5. 部品の取外し
a. 用語の統一
以下に使用する用語の意味を決めておきます。
「電気知識ゼロ」の使う用語の意味ですから、間違っている場合は読み替えてください。
・基板 : 電子部品が取り付けられている板
・基材 : 電子部品が取り付けられる板
・ホール・穴 : 基板に開けられた穴
・スルーホール : ホール内が銅メッキされて電気的につながっているもの。基板各層を導通させる。
※基板表面と基板裏面を接続させるためだけのものをVIA(ビア)ホールといいますが、
PGMⅢは表面と裏面の2層基板なのですが「VIAホール」とせずに「スルーホール」とします。
・アイレット : スルーホール修復のために使う銅製のハトメ
・パターン(銅箔パターン) : 導電材料で作られた基板の導電部分
・ランド : 部品の足をはんだする基板上の部分。スルーホールの表側のリング状の部分もランドとします。
・ソルダーレジスト : 基板表面を覆いパターンを保護する緑色の絶縁膜・塗料
・はんだ盛り : ハンダが盛り上がっている部分
b.必要な道具
●はんだこて
基板に残った足を取り除くのに必要になります。
足の根元のはんだ盛りを溶かしたり、足を上から押さえたりするのに「こて先端」が細いものが必要です。
・一番上 : HAKKO・ DASH(FX650・15W・セラミックヒーター) → こちら
・真ん中 : HAKKO・ RED(FX11・40W)・一番安いタイプ → こちら
・一番下 : good ・ KS30・30W・一番安いタイプ → こちら
値段が高いものほど「たくさんの種類の交換こて先」が準備されています。
一番下が HAKKO・ DASH・FX650 用の「T34-B/先端0.5㎜Φ」 → HAKKO DASH,こちら
一番安いタイプの FX11 や KX30 の交換こて先は 「軸径 4.0㎜Φ 」のもので、形状の種類は多くありません。
上から三番目と四番目がこの交換こて先。「HAKKO・502T」で先端1.0㎜Φ程度。 → こちら
上から二番目のこて先は「HAKKO・501ST-T」で先端0.2㎜Φ程度。
30W用でシャフト径は3.8㎜Φと少々細いのですが40Wの軸径4.0㎜Φの代用として使えます。 → こちら
スルーホール内径は0.8 ㎜程度。基板厚は 2 ㎜弱。
スルーホール内に残った足を押し出すには「外径/0.5~0.6㎜Φ」×「長さ/2~3 ㎜」のこて先が必要。
上の「T34-B/先端0.5㎜Φ」は円錐状で太くなるので「足を押す」ことはできても「押し出す」ことはできません。
「足を押し出す」ことができるかもしれないこて先は「HAKKO・T18-C05/0.5C型」 → こちら
これは、FX650の上位機種の温度調整式・FX600・601用の交換こて先です。 → FX600,こちら,FX601,こちら
はんだこてを新たに入手するのなら3000円程度のFX600・601がよいでしょう。
※HAKKOはんだこて・こて先 → こちら,
※goodはんだこて・こて先 → こちら
今回は「残った足押し出し用」として、 軸径4.0㎜Φのこて先を削りました。(写真一番上)
先を下に曲げて使うこともできます。
ただし、素材が銅なので細くすればするほど簡単に曲がってしまいます。
「曲がる → 伸ばす」を繰り返すと「さらに簡単に曲がる」ようになります。
1本120円程度だから「使い捨て感覚」で使えばよいでしょう。
案外「4 ㎜Φのステンレス棒」を削って「強いこて先」を作った方がよいかもしれません。
