリン汚れ

※ギヤオイルがすぐに黒くなる原因とはならない。


取り外したエンジン②-2 の排気バルブ右室の状態です。

・今まで、この部分がこのように汚れているのを見たことがありません。
  これはどう見ても 「 ガソリンによる変色 ・ サビ 」 です。
上にいくほどひどくなっています。


・レバーを動かしていると、 「 あれっ? こんなところに穴があいている!」


・確かに穴があいています。 ・予備のシリンダーでもチェック。 確かに穴があります。
・しかし、RS型のシリンダーではこの穴はありません。

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ロ.N型 と RS型 ではシリンダーが異なる


※エキゾーストバルブ室とミッション室のブリーザーの分離独立


パーツリストで N型とRS型のシリンダーが異なることは知っていましたが、どこが違うのか分かりませんでした。
それがこの 「 排気バルブ室の右穴 」 だったのです。

・写真左が 穴のない RS型のシリンダーと排気バルブ右カバー。

・写真右が 穴のある N型のシリンダーと排気バルブ右カバー。


まずはN型のシリンダーから。

・上の穴は排気バルブシャフトの穴。
・下の穴が問題の穴です。
・上の穴が排気バルブシャフトの穴、問題の穴は下の穴。
・同じような穴が排気バルブ室の左上にもあります。
・この穴も「左上にある穴」と同じで
  排気バルブ室に入り込んだ未燃焼ガスや排気ガスを外部に排出するための穴でしょうか?
  いえいえ、この穴には別の役割があります。


・このシリンダーに対応する右カバーにはガス抜き孔がありません。
  だから、排気バルブ室に入り込んだ未燃焼ガスや排気ガスは外に出ることができず、
  アクチュエーターロッド孔からクランクケース右室に行くしかないのです。
・しかし、クランクケース室は高温になって室圧が高くなっているので、
  そちらに行くことはできません。
・だから、この穴は排気バルブ室に入ったガスを外部に排出するためのものではないのです。
この穴はクランクケース内の圧力を逃がすためのものです。
・クランクケースが高温となり中の気体が膨張して内部圧力が上がると
  シール類を損傷するので、膨張した気体を外部に抜く必要があります。
・クランクケース内の気体はこの穴を通って排気バルブ室に入り、
  排気バルブ室に進入してきたガスと一緒になって左上の穴から外へ出ていくのです。


次にRS型のシリンダー。

・右側にあるのは排気バルブシャフトの通る穴だけ。
  N型シリンダーにあったような穴はありません。
排気バルブ室から見ても右側に穴がないことが判ります。
  もちろん、左上には排気バルブ室に入り込んだガスを抜くための穴があります。


・RS型では この穴を無くした代わりに排気バルブ右カバーにガス抜き穴を設けました。 クランクケースの膨張した気体をこのカバーの穴から直接外に出すようにしたのです。
・RS型では排気バルブ室のガス抜き通路とクランクケースのガス抜き通路を別々にしたのです。
・サービスマニュアルの「RS型での変更点」の記述うち、
  「エキゾーストバルブ室とミッション室のブリーザーを分離独立」がこれに該ります。


だから、 「 右に穴のないRS型のシリンダーに、ガス抜き穴のないN型の右カバーを付ける 」 と問題が生じます。
クランクケース内の膨張した気体が抜けることができず、クランクケースの室圧を下げることができなくなるからです。

では、逆に 「 右に穴のあるN型のシリンダーに、ガス抜き穴のあるRS型の右カバーを付ける 」 とどうなるでしょうか?
今回降ろしチェックしたエンジン ②-2 が まさにその状態です。

クランクケース内の膨張した気体も排気バルブ室に進入したガスも、右カバーの穴と排気バルブ室の左穴の両方から出ることができます。
一見、排気効率が良くなっただけで問題がなさそうに思えますがどうでしょう。

・抜け道は通りやすい方が多用されます。

・クランクケース内の膨張した気体は
  「いったん排気バルブ室に入って、排気バルブ室の左上の穴から出る」より、
  「直接右カバーの穴から出る」方が楽です。

・一方、排気バルブ室に進入してきた未燃焼ガスや排気ガスは 
  「左上穴から出ても、右下穴から出ても、通りやすさは同じ」ように思えますが、
  「右下穴を通り右カバーの穴から出る」方が楽なのです。
  それは左上穴先には 排気バルブサイレンサー という関所があるからです。
・つまり、排気バルブ室に進入したガス
  は主に排気バルブ右室に入り右カバーから出ていくことになります。

・もちろん、この未燃焼ガスや排気ガス排気バルブ右室に入っても、
  クランクケース内の圧力に押されるので、クランクケースに入ることはありません。

・今回の「排気バルブ右室の汚れ・赤サビ」はこのような理由で起こったと推測されます。

だから、この「N型シリンダーにRS型の排気バルブ右室カバーを付けていたこと」は、クランクケース内のギヤオイルを変質させたり、増やしたりする原因とはなりません。
エンジン②-2 の排気バルブ右室のガソリン汚れやサビは問題となっていることの病変ではないことになります。