このこて先は「足に熱を加えて押し出す」ためだけのもので「はんだ付け」をしないのですから。
●はんだ吸い取り器,0.8㎜Φキリ,ピンバイス,ピンセット
・写真上 → HAKKO SPPON 18G → HAKKO SPPON,こちら
・写真下右 → 0.8㎜Φキリとピンバイス
0.8 ㎜Φキリは足を抜いたあと、スルーホールに残ったはんだを削り取ってホール整形
ピンバイスはこのキリを回すためのもの。 → こちら ※写真は「Anex・№95」
写真中央左の「時計バンドピン抜き」や「精密ドライバー0.6 ㎜Φ」でホールに残った足を押し出すのは厳禁。
残ったハンダと一緒にスルーホールのメッキ部分やランドまで押し出してしまいます。
写真上は「押さえると開く」ピンセット(逆作動ピンセット)。足を上から抜くのに重宝します。
写真下左の「はんだ吸い取り線」より「ハンダ吸い取り器」の方が役に立ちました。
写真下右の「ケミカルペースト」はこて先のメンテ剤です。 → こて先メンテナンス
※逆作動ピンセット → こちら,百均にもあります。
※ケミカルペースト → こちら
※はんだ吸い取り線 → こちら
●拡大鏡
はんだ盛りにこて先を当てたり、足を上から押す場合に必要です。
写真右が時計修理に使う「キズミ」。
眼窩に挟んで使いますが、百均の老眼鏡のレンズを外しても使えます。
倍率は明工舎のもので3.8,4.4,5,6,7倍。ベルジョンは3.3,4,5,6.7倍。
倍率が大きくなればそれだけ対象物に近づかなければなりません。
3倍~4倍のものをお勧めします。
写真のものば5倍で、はんだごての熱さが顔にかかります。
※明工舎のキズミ → こちら
※ベルジョンのキズミ → こちら
※キズミホルダー → こちら
写真左は百均の「メガネ型拡大鏡・2.0倍」と「クリップ拡大鏡・1.8倍」。
重ねたら3.6倍になると試してみましたが「少し小さい」。
なお、クリップ式のレンズの片方が外れていますが、なんの目的もありません。
袋を開けたら外れていました。入手するときは確認必要。
c.部品の取外し
●部品は表側から乱暴に取り外す
丸い電解コンデンサはプライヤーで掴んで捩じり取る。
横長のフィルムコンデンサはプライヤーで掴んで前後に動かして引き抜く。
足はコンデンサから抜けて基板に残ります。
トランジスタは足を切断して取り外す。
とても簡単です。
もちろん、取り外した部品の再利用はできません。
「基板裏側のはんだ盛りを溶かして、部品をきれいに外そう」と考えないこと。
できません。
どこかのサイトに「コンデンサの足は基板裏側で曲げられているので伸ばして外します!」と。
基板裏の曲がった足を伸ばしても、足はスルーホールにはんだでくっついているので外れません。
そもそも、曲げられた足はランド上でハンダに埋もれているので簡単に伸ばせません。
さらに、そのようにコンデンサを無傷で取り外しても、捨てるだけだから何の意味もありません。
●基板に残った足を外す方法
このやり方がどこにも書いてありません。
コンデンサの外し方を説明する動画では、
コンデンサをブライヤーで捻じって取り外したあと、表面実装(足なし)コンデンサの取り付けになります。
どこかのサイトでは「あとは残った足を取り外します!」とだけ。
簡単な「コンデンサの外し方」だけ説明して、苦労する「残った足の外し方」の説明はしない。
みなさん、残った足を外したでしょう?
そして失敗や苦労をして、反省や工夫をしたでしょう?
それを書けば「それを読んだ人が失敗や苦労をしなくて済む」じゃないですか。
ネット情報の価値はそこにあると思うのですが…。
本論に入りましょう。
残った足を取り外すには「スルーホール内の足の周りにあるはんだを溶かしながら外す」ことが必要。
基板(基材)厚は 1.7 ㎜、基板に残っている足は2 ㎜強。
この2 ㎜ほどの足がはんだが固まっていると外れない。
無理やり引き抜いたり押し出したりするとスルーホールの銅メッキやランドまで剥がれてしまう。
残った足の外し方は次の三つ。
a.はんだ盛りにこて先を当てはんだを溶かして、はんだごと残った足を吸い取る。
b.はんだ盛りにこて先を当て、スルーホール内のはんだを溶かして足をグラグラにしてつまみ取る。
c.はんだ盛りにこて先を当て、スルーホール内のはんだを溶かしながら足を上から押し出す
aとbが基本です。
cは最後の手段です。スルーホールを損傷する危険が充分あります。
実際の手順は次のようになります。
①コンデンサ,トランジスタを外す。足は基板に残る。
②裏側のはんだ盛りを溶かして吸い取る。
・運がよければ足も吸い取られて外れる。
・足が少し出てきたら、足の根元にこて先を当ててはんだを溶かして足をつまんで取り外す。
・足が出てこなければ曲がった足を根元から切断。
③表側の足の根元にこて先を当ててハンダを溶かして足をつまんで取り外す。
・足がグラグラになるのでこれをピンセットでつまんで取り去る。
・できなければ、足を短く切って、はんだを溶かして吸い取る。
・裏側からも同じことをする。
・ここまでで取れなければ覚悟を決めて④を行う。
④ホールの根元にこて先、足の頭に先細のこて先を当てて足を押し出す。
・足が少し押し出せたら、②,③を行う。
・これで足が取れないときは足を完全に押し出す。
②と③でほとんどの足は取れます。
④では慎重にやってください。
共晶はんだ(スズ63%・鉛37%のはんだ)の融点は183℃,鉛なしが217℃。
はんだ盛りに当てるこて先が細いのでなかなか溶けません。
しびれをきらして押し込むとスルーホールやランドまで押し出してしまいます。
ポイントは「焦らないこと・無理をしないこと・こじらせないこと」。
そのためには、「少しずつ、少しずつ」。
●基板裏で曲げられた足の処理がネック
a,b,cのどの方法でもネックとなるのが「基板裏で曲げられた足の処理」。
この曲げられた足とスルーホール内の足のつながりを絶たなければ、
スルーホール内の足を「吸い出すこと」も「つまんで外すこと」も「押し出すこと」もできません。
理想は曲げられた足を起こして根元から切断すること。
しかし、足はしっかりと曲げられてはんだに埋もれているので簡単に起こせない。
はんだを溶かしても はんだ が曲げられた足の下に残るので、足をむき出しにすることはできない。
喰い切りニッパー(エンドニッパー)で「はんだ盛りごと削ぎ取ろう」としてもそんな鋭利なニッパーは持っていない。
結局、爪切りニッパーで曲げられた足が埋まっているはんだ盛りに「これでもか!」と切れ目を入れるだけ。
次に取外しの実例を上げます。
※部品型番とその場所については → こちら「
●実例1
・⑭/基板番号Q17,Q18 の 2SA1385 と ⑮/基板番号F1,F2 の 2SK1059
トランジスタは足を切断する。
残った足が短いので迷わず「b.足を上から押し出す方法」を使います。
その前に、基板裏の「曲げられた足の処理」。
爪切りニッパーを上から当てて切れ目を入れる。
これが精一杯。
表側のはんだ盛りにこて先を当て、はんだを溶かして足を上から押します。
必ずしも足に別のはんだこてを当てて押す必要はありません。
しかし、はんだ盛りに当てたこて先は途中で外すので、足に熱を与えるはんだこてで押すのがよいでしょう。
表から押された分だけ裏側に足が出ます。
裏から出た足を、aの方法で「引き抜こう」としましたができませんでした。
出た足を短く切って、cの方法で「溶かしたはんだと一緒に吸い込む」。これもダメ。
結局、先を尖らせたこて先で再び表から押し出しました。
足を押し出したあとに「0.8㎜Φキリ」でスルーホール内に残ったはんだを取り去った状態です。
一カ所、こじらせてランドを剥がしてしまいました。
左上の真ん中のスルーホールです。
こて先で足を押すときに完全にはんだが溶けずに足にランドがくっついて外れたのでしょう。
はんだ盛り(足の根元)にもこてを当てて、スルーホール内のはんだを完全に溶かすことが必要。
スルーホール内のはんだが完全に溶けていれば、足を押すのに力は要りません。
「押すのに力が要る場合」は「はんだが完全に溶けていない場合」です。
絶対に無理をしてはいけません。
このランドは裏面のパターンとつながっておらず、スルーホールと裏面パターンの導通はありません。