いったん取り付けたカバーを交換しました。

・RMX②に新たに搭載したエンジン⑤-3(N型シリンダー)で、「ガス抜き口はあるに越したことはない」と、RS型のカバーを付けましたが、
  早速、ガス抜き口のないN型カバーに取り替えました。
・ガス抜きホースは取り外すのが面倒なのでカバーに留めておきました。


    
ハ.排気バルブの状態/問題なし



取り外した排気バルブを洗浄したものです。

一年前に点検・清掃していますので問題はありません。→→→こちら

気になったのはバルブシャフトアームがバルブシャフトから外れなかったこと。

・バルブシャフトアーム取り付けスクリューに塗ったネジロックが、
  シャフトアームとシャフトのすき間に入り込んでロックしたとも考えられますが、
  排気バルブ室へのガス侵入など別の原因があったのかもしれません。
・バルブピン,ストッパー,ストッパーネジもサビていました。
・しかし、これらは「ギヤオイル黒化・変質の原因とはならないでしょう。
・写真の右側の 「 排気バルブ右室の部品 」 もすべてサビていました。
  やはり、排気バルブ室に入ったガスが右下穴から出ていたのでしょう。


ロアバルブ穴の磨耗は、

・ロアバルブ右横 : 外側 / 4.1㎜Φ、内側 / 4.15㎜Φ
・ロアバルブ左横 : 外側 / 4.1㎜Φ、内側 / 4.15㎜Φ
・カラー横 : 4.2㎜Φ / 4.2㎜Φ、4.3㎜Φ / 4.6㎜Φ
・ カラーもシャフトも内側が磨耗が大きいので、
  カラーは磨耗の少ない方を内側にして取り付け。※カラーは右側が多く削られる
・バルブ自体に問題はありません。
・カラー穴磨耗によりカラー内部にバリが出て、
  ロアバルブシャフト部に入りづらくなっていました。
  カラーはロアバルブシャフトに入ってからも自由に動く方がよいだろうと、
  バリを取ってカラーがスムーズにはまるようにしておきました。

 一年前の点検では
 ・ロアバルブ横 : 4.2㎜Φ / 4.15㎜Φ ※バルブ左右不明。内側外側の両方計測なし。
 ・カラー横 : 4.15㎜Φ / 4.25㎜Φ、4.3㎜Φ / 4.4㎜Φで後者を別の磨耗の少ないものに交換。

計測状態がまったく同じでないので比較することはできませんが、カラーは確かに磨耗しているようです。
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e.ドライブシャフト左カラーとオイルシール交換

※オイルシールがベアリング内輪に当たり、ベアリング内輪が削られていたが「燃費を悪化させるような」原因とはならない。


イ.オイルシールの取り外し / オイルシールがベアリング内輪を削った?



以前のOHのときにオイルシールを打ち込みすぎました ( こちら ) ので交換しておきます。

・オイルシールの打ち込み量は 「 オイルシール孔上端面とツライチ 」 これが原則です。

・オイルシール孔上端面~ベアリング内輪=7㎜、 オイルシールの厚さ=6㎜ だから、
  ツライチでオイルシールとベアリング内輪の間に 1㎜ のすき間ができます。
  ※ こちら と こちら

・しかし、オイルシール上端面がオイルシール孔上端から 2㎜ も下がっていました。
  オイルシールとベアリング内輪との隙間は1㎜しかないので、
  オイルシールがベアリング内輪に 1㎜ 削られたことになります。

・しかし、外したオイルシールの厚さは 6㎜。
  ということはオイルシールがベアリング内輪を 1㎜ 削ったのでしょうか?


・オイルシール取り外しにはドライバーを差し込むことができないので、
  スプリングフックを使用。
・引っかけて引っ張れば簡単に外れます。
・外す場合はオイルシールを再使用しないので色々なものが利用できます。
・ここでも、オイルシール孔の外縁を傷つけないことが必須です。


・ベアリング内輪がオイルシールに削られたのか光っています。
・それだけ、オイルシールがドライブシャフトの回転を邪魔していたことになりますが、
  ドライブシャフトの回転力が大きいので「燃費悪化」の原因にはならないでしょう。
スペーサにオイルシールによる段付きはありませんでした。
・表面の汚れを取って使います。
・Oリングは新品に。


     
ロ.スペーサとオイルシールの取り付け

・Oリング二本をスペーサに入れる。(ドライブシャフトにはめてもOK)
・スペーサ内部にグリスを付けてシャフトに差し込んで、22Mソケットを重ねて軽く叩く。
※ソケットを当てて叩くより、スプロケットをはめて押し込む方がよい。(※次項)
オイルシールのリップ部にグリスを塗ってスペーサにはめる。
・オイルシールの打ち込みは座金でやりたいのですが、スペーサ外径が28㎜Φなので、
  そんな大きな穴の開いた座金がありません。
  だから、角座金を立てて、オイルシール孔外端面とオイルシールに当てて叩いて入れました。