表側はスルーホールランドとパターンがつながっています。
そのため、スルーホール表側とトランジスタ足の導通さえ確保すれば問題ありません。
スルーホール内の銅メッキ部分は残っているようなので、このままはんだ付けをしても問題ありません。
●実例2
・⑦/基板番号C19・アルミ電解コンデンサ 16V 47μF
はんだこてで足を押し込んだあと、
足を押し出すのにはんだこてを使わず0.6㎜Φのピンを使ったためスルーホールの表側ランドを剥がしてしまう。
足の周りのはんだを溶かさずに足を押し出せばスルーホールやランドも一緒に外れてしまいます。
「足除去方法」確立する前の失敗事例です。
スルーホールは完全になくなっています。
スルーホール表側とパターンのつながりがあります。
裏側もパターンとつながっているので「スルーホールの代わりになるもの」が必要です。
「0.1㎜ 厚銅板」を使ってスルーホールにする予定です。
●実例3
・⑤/基板番号C40・.アルミ電解コンデンサ 50V 10μF
これも原因は実例2と同じで、足を押し出すのに先端を尖らせたこて先を使わなかった場合。
スルーホール表側ランドとパターンのつながりがあります。
スルーホール裏側ランドとパターンのつながりはありません。
そのため、スルーホール表側ランドとパターンのつながりさえ確保すればいいのですが、
スルーホール表側ランドがなくなっているため、スルーホールを作ってランドにします。
●実例4
・②/基板番号C4・ポリエステルコンデンサ 100V・470pF
aの方法で足が抜けた例です。
足が表側にこれだけ出ていると上から抜けそうですが
曲がっているので足の根元のはんだ盛りを溶かしても足がスルーホールに引っかかって外れません。
そこで裏側のはんだ盛りを溶かして吸い取り。
なんと、足が頭を出しました。
そこで、裏側から足を抜き取ることに。
簡単に抜き取れました。スルーホールには何のダメージも与えません。
次はとなりのスルーホールの足。
裏から押し出せばなんとかなりそう。
表からも顔を出しているから、表から抜いた方がよいかな?
「簡単にいきそう」なときほど「こじらせて」難行。
結局、外れたあとがこの状態。
写真右側のスルーホール下側が欠損。
原因は「スルーホールに足のかけらが残っているのに、0.8㎜Φキリで穴あけをして押し出そうとしたこと」。
キリが中心に当たらず、スルーホール面を削ったのです。
スルーホール表側ランドとパターンはつながっていないけれどギリギリ。
念のためにスルーホールのパターン側にエポキシ線着剤で絶縁層を作る必要あり。
これを裏側から見ると(写真左側のスルーホール)
スルーホール裏側ランドとパターンのつながりあり。
ランドに欠損がないのでこのまま使える。
ただし、部品を仮組みしたときに足と裏側パターンとの導通テスト、表側パターンとの非導通テストが必要。
●実例5
・⑫/基板番号F0・2SK889
スルーホールに足のかけらが残ったまま0.8㎜キリで整形したため足がスルーホールの壁にくっついたままになる。
「足のかけらまでスルーホールから完全に除去しなかった」のが原因。
スルーホール表側ランドとパターンのつながりあり。
足のかけらがくっついている側はパターン側なので導通があればOK。
ただし、部品仮組みのときに導通テストが必要。
裏側は
スルーホール裏側ランドとつながりなし。
スルーホール自体も欠損していないようだからこのままでOK。非導通テストも不要。
●トランジスタの角足は外しにくい
コンデンサの丸足は外しやすいが、トランジスタの角足は外しにくい。
無理をすればスルーホールやランドを欠損して修復が必要になる。
こじれた場合は絶対に無理をしないこと。
次の写真は
・⑯/基板番号Q2・2SA1020,基板番号Q※・2SC2655
足を切断すると
手前の三本、奥の左端の足は上から抜けそうですが、実際に上から抜けたのは手前右端の足だけ。
あとは、すべて「押し出し」です。
なんとかスルーホールを損傷することなく全ての足が取れました。
基板裏側も「損傷なし」。
以上の、実例と失敗例を参考にして基板に残った足を取り外してください。
d.次にやることは
交換する部品はすべて取り外しました。
取り付ける新しい部品は届いています。 → こちら
しかし、部品を取り付ける前に部品取外しで損傷したスルーホールやランドを修復しなければなりません。
また、封止剤除去のときに傷つけたソルダーレジストの部分の導通テストもしなければなりません。
「始動テスト」までにはまだまだ時間がかかりそうです。
再び165号線を試走できるのは「暖かくなる頃」でしょう。
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まずは、プレスとスクワット。
ホームジムならこれで孫の代まで。