ハ.計算上ではスプロケット取り付けサークリップの溝は1.4㎜出て、1.2㎜厚のサークリップは軽く入る。

・写真の黒線はベアリング内輪の外端面。
・a : ベアリング内輪面~スペーサ外端=9.7㎜。
   ・ スペーサ巾=9.3㎜
   ・ スペーサにOリングが入る部分=3.4㎜
   ・ Oリング線径=1.9㎜
   ・ Oリング二本を入れた場合Oリングがスペーサからはみ出る量=1.9×2-3.4=0.4㎜
   ・ スペーサをベアリング内輪に接するようにした場合の 「 内輪~スペーサ外端 」 =9.3+0.4=9.7㎜
b : スプロケット厚さ=10㎜
・c : ドライブシャフト外端~スプロケット留めサークリップ溝の始まり=3.4㎜
・d : スプロケット留めサークリップ溝巾=1.6㎜
・e : ベアリング内輪~ドライブシャフト外端=24.5㎜

・ここで、「シャフト外端~スペーサ外端」=e-a=14.8㎜。
  これから、「スプロケット巾(10㎜)」 と 「シャフト外端~サークリップ溝まで(3.4㎜)」を
  引いたものがスプロケットから出ているサークリップ溝の巾。
・スプロケットから出ているサークリップ溝の巾=14.8-10-3.4=1.4㎜。

・サークリップの厚さが 1.2㎜ だから、
  計算値ではサークリップをはめてもサークリップが軽く回るだけの余裕があることになります。

もちろん、実際はスペーサの中のOリングの間にグリスが入るので、計算通りにはいきません。

サークリップ厚は1.2㎜だから、サークリップがギリギリ入るときの「シャフト外側~スペーサ外端」=14.8㎜-0.2㎜=14.6㎜。

実際の作業でこの値を測定してみると、

・スペーサを指で押し込んで、「シャフト外端~スペーサ外端」= 14㎜ → サークリップをはめるために、あと 0.6㎜ 必要。
・スペーサに22Mソケットを当てて、さらに軽く叩いて、「シャフト外端~スペーサ外端」=14.5㎜ → サークリップをはめるために、あと 0.1㎜ 必要。

スペーサを指で押し込んだだけでも「サークリップをはめるためには、あと0.6㎜スペーサを押し込めばよい」ことになります。
0.6㎜くらい、スプロケットをはめてスペーサを押し込んだら押し込めます。
だから、わざわざソケットを当ててスペーサを打ち込む必要はないでしょう。


f.エンジン②-3 完成


・シリンダー ( エンジン②のRS型 )
・排気バルブ ( エンジン⑤に付けていたエンジン①のN型 )
・ピストン ・ ピストンリング ( エンジン⑤、2016.2 に新品 )
・クランク・クランクケース ( エンジン②よりRS型 )
・クラッチハウジング ( RM用 )
クランクシャフト左右オイルシールだけ交換
・ドライブシャフト左オイルシール類交換


取り付けたエンジン⑤-3 の 燃費が悪く シリンダーとピストンに問題がありそうなので、このエンジンの出番がすぐにやってくるかもしれません。


    
2.エンジン②-2 のギヤオイル黒化と燃費悪化の原因は?


取り外したエンジン②-2 の状態から言えることは、
・シリンダ,ピストン,クラッチ,排気バルブに問題は見られない。
・N型のシリンダーにRS型の排気バルブ右カバーを付けていたが、排気バルブ室に入った未燃焼ガスや排気ガスがクランクケース内に入ったとは考えられない。
・ドライブシャフトオイルシールの打ち込み過ぎも燃費悪化の原因とはならない。

・ 考えられるのはクランクシャフトオイルシールの磨耗。

この点については、今回、クランクシャフトオイルシールを交換し、後の部分に問題のない、エンジン②-3 の実走テストで検証しなければなりません。


※2019.10.追記・解説

もう一度、上の「e-イ」の写真を見てください。何か気づきませんか?

ドライブシャフトのスプロケット取り付け溝が欠損しているでしょう?
当時はこれにまったく気付いていなかったのです。

これに気付いたのは一カ月後の2018.06.03→こちら.
結局、クランクケース分割のOHとなりましたが(こちら)、
このときに気付いていればすぐにOHしたので「オイルシール外から交換」の必要はなくオイルシールヲ無駄にしていしまいました。
なお、このドライブシャフトの磨耗・損傷は「リヤスプロケット小径化によるチェーンとチェーンガイドの干渉」が原因だったようです。→→→こちら

いまでは、これが「燃費悪化の原因の一つ」だと思われます。


つづく




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